私の曽祖父は1937年、日中戦争勃発に伴い陸軍に衛生兵として召集されました。
そしてその約1年後、武漢攻略作戦中に戦死しました。
お仏壇の中に飾られた遺影でしか見たことのない曽祖父。私は子供の頃から、その凛々しくも少し寂しそうな顔をした曽祖父の存在が気になっていました。
ある日、私は曽祖父の戸籍を取って曽祖父の生きた軌跡を辿ろうと思い立ちました。
この時はまだ、不思議な出来事が起きるなんて知らずに。
曽祖父の軍歴が知りたい
まず私は、お仏壇の遺影を下ろして写真を取り出してみました。
おそらく戦死して飾られてから何十年もずっとそのままだったのでしょう。かなり埃がかかっていました。
恐る恐る写真を額から外し、裏面を見てみる私。
しかしそこには、なんて書いてあるのかわからない「○○会」と書かれた三文字だけを残し、他には何も書かれていませんでした。
そのため、その日は何も手掛かりが掴めないまま、悶々としたまま夜寝ました。
すると・・・・
夢に、お仏壇と曽祖父の写真が出てきたのです。
しかし、曽祖父の顔はなんだか怖い顔をしていて、目から光線が出ています。
私が遺影を外していろいろ探ったため、「眠りを妨げるな!」とばかりご立腹だったのでしょう。
朝起きて家族に話したら「お祖父ちゃん怒ってるんだよ。やめなよ。」と言われました。
しかし、曽祖父の軍歴を明らかにするまでは納得ができない私です。
その後は自衛隊の旧軍資料館で戦没者名簿を見たり、戦没者慰霊祭の時に納骨堂の中で骨壺を探しましたが、手掛かりは全くありません。
家族はしまいに「本当は戦争行ってないんじゃないの?」などと言い始める有様です。
それでも諦められなかった私は、インターネットで「戸籍と軍歴証明書から軍歴を知ることができる」という情報を入手しました。
早速区役所に行き戸籍を取り、県庁に行き軍歴証明書を発行していただく手続きに奔走しました。
私はこの時、今まで気になっていた曽祖父の存在がやっと明らかになるという喜びで胸がいっぱいでした。
戦争に翻弄された人生
私はついに曽祖父の軍歴と対面し、彼の生涯を知ることができました。
シベリア出兵の時に衛生兵として教育され、ロシアの陸軍病院で働いていたこと。
その後も何度か地元の連隊で訓練を受けていたこと。
そして、日中戦争時には他県の連隊から出征し、中国で最期を迎えたこと。
軍歴証明書には、戦没した場所や時間、誰が死亡報告をしたかも明記されていました。
これを全て読んだとき、私は涙が止まりませんでした。
二十歳そこそこで初めて軍務に就き、家族ができても度々訓練に行き、そして遠い中国の地で最期を迎えたこと。
彼の人生は戦争に翻弄され、人生の多くの時間を血なまぐさい戦地で過ごしていたことを思うと、どれだけ家族や祖国が恋しかっただろうと思いました。
亡くなる時、どんなことを思ったのか。誰を思ったのか。
無念を胸に死んでいった曽祖父や残された家族の悲しみや苦しみを想像した時、戦争のもたらす本当の恐ろしさを感じました。
夢に出てきた曽祖父
私は今自分が生きていることは当たり前ではなく奇跡だと感じたため、その思いを報告するためお墓参りにいきました。
お墓では、曽祖父の軍歴を知ったこと、私が今いることの感謝、そして平和への祈りを心からお祈りしました。
その夜、私は実に不思議な夢を見たのです。
夢の中で私は居間にいました。
テレビを見たり、ペットと遊んだりしていると、突然玄関の扉が開き、知らない男性が勢いよく部屋に入ってきたのです。
その姿は坊主頭にカーキのシャツ、カーキのズボン、そしてゲートルを巻いています。
彼は眼光鋭く私を見つめ、やがて私を背にして座りました。
私は「今の時代の人ではない」ということだけはっきりわかりました。
そこで、「〇〇連隊(私の地元に駐屯している自衛隊の連隊)の方ですか?」と聞いてみました。
「その連隊は知りません。」
これで自衛隊の人ではないことが明らかになりました。
私は、今の時代のこと、この地域のこと、そして彼について少し質問をしてみました。
彼は自身に投げかけられた質問には「はい」か「いいえ」でしか答えてくれず、私が話すことには「ああ、そうですか。知りませんでした。」と言って何も知らないようでした。
5分程度話したとき、「では時間です。」とだけ言って、また勢いよく家を出て行ってしまいました。
過去の上に今がある
朝起きて家族にこの話をしたとき、「それはきっとお仏壇のお祖父ちゃんだ!そんな人知らないもん!」と言われました。
また「今まではいろいろ調べられて鬱陶しいって思っていたかもしれないけど、こうして全てわかって私の気持ちがお祖父ちゃんに届いたかもね」とも言われました。
曽祖父がいたから祖父が生まれ、父が生まれ、私が生まれました。
もし空襲で家族が全員亡くなっていたら、私は今の時代に生を受けていないかもしれません。
私は曽祖父の軍歴を調べたことにより、私が生きていることは決して当たり前ではなく、奇跡なのだと思いました。
そして、曽祖父が生きた時代や彼らが家族へ託した思いをもっと知りたいと思いました。
夢で少しだけでもお話しできた曽祖父。
彼が生きた軌跡や思いを、私は後世に語り継いでいきたいです。
image source:父のアルバムが語る日中戦争
※写真は日中戦争当時の写真をイメージとして使わせて頂いておりますので、文章と直接の関連性はありません。
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