「冷戦が失敗した」後の世界が怖すぎる短編漫画「実験」

何かしらの原因で緊張したり緩んだりするのが国家間の関係、空気というものですが、旧ソ連があった時代は「冷戦」ということで、絶えずピリついたムードが漂っていたものです。今でこそ冷戦は過去のものとなりましたが、ではもし冷戦が「失敗」してリアル戦争になっていたらどうなっていたか、その答えの一端が描かれているのが、「地球最期の日」に収録された短編、「実験」です。

1980年代・・・厳戒態勢下の暗い日本の実態がリアル

物語は1987年・・・雪の降る東京で始まります。

しかし、正月が明けて間もないというのに、人々の顔に明るい笑顔はありません。それもそのはず、1980年代に入ってから、世界は地域的核戦争やそれに伴う原油価格の破壊的な上昇、株価の暴落といった事態に見舞われ完全に崩壊していたのです。

まだ大戦争こそ起きていないものの日本経済も完璧に破壊され、東京の三割の人が地方か(戦争が起こった)中東以外の産油国に出稼ぎに出る始末。政府はたまらず国を軍事国家化し、極度の緊張に備えようとしますが、庶民の生活はたまったものではありません。

閑散とした都市の様子、疲れ切った人々の表情が冒頭から何とも恐ろしいですね。

乗客たちは「ソ連の兵士」と戦うことに

突然列車が脱線し、大事故。乗客たちは「ソ連の兵士」と戦うことに……。

しかしそんな最悪の日常を、さらに危険な方向へ導く出来事が起こります。突如、前触れなく電車が脱線し、死傷者が多数出る事態に至ったのです。運転手も死に電車も動かないという極限状態の中、一人の中年男性が場を仕切り始めます。

的確な指示を送る彼は現役の軍人であるようで、しかも参謀本部に詰める前は空挺部隊の将校だったと言います。しかし車外に出て様子をうかがった彼は絶望的な事態を告げます。「ソ連の部隊が攻めてきたぞ!」と。

相手は明らかにエリートの空挺部隊。どう考えても素人の一般人がどうこうできる感じではありません。ある人は正気を失い、またある人は降伏しようと逃げ出します。しかし敵は丸腰の降伏者をも機関銃で仕留めていくような連中で、と、ハードかつ恐るべき展開が延々と続いていきます。

そして主人公たちは決起し、血みどろの戦いに至るのですが、では何故タイトルが「実験」かという部分が気になってくるところです。
ここで詳しく説明することはできませんが、少なくとも人間と言うより組織の極限の残酷さを知ることができたのは確かです。

現在よりも、はるかに「もしも」の危険が高まっていたと言える冷戦時の状況を描き抜いた、入魂とも言える一作です。

(C) 地球最後の日 松森 正・関川 夏央 日本文芸社

 

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