これは、私が離婚後に子ども三人を連れて引っ越したマンションで体験した出来事です。
引っ越し先のマンション
そのマンションは3Kの間取りで、駅から徒歩2~3分。窓を開けるとホームが見えるほど近い場所にあります。
四人で暮らすには正直なところ手狭で、浴室やトイレが古く、清潔感があるとは言いがたい。でも、当時の生活を考えると立地の良さは大きな魅力、内見したその日に契約を決めました。
子どもたちも「お母さんが気に入ったならそれでいいよ」と誰一人文句を言うことはありません。
入居後、部屋の使い方を決めました。三部屋のうち二部屋を子どもたちの部屋、残り一部屋はキッチンと隣接していたので、昼間は共用スペース、夜は私の寝室として使う事にしました。
住み始めて一か月ほど経った頃、トイレの壁にシミが浮き出てきました。どす黒くて、掃除をしても消えません。
建物の古さによるものだろうと思う一方で、なんだか説明のつかない違和感を感じ、気味が悪い。
子どもたちは気にならないようですし、健康に害があるものでもないので、生活に余裕ができて来たら不動産屋に相談いてみようと思ったのでした。
意外な事を知った
ちょうどその時期、母子家庭向けの助成制度の認定がなかなか下りず、市役所に問い合わせたところ、意外なことを告げられました。
「この住所には、届け出のあった四人以外に、もう一人男性が住んでいることになっています」
市役所の方がいうには、前の住人の住民票がそのまま部屋に残っていて、結果的に私たち親子が引っ越してきて5人で住んでいることになっているというのです。
あわてて不動産屋に問い合わせると、「前の住人はすでに転居している」という証明書を出し、市役所で住民票を抹消してもらうことで解決しました。
不動産会社によれば、前の住人は問題の多い方で、家賃滞納もあり、やや強引な形で退去してもらったとのこと。
その後の行き先やどうしているかは解りませんが、突き止める術も意味もありません。
こんな事もあるんだな・・・とすこし関心しなたら、呆れてしまったのでした。
気持ちがわるい
毎日忙しく過ごしているうちに、気がつけばそのマンションに住み始めてから一年ほどが経っていました。
そんなある日、娘が自室でスマホアプリを使って遊んでいたときのことです。
そのアプリは、顔を動物の顔に変換し、音楽に合わせて踊る様子を撮影できるもの。その日は馬の顔に変換して、シャンシャンと楽しげな音楽に合わせて踊る動画を撮っていました。
娘がその動画を見ていると、自分の顔の少し上に、もう一つ小さな馬の顔が映っていることに気づいたそうです。
最初は音楽に合わせて一緒に動いていましたが、途中でその小さな馬の顔だけが動きを止め、娘の方を向いたまま、すっと消えていきました。
撮影していた部屋には娘一人しかおらず、背景に人や物が映り込むような状況でもありません。
驚いた娘は、何度もその動画を見返しましたが、やはり自分とは別の何かが映っているように見えます。
「誰もいないはずなのに、どうしてこんなものが写っているのだろう」と怖くなり、その日は自室を離れて、弟たちの部屋で眠ったそうです。
翌日になってから、私もその動画を確認すると、たしかに娘の顔とは別に、もう一つ小さな馬の顔が映っていました。
娘はとても気味悪がっており、以前の住人のことに不自然な点があったことや、トイレに残っていたシミのことも重なり、私は遠回しに事故物件ではないのかと不動産屋に相談してみると、笑われて「そのような事実はありません」と言われるだけだったのです。
気持ちの悪さは残りましたが、生活をすぐに変えることもできず、引っ越しをするほどの余裕もありません。
なかば仕方ない、気のせいだと住み続けることしかでなかった。
ある休みの日
それから数か月後のことでした。
たまたま平日が休みになり、子どもたちは学校へ行き、私一人で留守番をしていた昼間のことです。突然、玄関の呼び鈴が鳴りました。
訪ねてきたのは、初老の男性でした。
私の知らない名前を名乗り、「この住所に住んでいるはずの方に会いに来た」と言います。
男性は、市役所の高齢者支援窓口からの委託を受け、様子を見に来たのだと説明しました。数か月ほど前から、その人物と突然連絡が取れなくなり、安否確認のために訪問しているとのことでした。
告げられた名前には、聞き覚えがありました。
たしか、この部屋に以前住んでいた住人の名前だったと思います。
私は、一年ほど前から家族でこの部屋に引っ越してきていること、前の住人の住民票が残っていたため、手続きをして切り替えたことなどを説明しました。
しかし男性は、「数か月前までは電話で連絡が取れていた」と言いました。ところが最近になって電話をかけても繋がらなくなり、市役所からの依頼を受けて安否確認に来ているのだそうです。
そして、市役所からの委託である以上、その方が現在もこの住所に住んでいるという前提で訪問している、と説明されました。
もし住民票がすでに別の住所へ移されていれば、その時点で市役所には情報が入るはずであり、このような訪問自体が行われることはない、ということでした。
その話を聞いた瞬間、背筋が冷たくなりました。
市役所、不動産屋、そしてこの男性。
いったい誰が、どこで、何を間違えているのか。あるいは、誰かが嘘をついているのではないか?
前の住人は、本当にここを出て行ったのでしょうか。それとも、まだ「住んでいることになっている」だけ?
私は、誰を信用すればいいのか分からなくなっていました。
すくなくとも
私自身が少し神経過敏になっていることを察した上司が、話を聞いてくれました。
物件そのものについては詳しくないものの、あのマンションを扱っていた不動産会社は、あまり評判が良くないという話です。
見かねた上司が、知り合いの不動産会社を紹介してくれたおかげで、今住んでいたマンションからそれほど離れていない場所に、条件のよく似た物件を見つけることができ、引っ越すことになりました。
その時に不動産会社が調べてくれた話では、いわゆる事故物件には該当しないだろう、とのことでした。
仮に室内で人が亡くなっていた場合、警察の介入や死亡届の提出など、何らかの公的な記録が必ず残るはずです。そうした痕跡が確認できない以上、少なくともこの部屋で孤独死が起きていた可能性は低いと考えるのが妥当だと言われました。
また、市役所の高齢者支援窓口の調査についても、委託業者による訪問であることから、役所側の手続きミスというよりは、業者側の確認不足や対応の遅れによる可能性が高いのではないか、という見解です。
それでも、いくつかの疑問は残ったままです。
あの日、あの男性は一体誰と連絡を取っていたのでしょうか。
そして、電話口で応答していた元の住人とされる人物、どこにいたのでしょうか。
あのマンションで何が起きていたのかは、今となっては分かりません。
ただ、少なくとも私たちが落ち着いて暮らせる場所ではなかった、ということだけは確かです。
何かしらの事件やトラブルに巻き込まれる可能性を考えると、無理をしてでも引っ越した判断は、間違っていなかったと思っています。
※画像はイメージです。


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