謎めく状況と不気味な怪文書～加茂前ゆきちゃん失踪事件～事件解説編

春が目前に迫ったある日、小学2年生の少女が忽然と姿を消した。
友達が聞いた約束、残されたまだ温もりを残すココア、自宅近くで目撃された不審車、そして家族の元に届いた怪文書。
不可思議な失踪当日の状況と、事件から時を経てもなお家族の元に舞い込む真偽のわからない手がかりたち。
その1つ1つを確認しながら事件の概要を紐解き、不可解な点を整理していきたい。

忽然と消えた8歳の女の子～事件概要

1991年3月15日14：00頃、当時小学校2年生だった加茂前家の三女、ゆきちゃん（8歳）が小学校から帰宅。
ゆきちゃんが帰宅した時、父親は前日の夜勤帯の仕事を終えて自宅におり、次の夜勤の仕事に備えて就寝していた。
帰宅から約30分後の14：30頃、パートに出ていた母親が自宅に電話。
電話に出たのはゆきちゃんで、いつもと変わらぬ様子だった。

15：30頃にはゆきちゃんの姉である次女が帰宅。
次女が帰ってきた際、家の中にゆきちゃんの姿は見えなかった。
しかし、ゆきちゃんは放課後に友人と外に遊びに行っていることがしょっちゅうだったため、次女は妹はいつものように遊びに行ったのだろうと考え、さして気にも留めなかったそうだ。

16：00頃には目を覚ました父親も次女と同じように考え、そのまま夜勤の仕事へと出かけていった。
両親は仕事に出掛け、子ども達も各々好きに放課後を過ごしている。
ゆきちゃんの家族誰もが3月15日という日をいつも通りに過ごしていると思っていた。

だが夜になって状況は一変する。
日が沈んで辺りがすっかり暗くなってしまっても、ゆきちゃんは自宅に戻ってこなかったのだ。
心配した家族は20：00頃、警察に通報。
家族・警察はもちろんのこと、ゆきちゃんの通う小学校の関係者や近隣住民も協力して大規模な捜索がはじまった。

事件当日の3つの目撃情報

家族によってゆきちゃんの在宅を最後に確認できたのが14：30頃。
その後の警察の捜査により、いくつかのゆきちゃんの目撃情報の存在が明らかになった。

小学校にいたゆきちゃん

1つ目は同じ小学校に通う児童らの目撃情報だ。

16：30頃、児童9人が小学校校庭のジャングルジムで遊ぶゆきちゃんを見たという。
子ども達の目には、ゆきちゃんが1人で遊んでいるように見えていたようだ。

子どもの目撃情報というと信憑性が疑われがちだが、今回は9人もの児童が同じ小学校に通う児童を見かけているという点で見間違いの可能性は低いだろう。
さらに9人のうち2人はゆきちゃんに似た背格好の女の子が小学校の校門から出ていき、十四川堤防道路を東の方向に歩いていくのも目撃している。

近鉄富田駅での目撃情報

ゆきちゃんの姿を近鉄富田駅で見かけたという情報もある。
しかし、この駅でゆきちゃんが何をしていたのか、駅を利用し電車に乗って移動したのかなど詳しい情報はわかっていない。

不審な車と不審な男の存在

事件当日の15：30頃、ゆきちゃんの自宅から100mも離れていない場所で、不審な白いライトバンとその車から降りてくるパンチパーマの男が目撃されている。

降車から5分程後、男は女の子を1人連れてゆきちゃんの自宅の方向から歩いて戻ってきた。
2人は10分程車内で話した後に、車はその場から走り去っている。
この女の子が本当にゆきちゃんなのかどうかは不明だが、状況からしてゆきちゃんである可能性は高いと言えるだろう。

複数の目撃情報を元に家族、警察はもちろんのこと、学校関係者や近所の人をも巻き込んで大掛かりな捜索が行われたものの、その後の捜索は難航。
ゆきちゃんは今日に至るまで行方不明となっている。
母親の電話に出て、姉が帰宅するまでの約1時間の間に8歳の女の子は忽然と姿を消してしまったのだ。

ゆきちゃん失踪事件の不可解な点

そもそもゆきちゃん失踪について、事故なのか事件なのか判然としていない部分もある。
ただ、目撃情報と失踪時の状況からゆきちゃん失踪が単なる行方不明ではないと思わせる不可解な点がいくつも浮かび上がっている。

誰かと交わしていた約束

1つ目はゆきちゃんが普段からよく遊んでいた友人の証言だ。
下校時にこの友人がゆきちゃんを遊びに誘ったものの、「約束がある」と断られてしまったそうだ。
友人はゆきちゃんが誰と、どのような約束をしていたのかまでは聞いていなかったようだが、失踪当日に存在した「約束」とは一体何だったのだろうか。

残された温かいココア

2つ目が次女が帰宅した際、自宅のテーブルに残されていた飲みかけのココアだ。
母親がゆきちゃんと電話した後、15：30頃に次女が帰宅したのだが、帰ってきた際に残されていたココアはまだ温かったそうだ。
つまり、次女帰宅の直前までゆきちゃんは家にいたことになり、せっかく淹れたココアを飲み干さずに放置して家を出たことになる。

ココアを飲んでいた所をゆきちゃんが何者かによって無理矢理に家から連れ出された可能性も排除できないが、家の中に争ったような形跡があったという話も、家にいた父親が就寝中だったとはいえ不審な物音を聞いたという話もないため、ゆきちゃんが自ら外出したと考える方が妥当だろう。

ゆきちゃんはなぜ、そんなにも急いでいたのだろうか。

自宅に放置されたジャンパーと自転車

ゆきちゃんは放課後に友人と遊びに行く際、ピンクのジャンパーを羽織り自転車に乗って出掛けるのが常であったそうなのだが、そのどちらもが自宅に残されていた。

事件当日の午後は前日までと比べて特段に温かったというわけでもなく、ゆきちゃんがいつも通り友人と遊ぶために外出したのであれば、ジャンパーも自転車も置きっぱなしになっていたのはおかしい。

事件後に届いた怪文書

そしてこの事件を最も不可解たらしめているのが、事件後に届いた送り主不明の奇妙な怪文書だ。
詳しい内容は後編に書くが事件から3年後、ゆきちゃんの父親宛てに気味の悪い手紙が届く。
なんとも不気味な手紙で俗に「怪文書」と呼ばれている。
この怪文書がいたずら目的なのか、事件と関連があるのかは断定されていない。

さらに怪文書が届いたしばらく後に、ゆきちゃんの霊に協力を仰いでダウンジングで彼女の遺体を探したいという捜査協力を申し出る手紙が届いている。
手紙にはゆきちゃんはすでに帰らぬ人となっており、顔見知りの男女2人による犯行だと書かれていたそうだ。
しかし、自ら協力を申し出ておきながら、3日後には「ゆきちゃんの霊を邪魔する別の霊が現れ、捜査に協力する事は出来なくなった」という手紙を寄こしており、結局ダウンジングは実現しなかった。

12年の時を経てかかってきた電話

事件から12年が経過した2003年10月、加茂前家に1本の電話がかかってくる。
電話の相手は若い男性と思われる声で自らの外見の特徴についてつらつらと述べた中で「俺はパンチパーマだ」と話していたそうだ。
パンチパーマという髪型は失踪時に目撃された白いライトバンの男の髪型と一致する。
しかし、この男の髪型については一部で報道されていた可能性が高いとされている。
また、警察の周囲への聞き込みの過程で男の髪型について警察から聞かされていた人間がいてもおかしくはないため、犯人のみが知る情報とは言い難いだろう。

もちろん犯人の可能性も排除しきれないが、いたずら目的の電話である可能性も高い。
ゆきちゃんがした約束、温みを持ちながら残された飲みかけのココア、目撃情報や時を経て届く手紙や電話。
事件の真相ももちろんだが、この状況や証言1つ1つも未だ答え出ていない謎となっている。

これらの情報や状況はゆきちゃん失踪とは無関係、あるいは誤ったものなのであろうか。
それとも、この中に私たちが未だ解明できていない、ゆきちゃんを見つけ出すのに重要なかけらが隠されているのだろうか。

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