スフィンクスの問いかけは有名な謎かけ(リドル)の一つである。
「朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足、これは何か?」
間違えれば喰われてしまう。
一方、オイディプスが正解を出した時には、スフィンクスは自ら命を絶ったとも言われる。
おかしな話である。
正解を出されようと、そのまま気にせず食い殺せば良い。
誇りが傷つくと言って、死ぬほどの事もない。
制約と誓約
漫画『ハンター×ハンター』の念能力は、これを上手い事やっている。
既存の物語に見られるこういう「よく分からない無駄な行動」を、「誓約を付けると能力が上がる」というルールに落とし込んでいる。
すなわち、件のスフィンクスの場合は、何らかの能力と引き替えに、このリドルに勝つ事が誓約とされていた、という事だ。
若さの維持などが能力なら、自ら命を絶つというその後の流れも理解は出来る。
念能力の理屈は、かなり応用力がある。
ロケットパンチと叫ぶのも、シャアが迷いを捨てないのも、光希が何かというと遊の浮気を疑ってOPが流れるのも、みんな念能力の誓約で説明出来る。
シャアが迷いを捨てた瞬間、念能力「好敵手の欺瞞(ライバル補正)」が力を失い、天パの巴投げで頸椎損傷、ゲームセットになるのだ。そもそも、ヘルメットがなくて即死している可能性もある。
悪魔の契約の必然性
残念ながら古代エジプトの頃は、冨樫義博はまだ『ハンター×ハンター』を描いていない。多分、『狼なんて怖くない!!』とかの時代なので、別の理屈を考えるべきだろう。
リドルで結果が左右されるというのは、神話や伝承のテンプレである。
大工と鬼六では、鬼六の名前当てになっていたし、赤い紙青い紙は結局どちらでも死ぬように見えるが、結果は一応変わっている。舌切り雀も、自分の領域に誘い込んでいながら、二択のつづらリドルによって間接的にババアを殺害している。
共通しているのは、ルールを反故に出来る筈のパワフルな存在が、それをせず回答を行儀よく待つ、という事である。
理解の補助線として、悪魔がある。
いわゆる、悪魔との契約だ。
悪魔はたった独りの魂のためにも契約を結ぶ。無闇に魂を狙って、自らの手で虐殺することはない。
この点で言えば、問答無用で人命を藁のように刈り取ってまわったコンキスタドールや、「アヘン危険性クイズ」に正解した清国を、武力行使で黙らせたイギリスなどに比べ、聖人レベルに理性的だ。
ゲームマスター
ここまで来て、1つの結論が見えて来る。
彼らはつまり、裏ルールを課す上位存在に従っている、という事である。
キリスト教の悪魔の場合が理解しやすい。
YHVHは、全知全能だから悪魔の行動も当然、掌の上である。
そしてYHVHは、自分に似せて作った人間を贔屓している。雑に殺されるような事は許さない。
従って、悪魔が自分の特殊能力を頼りに人間を大量虐殺すれば、YHVHによって直接存在を抹消される。
だからこそ、悪魔は直接人間を攻撃しない。
ここまでは分かる。
代わりに、リドルや契約を使う。
ここが妙だ。リドルは結局、人間を陥れて殺傷するためのものだ。
神が許すのは理屈に合わない。
そうでもない。
人間は、その判断も贔屓されているのだ。
すなわち、最大限、人間の自由意志は尊重し、明確にルールを逸脱した時にだけ、神が介入する。
従って、人間が望んで悪魔に魂を売るなら、その取引自体は否定されない。
だからこそ、悪魔は契約にこだわる。
スフィンクスも同様だ。
周囲の噂で存在を知りながら、スフィンクスの前に来たなら、既に「解くか、喰われるか」の二択に回答する契約を結んだ状態だ。
言霊による制約
一神教でない場合はどうか?
神道の場合、第三者は必要ない。
言霊が力を持つ世界観である。
声に出したリドルは、それ自体が能力バトルのようなものだ。
「不義の子を身籠もっているなら灼かれ、さもなければ灼かれない」と言って火を点ければ、燃えさかる産屋の中で出産も出来る、そういう力が言葉に宿っている。
従って、嘘を口にすれば、それは自らを引き裂く刃となって祟る。
これは、念能力の誓約と近い。
言霊が有効であれば、どちらを選んでも死ぬ赤い紙と青い紙のような問いかけも、「紙は必要ない」と言い切った時点で手出し出来なくなるだろう。
勿論、その後、ポケットティッシュなど使って、言葉を翻してはいけない。「今回に限り」と言った方が良かったかも知れないが、後の祭りだ。
スフィンクスをどう避ける?
従って、ハメ技のようなリドルを回避する方法としては、
- 妙な噂のある場所に近寄らない
- 意図せず遭遇した場合、そのリドルへの回答に同意しない
この2点が重要だ。
リドルに回答せず、道を通りたがるような話を持ちかけた時点で、契約が始まる可能性もある。
リアクションを求めようとしつこく食い下がったら、それが契約トリガーになる可能性が高い。
結局、徹底して無視して立ち去るのが正解だ。
これは、セールス電話はただの一言も返事せず切るとか、迷惑メールに絶対返信しないというのと、同じようなものである。
それでも連中が無理矢理家に入り込んで金品を奪うなら、即刻警察が介入するのも似ている。
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