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森鴎外に始まる帝国陸軍の独善と頑迷

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日本敗戦への道は明治初期には始まっていた。

目次

脚気問題

日清戦争における脚気患者 総数41,431名、内死亡 4,046名。
これは日本陸軍省医務局公式記録である。
陸軍の動員総数約20万人の2割ほどが脚気を患ったのだ。

陸軍の脚気罹病問題は日露戦争でもあり、また両戦役以前の平時から日常的に存在した。
例えば明治16年には、陸軍兵員総数約4万人の内1万人弱が罹病、235人が死亡しており、これは国内平均に比べると約20倍の高死亡率だ。
一方、日清戦争中の海軍の脚気患者はたった87名で死亡は無く、この差は兵食の主食の違いによるものだった。

脚気の原因はビタミンB1の不足である。
このビタミンが少ない白米のみを主食としていた陸軍に対し、海軍ではこれが豊富なパン食を積極的に導入していたのだ。

脚気の原因に関する論争

ビタミンという栄養素が未発見だった当時、脚気の原因は不明で、陸軍省医務局が推定した病原は細菌だった。
この頃、ドイツで様々な細菌が次々と発見されて、それに由来する病気の予防治療法開発が進み、細菌学が最先端医学として確立されていた。
日本陸軍は脚気病原解明を、万能の最新医学と目される細菌学に依って細菌説をとった。
結果陸軍では白米の兵食は維持されたのだ。

片や海軍ではパン食・肉・乳製品を兵食に導入していた。
欧米諸国海軍で発病数がごく少ない事実から日欧で大きく違う食生活に着目し、栄養障害が原因と推測した海軍省医務局は、遠洋演習練習艦での西欧食導入実験から好結果を得ていたのだ。
そして日清日露の両戦役でその成果が両極端な違いで現れたのである。

しかし細菌学を医学最高峰として信奉する陸軍はそれでも細菌原因説に固執した。

一旦は収まった脚気問題

陸軍では現場兵営の経験則から、各兵団ごとに米麦混合兵食の導入が進んで発病が激減していた。
明治17年まで罹患者1万人前後、死亡者200人ほどだったものが、18年に半減した後に年々減少傾向を示し、25年には罹患者66人、死亡者無しとなったのだ。

にもかかわらず陸軍省医務局は白米兵食を持続しそのまま日清日露戦争を戦った。
平時には陸軍の兵食管理は各師団管轄だったので、各々の現場判断で脚気に効果有りの「噂」がある麦飯を試験導入することができた。
だが戦時の兵食は兵站の一部として大本営が管轄する。
従って規則にある白米中心の兵食がそのまま実施され、せっかく終息していた脚気罹患が再燃したのである。

エリート軍医・森林太郎(森鴎外)

森林太郎は東京医学科予科(東大医学部前身)を、19歳の最年少記録で卒業した秀才である。
森は軍医として陸軍入省後、医学先進国ドイツに留学して世界の最先端医学・細菌学を学び、最終的には軍医最高位である中将相当官・軍医総監を極めた。
即ちエリート中のエリートである。

細菌学を修めた森は脚気原因細菌説の急先鋒だった。
彼は留学中に日独両軍の兵食比較から白米の優れた栄養を論じ、帰国後にも白米の栄養的優秀性を実験実証するなどして、海軍の栄養原因説が非科学的であると説いた。

これは陸軍省医務局の白米主義を強力に後押しした。
海軍のパン食導入や陸軍現場部隊独自判断の麦飯導入による、原因不明ながらも脚気病激減の事実があるにもかかわらず、森ら陸軍医務局首脳は細菌説に拘泥して白米主義を押し通した。

彼らは秀才エリート官僚にありがちな独善と頑迷に囚われていたのではないか。
兵員の健康確保と健全な陸軍保全のためには、現実に成果を上げている方策を、彼らはとりあえずは素直に認めねばならなかったはずだ。
ところがエリート集団である彼らは、自論こそ唯一の正論という独善と、現実の状況を無視して認めない頑迷さに囚われていたのである。

後年、情勢を自己に都合よく解釈する独善と、頑迷な武力第一主義によって、帝国陸軍首脳は国を破滅寸前にまで追い込んだ。
帝国陸軍の度し難い頭の固さは、明治初めには既に萌芽していたようである。

参考:
japanese wiki corpus 森鴎外
統計図書館コラムno.0006 統計学の本質に関する論争 森鴎外
onoken novelles 森林太郎と陸軍の脚気被害についての通説は本当か
日清日露戦争と脚気 和光大学リポジトリ

歴史大好きじいさんです。
頭の固いトップは困りものです。

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