この話は私が幼い頃から、亡くなったおばあちゃんから何度も聞かされた話です。
おじいちゃんが出征していて、おばあちゃんは一人で家を守っていたそうです。
おじいちゃんとおばあちゃんは仲が良く、おばあちゃんは毎日毎日、おじいちゃんの無事を祈っていたそうです。
そんなおばあちゃんの指には結婚指輪がありました。ずっとつけたままだったらしいのですが、ある日、野菜か何かを洗っていたら、知らないうちに結婚指輪が抜けてしまい、排水口に流されていってしまったのです。
おばあちゃんは、指の入る範囲で排水口の中を必死に探りましたが、とっくに流されてしまっていて見つかるはずもありませんでした。
おばあちゃんは相当ショックを受け、もしかしたら戦地にいるおじいちゃんに何かあったのではないかと心配で夜も眠れなかったとのことです。
そして、おじいちゃんにはお姉さんがいました。この人が、まあ漫画のようにわかりやすいいじわるな小姑で、おばあちゃんは新婚の頃から何かと嫌みなどを言われていたとのことです。
そのお姉さんが、おばあちゃんが結婚指輪をなくしてしまったことに気づいたのでさあ大変。
結婚指輪をなくすなんて縁起が悪い、お前のせいで弟は帰ってこなくなるかもしれない、そうなったらお前はどうするつもりだ、どうやって詫びるのかと顔を合わせる度にねちねち言われ続けたそうです。
お姉さんの嫌みに腹を立て、悲しみつつも、わざとではないけれど、よりによって結婚指輪をなくすなんて、とおばあちゃんはものすごく後悔したそうです。
もしかしたら戦死してしまうのではないか、そうでなくても大怪我や病気になってしまうのでは、と泣いていたとのことでした。
そして終戦を迎え、おばあちゃんは復員があると聞き、おじいちゃんがいるかもしれないと駅へ駆けつけたそうです。でも、結婚指輪をなくしていたこともあって、もしいなかったら、と思うと怖かったと。
そして駅では、おじいちゃんを見つけることができませんでした。悲嘆にくれるおばあちゃんの肩を、誰かが叩きました。顔をあげると、見知らぬふくよかな男の人。
なのに、その人はおばあちゃんをいきなり抱き締め、おばあちゃんの名前を呼んだのです。
おばあちゃんはびっくり。
顔は別人なのに声はおじいちゃんだったのです。
よくよく話を聞くと捕虜になってしまったおじいちゃんですが、そこの収容所の待遇がよく、ごはんも美味しかったおかげでかなり太ってしまったとのことです。
おばあちゃんは結婚指輪をなくしてしまったことをおじいちゃんに謝りましたが、気にしないでいいと笑ってくれたとのことでした。
毎日毎日自分を責め、おじいちゃんをものすごく心配していたおばあちゃんですが、あれはいま思い出すと笑い話だと、それこそ素敵な笑顔で話してくれたのでした。
※画像はイメージです。
思った事を何でも!ネガティブOK!