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石川数正出奔!!戦国時代最大の謎の一つ

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その武士は命より大切な名を捨て、主家を救った。

目次

臣従か抗戦か

明智光秀を討ち主君の仇をとった秀吉は、織田家筆頭家老・柴田勝家を討ち破るなど、天下取りを短兵急に推し進めていた。

これを織田天下の横領と反発した、信長の次男・信雄からの共闘要請を受けて、徳川家康は秀吉と対戦することになった。
織田徳川連合軍は圧倒的に優勢な秀吉軍相手に善戦するも、秀吉の政略によって肝心の信雄が単独で和議を結んでしまい、大義名分を失った家康は秀吉と単独対峙することになる。

秀吉からは武力恫喝を伴った臣従要求があり、天下を掌握しつつある秀吉への臣従か、それとも北条、長宗我部、島津など反秀吉勢力と結んだ抗戦か。家康は選択を迫られた。
徳川家の将来を左右するこの大問題について、ほとんどの重臣が抗戦を主張していた。

石川数正出奔

しかし重臣・石川数正は抗戦に反対した。

数正の石川家は、徳川家が松平と称した古い時代からの最古参譜代の一つである。
10年以上に及ぶ竹千代(家康)の今川家での人質時代、家康より9歳年上の数正は竹千代と生活を共にした。
親元を離れた少年竹千代にとっては兄ともいえる、頼りとする存在だっただろう。
松平元康(家康)19歳の時、駿遠三の太守・今川義元が桶狭間合戦でまさかの討ち死。

元康は今川を見切り領国三河で独立した。
しかし元康の妻と嫡子は未だ駿府にあり、これを計略で見事取り戻したのは数正だった。
その後、数正は織田家との同盟を図るなど外交手腕を発揮したり、数々の戦や内政でも家康の側近として常に徳川の中枢を担った。

信長頓死後、秀吉が勃興する中、秀吉との交渉を担った数正は、秀吉政権の強大さと秀吉個人の大器量を実感したに違いない。
彼は秀吉との武力対決の愚を痛感していたのだ。

それに対し秀吉と直接接することの少ない他の重臣たちは、かつての同盟者信長の一家臣に過ぎない秀吉を見下したのか、その能力を侮ったのか、徹底抗戦を主張した。数正は徳川家中で孤立し、そこに秀吉の巧みな調略が忍び寄った。
秀吉は数正の働きを絶賛し、家臣として所望さえしたのだ。家中で数正の裏切りが取り沙汰され、命の危険さえ感じるような状態になった。
そしてある日、忠臣・石川数正は家族郎党と共に出奔、秀吉側に奔った。

汚名にまみれて主家を守る

家康幼少期から何十年と家康に仕え、筆頭家老の一人として徳川家を支えた、紛う方なき忠臣・石川数正の突然の出奔が、単に秀吉の調略に乗ったものだとは思えない。
ではなぜ数正は寝返ったのか? 

彼我の力量を正確に把握していた数正は、対秀吉強硬策の先に徳川家の衰亡を確実視したに違いない。
冷静で合理的な情勢分析ができない他の重臣たちが主張する、徳川家滅亡必至覚悟の無謀な抗戦を止めるための方策を、数正は血反吐を吐く思いで模索したことだろう。
その結果が主家出奔であった。

徳川家の中枢そのものである数正の寝返りは、徳川の軍法軍略を含む全組織の漏洩を意味し、それは戦術戦略や政略上の致命的後退である。
徳川家中がこれにより秀吉臣従に傾かざるを得なくなると、数正は計算したのではないか。
事実その後、家康は家中の全組織再構築に多大の労力を強いられた。

また秀吉から数正へは当然、徳川家の全てについて下問があったはずだ。
その問答を通して、武力討伐ではない懐柔策の有用性と可能性について、数正は秀吉にそれとなく吹き込んだのではないか。

数正出奔直後、天正大地震が起こった。
この地震の被害は主に秀吉勢力圏内で発生し、軍備軍施設の大被災は徳川征伐を不可能にした。

秀吉の対徳川政策は征伐から懐柔へと大転換する。
臣従のため上京する家康の安全保証として、秀吉は自分の妹を家康に嫁がせた上に老母さえも送り出した。
それまでの強硬姿勢から一転した、この不自然にも見える程の秀吉の低姿勢の裏に、徳川家の脅威と弱点などの実情を巧みに秀吉に吹き込んだ、数正の存在が透けて見える。

真の忠臣・石川数正は裏切りの汚名に甘んじ、命よりも大切な名を捨てて、主家徳川家を守ろうとしたのではないだろうか。

歴史大好きじいさんです。愛すればこその裏切りがあります。

参考
日経ビジネス 覚悟の男 石川数正 加耕三 著
NHK英雄たちの選択 どうした?石川数正 なぜ家康の忠臣は出奔したのか

featured image:中央公論社『普及版 戦国合戦絵屏風集成 第一巻 川中島合戦図 長篠合戦図』(1988)より, Public domain, via Wikimedia Commons

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