日本海海戦で有名な東郷ターンと丁字戦法。
その真の姿は長く現れず、事実でさえなかったかもしれません。
機密明治三十七八年海戦史
通称「極秘戦史」と呼ばれる、防衛研究所所蔵のこの資料は、
昭和40年代に全150巻が初めて一般公開された旧海軍の内部資料です。
そしてこの戦史には、日本海海戦について丁字戦法は全く書かれていません。
一方、日本海海戦の前哨戦ともいえる黄海海戦では、丁字戦法が明記されています。
しかしこの時の丁字戦法は敵艦隊が逃げたため成功せず、速力の優越で追い付いて海戦に持ち込めました。
つまり旧海軍の正式資料では、日本海海戦において、丁字戦法は使われなかったということになります。
敵艦位置の把握
東郷ターンは巷に信じられているように、丁字戦法を狙ったものではなかったということになります。
しかし敵前の回頭は事実として記録が残っています。
哨戒のための飛行機やレーダーがないこの時代、敵艦発見は散開した艦艇に頼っていました。
そしてそれらの艦艇からの敵艦位置・運動の情報が、間断なく旗艦三笠の無線室に入電していました。
しかしその情報がそれら艦艇により食い違いがあり、自艦隊も高速で移動する中、どれが正しいのか判断に迷ったと、無電室担当の清川少尉の述懐が残っています。
敵艦隊を視認できた時点では、有利な丁字戦法に持ち込めるかどうかは分からない状況になっており、もし不成功の場合は、黄海海戦のように敵を逃がす可能性も少なからずありました。
東郷ターンの真実
東郷はしばらく敵と反航して進み、敵射程内で驚くべきUターンを敢行しました。
いうまでもなく回頭中の敵からの集中砲火は必至でした。
しかし敵射程外まで反航を続けた後の回頭や不確かな丁字戦法では、黄海海戦の二の舞になってしまいます。
東郷が考えたのはZ旗の示す通りバルチック艦隊の撃滅で、そのために必要なのは、現状の風向きや速力差などを勘案した時、最有利な状況で砲戦を確実に敢行できる並航戦でした。
危険を冒した敢えての敵前回頭、東郷ターンはそれが目的だったのです。
現在、伝わっている歴史が、実は事実ではなかったということはしばしば起こります。
※画像はイメージです。
参考:WEB歴史街道 勝利を呼び込んだ東郷ターン TOGO and the Battle of Tsushima ノエル・F・ブッシュ著 川口正吉訳
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