僕は高校卒業とともに自衛隊に入隊したのですが、雰囲気や訓練に馴染めず落ちこぼれ、やる気が出ないままに訓練したのが原因だったのだと思います。
訓練中に大怪我負ってしまい、そのまま自衛隊を辞めました。
なにもかも中途半端でなにかの資格もありませんが、元自衛隊で体力があるだろうと知り合いに紹介されて、警備会社に再就職できたのです。警備員の仕事は退屈ですが、自衛隊と比べると楽だし、うるさく言ってこない上司がいないのでストレスをあまり感じません。
受付のA子さん
入社して数か月ぐらい経った時です。
総務のA子さんが、突然「Bさんって自衛隊だったんすか?」と話しかけてきて、僕はビックリしましたが「そうです」とそっけなく答えました。
すると「サバイバルゲームは興味ありませんか?」と聞いてきたので、「僕はそういうのには興味ないんですよ」と断ったのですが・・・。
それをきっかけにA子さんが親しげに話しかけてくるようになり、僕もまんざらではないので次第に仲良くなっていったのです。
話をしている中で、どうやら彼女は当時流行っていた事もあってサバイバルゲームに夢中だと知りました。
一人で定例会に参加しているそうで、身近で一緒に行ってもらえる人を探していたのですが、会社の人たちは年配の方ばかりなのでたまにしか付き合ってくれず、僕に白羽の矢が立ったという訳です。
すこし納得がいかない気もしましたが、そういう事ならとサバイバルゲームに参加することにしたのでした。
二人の距離
自衛隊のトラウマもあってやや渋々でしたが、やってみると意外に面白く、ひさしぶりに笑顔になれたのです。
それからというもの、A子さんと毎週のようにサバイバルゲームに参加したり、模型店に行ってエアガンや用品について話したり、シューティングレンジで遊ぶようになりました。
僕とA子さんは、雰囲気を察した会社の人から「お前ら付き合ったのか?」と、からかわれるぐらい二人の距離は近づいていったのです。
ある時ついに、A子さんから告白されました。
しかし、僕には高校の頃から付き合っていて、自衛隊を辞めたときも僕の事をサポートしてくれた彼女がいます。
A子さんにその事を話して、「仲の良いサバイバルゲーム友達でいてください」と告げました。
彼女はすこし涙ぐんでいましたが、解ってくれたようです。
嫌がらせはやっかみ?
その頃から、僕のエアガンのバッテリーが抜かれていたり、照準が狂わされたりと、小さな異変が起こるようになりました。
行きつけのサバゲフィールドではカップルの参加者いないので、僕の事を面白くなく思っている人のイタズラと思い、A子さんに相談すると、「大した事じゃないから、気にしないで良いよ」と。
僕も「そうだよね」と言って、無視するようにしたのですが、その後もイタズラは続いていったのです。
些細なイタズラですがストレスを感じ、最近ではサバイバルゲームの度に体調が悪くなっていったのでした。
そんなある日のサバイバルゲームのお昼休み、いつものようにA子さんと手作り弁当を食べていた時。
突然、吐き気を眠気に襲われて倒れて倒れてしまったようで、気がついたら病院のベットに寝かされていました。
どうやら「急性アルコール中毒」だというのですが、一滴もお酒は飲んでいません。
意識が戻ると横にはA子さんが付き添っていて、間もなく、僕の彼女も病院に到着しました。
僕はA子さんに「彼女です」と紹介しようとした時に、A子さんは「この間はどうも」というのです。彼女の方を見ると顔色は青ざめています。
このやり取りを不思議に思った僕は帰宅後、彼女に話を聞きました。
思いもよらない事
彼女は僕が仕事でいない時、A子さんが突然うちに尋ねて来て「Bさんと別れない」と怒鳴りつけられたらしい。
僕の頭の中は「??」でした。
「なんで、話さなかったの?」と聞くと、返答はしないで彼女は話を続けていきます。
「貴方は付き合いが長いだけでBさんの事を全く解っていない」
「私はBさんの事を本当に愛しているから、貴方は別れなさい!」
「じゃないとBさんに災難が起こる。そしてこの話を彼にしたらもっと不幸な事が起こるから」
話を聞いた僕は本当に頭の中は混乱しました。
「A子さんが何でそんなことを?どういう理由で?」と聞くと、すこし唖然とした顔で見返されたのです。
すこしの沈黙の後にため息混じりで話を初めます。
「A子さんはあなたの事が好きになってしまったけれど、私いて存在が邪魔なの」
「気持ちを向けてもらいたくて、嫌がらせをして相談してくるのを待って、最後は少し痛い思いをさせて介抱する自分の事を私より好きになってもらいたかった・・・心当たりがあるでしょう」
ふと僕は、A子さんの少し不穏な行動、サバゲフィールドではお昼が支給されるのに、毎回作ってきてくれたお弁当の事が脳裏によぎったのでした。
A子さん
それからA子さんとは仕事の話しかしなくなり数週間が経った頃、僕の携帯にA子さんから電話が来ました。
電話に出るか悩みましたが、モヤモヤした気持ちがイヤだったので直接話を聞くためにも電話に出たのです。
驚いたのですが、A子さんから聞いた話は彼女から聞いた話と違いました。
A子さんは僕の彼女と会ったのは、彼女が僕の忘れ物を会社に届けてくれたとき。
僕の彼女は極度のオタクで、いつも使っているバッグに推しキャラのグッズをつけていて、同様にA子さんの推しなので意気投合し時々会うようになり、女子トークをする間柄だそうです。
お互いに僕との関係を知ったとき、僕の彼女に僕との腐れ縁がイヤで断ち切りたいと相談された。
僕はストレスとアルコールに弱いので、イタズラで参らせ、弁当にエタノールを含む調味料を少しずつ混ぜて、知らぬ間に「急性アルコール中毒」で入院させて開放して、A子さんと存在を入れ替えれば良いとアドバイスされたと言います。
彼女はオタクで推理モノの作品も大好きなので、考えつきそう・・・。
誰を信じればいいのか?
僕はどちらを信じればいいのでしょう?
A子さんは本当に僕のことを好きで、こんなことをしたのでしょうか?
たしかにA子さんは僕にとっての理想に近い女性だと思います。
僕の彼女は僕との腐れ縁を嫌だと思って別れたいのでしょうか?
彼女とは付き合いも長く、そんな事を考えたりはしないし、今でも向けてくれる笑顔はウソじゃない。
散々悩んだ末、考えるほどに二人の存在が恐ろしくなり、携帯の番号を変えて、何も言わずに遠くの土地で暮らすことを決めました。
ときおり鳴り響く、番号非通知の電話に悩まされながら。
※画像はイメージです。
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