零戦が敵機パイロットから恐れられたのはその卓越した空戦性能でした。
零戦の優れた空戦性能とは、 機体の身軽さや旋回性能の良さにより敵機の後方に回り込む事だと一般には理解されていますが、それを可能にする優秀な装置がありました。
エースパイロット坂井三郎の証言
零戦のエース・坂井三郎が零戦の特徴を語った映像があります。
坂井氏はその第一を長大な航続距離とし、次に操縦性を挙げています。
「零戦の第二の特徴は、機首を上げ下げする為の昇降舵にあり、その聞き具合が、低速でも高速でもパイロットの考える通り働いてくれるところにある。 」
「特に宙返りなどの縦方向の動きが優れていて、だから敵機がどんな動きで逃げ回ってもピタリと後ろに付いて逃がす事はなかったし、万一自機後方に付かれても、3~4回の宙返りで位置を逆転する事ができた。 」
「この縦方向の優れた運動性を利用したのが、左捻り込みの戦法だ」
と証言しています。
高速故の問題
飛行機の機首を上げ下げするのは水平尾翼の昇降舵によります。
角度の付いた昇降舵に対する空気抵抗によって機体後部が上下する事で、機首が上下方向に向くのです。
そして空気抵抗は当然飛行機の速度が高くなるほど大きくなります。
最高速度450km/h程度だった海軍主力の九六艦上戦闘機と比べても、零戦は100km以上速く550kmを越え、 戦闘機として前代未聞のこの高速では空気抵抗も未体験のものとなりました。
空気抵抗が大きくなると昇降舵の効き具合が良くなり過ぎます。
だからパイロットは高速時の操縦桿操作を微妙に加減しなければなりません。
低速から高速まで速度が急速に変化する空中戦において、 それは正確で微妙な機体操作を著しく難しくする要因でした。
常識を破った解決方法
設計者・堀越二郎が編み出した解決方法は常識を破るものでした。
昇降舵を含む操縦系統の各部品は、操作と舵の動きに誤差が出ない様に高い剛性を持たせるのがそれまでの常識でした。
つまり操縦装置を動かした同じだけ操舵類が正確に動く事を重要視していました。
常識を破った発想の転換で、堀越氏は操縦系部品のその剛性を下げます。
低中速では操縦桿の動き通りに昇降舵が動き、高速になると空気抵抗が大きくなる昇降舵の動きを、 操縦系統各部の柔軟性が吸収してその効き具合を抑えるのです。
この工夫のおかげで、零戦の縦方向の運動性はパイロットの操縦感覚と全く同じとなり、これが零戦の空戦性能を優秀なものと為したのです。
戦後1958年の英国航空学会誌に、 英国最大の航空機メーカーの設計主任の零戦に関する次の言葉が掲載されました。
「ヨーロッパの水準から見て、最も驚嘆に値する工学上の構想・手法は、操縦系統の剛性を計画的に引き下げる考えであろう。」
表に現れている事実の裏には、常にその理由があります。
それを知る事でその事実の真の凄さが理解できます。
参照:「零戦・その誕生と栄光の記録」堀越二郎著
戦史映像 エースパイロットの証言 坂井三郎氏 「零戦を語る」
※画像はイメージです。
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