家計簿をつけ始めたのは、今年の春です。社会人三年目にもなって、給料日の一週間前に毎回口座が空になるのがさすがに恥ずかしくなったので。アプリは面倒で続かないタイプなので、ノートに手書きで、レシートは封筒に突っ込んでおいて、日曜の夜にまとめて書き写すというやり方にしました。
異変に気づいたのは六月の日曜です。
封筒のレシートを日付順に並べていたら、私の記憶にない日が混ざっていました。火曜の夜十一時過ぎ、最寄りのコンビニで「のり弁当」。
火曜の夜は、たしか残業でぐったりして、帰ってすぐ寝た日です。それにそもそも私、のり弁があまり好きではありません。白身魚のフライがふにゃっとしているのが苦手で、コンビニでも絶対に選ばないんです。
カード明細を見ても、その日の決済はありませんでした。レシートには「お預り」と「お釣り」の表示があるので、現金で払ったことになっています。でも財布の中身を数えたら、ノートの残高と合っていて、一円も減っていない。レシートだけが、いつの間にか封筒に入っていました。
気持ち悪いなと思いつつ、その日はそれで終わりにしました。
ところが翌週の日曜、また一枚増えていました。木曜の夜、のり弁当。その次の週は月曜と土曜で二枚。だんだんペースが上がっていって、七月には、ほぼ一日おきになっていました。
さすがに怖くなって、台所の引き出しを開けてみました。割り箸が入っていました。ぎっしりです。私はコンビニで割り箸を断る人間です。マイ箸をカバンに入れているので、家に割り箸があるはずがないんです。輪ゴムでまとめた束がいくつもできていて、数えたら、レシートの回数の倍ありました。一回につき二膳、ぴったり計算が合うんです。私は一人暮らしで、お弁当は一人分しか買いません。二膳という数字だけが、どうしても引っかかりました。
その夜、玄関のドアをなんとなく開けてみました。理由は自分でもよくわかりません。
外の通路の、ドアのすぐ脇に、弁当の空の容器が置いてありました。ふたに商品シールが貼ったままで、「のり弁当」と印字されていました。容器にきちんとふたが閉まっていて、その上に割り箸が二膳、袋に入れて置いてありました。使われた形跡がないんです。
私はその容器を、三十秒くらいぼんやり眺めていたと思います。それから、朝のゴミ出しのときに、いつもこの場所に何かが置いてあった気がする、と思い出しました。マンションの共用廊下だから、誰かが出したのだろうと、ずっとそのまま通り過ぎていたんです。何週間も。
良く見れば洗ってあるからありがたいんですけど、そこじゃないですよね。
友達にこの話をしたら、めちゃくちゃ笑われて、「あんたそれ、飯食わせてる相手がいるんだよ」と言われました。全然笑えませんでしたが、たぶんそのとおりなんだと思います。
先週の金曜の朝、容器の上に付箋が貼ってありました。丸っこい、ちょっと子どもみたいな字で、こう書いてありました。
「ごちそうさまです。つぎは からあげ弁当 がいいです」
私はその日、仕事帰りにコンビニに寄りました。買いました、からあげ弁当。割り箸は、二膳もらいました。
なんで買ったのか、いまだにうまく説明できません。ただ、断ったらどうなるのかを考えるほうが、ずっと怖かったんです。
今夜も、玄関のドアの前に、弁当を置いています。
※画像はイメージです。


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