皆さんは2013年公開の犯罪映画、『凶悪』をご覧になりましたか?
白石和彌監督の出世作となった本作は、ノンフィクションベストセラー小説『凶悪 -ある死刑囚の告発-』を下敷きにしており、登場人物には実在のモデルがいます。
今回は映画『凶悪』のモデルとなった通称「先生」の恐るべき人物像や、おぞましい事件の実態に迫っていきたいと思います。
上申書殺人事件の始まり~ある死刑囚の告発が物議を醸す
映画『凶悪』の原作は新潮45編集部編のノンフィクション、『凶悪 -ある死刑囚の告発-』。
作中で扱われる事件は上申書殺人事件の別名でも知られ、2005年に『新潮45』が掲載したスクープ記事によって、一気に世間に広まりました。なお上申書殺人事件は「石岡焼却事件」「北茨城市生き埋め事件」「日立市ウォッカ事件」 の、三件の事件を合わせた通称でもあります。
ある日のこと、語り手のベテラン記者は死刑判決を受けた元暴力団組長・後藤良次に「死ぬ前に話しておきたい事件がある」と面会を求められます。
そこで彼に会いに行った所、後藤は「先生」と呼んで慕っていた不動産ブローカーによる、連続殺人を告発したのです。
先生の本名は三上静男といい、子煩悩な父親として近所で評判の人物でした。一家は閑静な住宅街に建てた豪邸に住み、贅沢な暮らしをしていたそうです。
そんな先生の本性は大金を手に入れる為なら他人を陥れて憚らない、悪辣極まる殺人鬼でした。
後藤は先生の共犯者として多くの犯罪を手伝ってきました。その中には殺人と死体遺棄も含まれます。
彼が告発に至ったきっかけは、片棒を担いだ殺人の報酬を反故にされた恨みと、面倒を見てくれと頼んだ舎弟が使い捨てにされ、自殺に追い込まれたことへの復讐でした。その際先生は舎弟の財産をも没収していたそうです。
ここで覚えておいてほしいのが、後藤もまた先生と同類の悪人であること。
彼の逮捕のきっかけとなった宇都宮監禁殺人事件では、後藤とその仲間が男女4人をアパートの一室でリンチにかけ、女性1人に大量の覚せい剤を打って中毒死させたのち、残る3人をハサミでメッタ刺しにし部屋に灯油をまいて逃走しました。
直接後藤と揉めた被害者は手足を縛られた状態で川に放り込まれ溺死しており、極めて残忍な犯行と言わざるを得ません。
第一の事件 石岡市焼却事件
先生が関与した事件を時系列順に整理していくと、最も古いのが石岡市焼却事件になります。1999年11月中旬、三上は60代の男性と金銭トラブルを起こしました。原因は借金の返済の遅延で、それに怒り狂った三上は男性をネクタイで絞め殺したのち、茨城県石岡市にある知人の会社に運び、敷地内の焼却炉で廃材と一緒に燃やしてしまったのです。被害者の詳細は現在に至るまで判明せず、本件は関係者の供述で初めて明らかになります。
この事件によって億単位の金を手に入れた三上は、以降味をしめて犯行を重ねていきました。
余談ですが、彼の残虐性は幼少期から発露していました。子供時代の三上が近所の犬猫を殺すのを楽しんでいたエピソードは、シリアルキラーの生い立ちを連想させますね。
人殺しに手を染める前から取り立ての苛烈さが一部で恐れられていたことも、鬼畜の人となりを語る上で避けて通れません。
第二の事件 北茨城市生き埋め事件
第二の事件は1999年11月下旬に発生しました。被害者は70代の高齢男性です。彼が所有する資産に目を付けた三上は、男性を水戸市の駐車場で拉致したのち、北茨城市の敷地に運んで生き埋めにしました。後藤も殺人と遺棄を手伝っています。
事件後の三上は、男性が持っていた土地を自分の名義に変えて売却しました。この事件で三上が手に入れた金額は7000万円に上ります。
記者の調べによると男性は実家を出た後、数十年に亘りアパートで一人暮らしをしていたそうです。肉親と疎遠な老人に近付いて土地や金を騙し取るのは、三上が最も好んだ手口でした。
この事件の数年後にも三上は一人暮らしの男性を狙い、セルフネグレクトの末の孤独死に見せかけて金を奪っています。
被害者はバブル崩壊後にリストラされた元会社員で、家族の為にと購入した一戸建てのローンを払い切れず妻と離婚してから平屋に移り住み、酒とパチンコに溺れる孤独な晩年を過ごしていたようです。そのせいもあって少額のパチンコ代を貸し、たまに酒を差し入れてくれる三上をすっかり信頼し、最後には骨の髄までしゃぶり尽くされてしまいました。
日立市ウォッカ事件
第三の事件は2000年7月中旬に起きました。被害者は茨城県阿見町在住、当時67歳の元カーテン店経営者です。
被害男性は店を潰したのち、酒の飲みすぎによる糖尿病と肝硬変を患っていました。
彼の介護に困った妻と娘夫婦が知り合いに相談した所、それが三上の耳に届いて殺人計画が持ち上がります。
三上は男性を日立市内の事務所に監禁し、1ヶ月に亘って大量の酒を与え続けたのみならず、丸坊主にして物置に閉じ込める、裸に剥いた全身に油性マジックで落書きをするなど、身体的心理的虐待の限りを尽くします。男性が排泄物垂れ流しになると、家族にオムツを用意させました。後藤とその愛人も面白がってリンチに加担しました。
事件当日、三上と後藤は男性を料理屋に連れ出し「好きなものを食え」と言いました。早い話が最後の晩餐です。
そこで男性が「やっぱり死にたくない。母ちゃん(妻)に会いたい」「お盆に墓参りをしたい」とごねだすと、気前よく振る舞っていた三上はたちまち激昂し、男性に皿を投げ付けたり熱湯を浴びせるなど、店員が見ている前で激しい折檻を加えました。
その日の夜……三上は自宅リビングに男性を連行し、「死にたくない」と必死に懇願する彼に電気ショックを与え続けました。上階で家族が寝ているにもかかかわらずです。
そして最後の仕上げとばかりに、長時間の拷問でぐったりした男性に、高アルコール濃度のウオッカを無理矢理飲ませたのです。
三上たちの狙い通り、男性はアルコール中毒で死にました。遺体は七会村(現城里町)の林道に遺棄され、アル中老人が徘徊の末に行き倒れたように見せかけます。
警察は男性の死を事件性なしと判断し、遺族は1億円の生命保険を手に入れました。三上はこの大部分を取り上げ、後藤たちと山分けしたと見られています。
日立市ウオッカ事件は上申書殺人事件の中で、唯一立件できた事件です。この事件の再捜査が実を結んで三上は逮捕され、後藤は可愛がっていた舎弟の復讐を果たしました。
裁かれざる悪が潜む、上申書殺人事件の闇深さ
以上が世間を戦慄させた上申書殺人事件の経緯です。ここまで書いて、筆者にはある疑問が生まれました。三上と同居していた家族は、自宅リビングで繰り広げられた凄惨な拷問と殺害に、本当に気付かなかったのでしょうか?いかに豪邸といえど、被害男性の悲鳴や物音が全く届かなかったとは考えにくいです。
三上の妻は「夫はそんな人じゃない」と否定したものの、家族ぐるみで見て見ぬふりしていた疑惑がどうしても拭えません。
付け加えると、日立ウオッカ事件には後藤の愛人も関わっています。
後藤と交際中の彼女は度々事務所に出入りし、そこで「カーテン屋」と呼ばれる老人を目撃しました。さて、愛人は通報したか?答えはノー。彼女は三上や後藤にならい被害者をさんざんこき使った挙句、事件後に三上に密会し、まんまと口止め料をせしめていたのです。
三上や後藤の邪悪さは疑うべくもないにせよ、「先生が娘に高級ランドセルを買ってくれた」と自慢する愛人の方がより醜悪に思えるのは、はたして筆者だけでしょうか?
※画像はイメージです。


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