あの有名なZ旗。
本来はいったい何のための、どういう旗なのでしょうか?
信号旗
無線など無かった時代、マストに揚げる旗による信号旗が、船舶間の通信手段の一つでした。
色々な図形の旗それぞれが、アルファベッットや数字、または予め決められた一定の意味を持ち、それらを揚げる順で一連の文章を作成して通信していました。
ネルソン提督率いる英国艦隊はトラガルファー海戦開戦時、「英国は各員がその義務を尽くすことを期待する」という英文を表現する、何枚もの信号旗が旗艦ビクトリーのマストに翻り、全艦を鼓舞しました。
その後、信号旗は整備され、1857年に国際信号旗として制定され現在に至ります。
今の国際信号旗のZ旗はアルファベットの”Z”、また「本船は引き船(タグボート)を求む」、の意味が決められています。
東郷平八郎のZ旗
日本海海戦のあった1905年には国際信号旗は制定されており、本来なら「皇国の興廃この一戦に在り。各員一層奮励努力せよ」という、あの有名な意味は含まれていません。
しかしZ旗にその特別な意味を持たせることを、東郷は予め各艦に伝達しておきました。
それはトラガルファー海戦においてネルソン提督が行った、信号旗による督戦を参考したものでした。
東郷は日本海軍の軍人として7年間英国に留学しています。
幕末の薩英戦争に薩摩藩士として従軍し、敵ながら英国海軍の強さに感服していた東郷はネルソン提督を尊敬しており、その督励方法を彼流にアレンジして実行したと思われます。
その後のZ旗
Z旗は日本海海戦の大勝利の象徴となり、帝国海軍では主要な海戦の開戦時、Z旗掲揚が慣例化しましたが、現在の海上自衛隊ではこの習慣はありません。
しかし広く一般に知れ渡ったZ旗の特別な意味は根強く生き残りました。
初代トヨタカローラの開発時には、ライバルの日産サニーに勝つためZ旗の意味を採り入れて、27E型エンジンの改良型エンジンを”Z”を足して27E-Zと称したり、この開発に関わる書類にはZ印が押されて、最優先事項であることを示しました。
また日産の新型スポーツカー開発時に、儲からないスポーツカー開発を渋る本社で苦労する開発スタッフを、米国日産の初代社長がZ旗を贈って激励しました。
そしてフェアレディZと名付けられました。
私たち日本人にとってZ旗は単なるZではなく、やはり「皇国の興廃はこの一戦に在り。各員一層奮励努力せよ」なのです。
有名過ぎるほど有名なのに、本来の意味を知らないことがあるものです。
参照:
東郷平八郎 真木洋三 著
トラガルファー海戦の海洋気象学的解析 半澤正男 著
※画像はイメージです。
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