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1986年のテロリズム~新左翼団体の派閥抗争の検証?

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「戦後史」への関心から、あるとき新左翼団体の抗争事件やテロ、殺人事件について調べるようになった。そして直ちに壁に突き当たる。
この分野には、第二次大戦や東西冷戦のように通史的な研究書が存在しない。断片的な資料をゼロから蒐集、検証するほかに知る術がない。

これから新左翼の抗争と歴史の一端について記述していきたい。今のところ分かっている範囲での話だ。

目次

1986年はテロの季節

1986(昭和61)年は意外に思われるかもしれないが、日本全国で爆弾テロが続発した年であった。1986年は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『天空の城ラピュタ』が公開された年で、およそテロリズムとは無縁の、日本が最も華やかであった時代のイメージに包まれている。

しかし当時の新左翼集団は現在とは異なり、しぶとく活動していた。1986年4月29日の「天皇陛下御在位60年記念式典」と、5月4日~6日に東京で開催された先進国首脳会議では「迫撃弾」、自家製の爆発物を使用したテロ事件が発生。それらと並行して、以前から続いていた成田空港の反対運動、時の自民党政権が推し進める国鉄民営化に呼応して、新左翼各集団はテロ事件を続発した。

新左翼のイメージ

新左翼といえば角材や鉄パイプ、火炎瓶を用いるといったイメージが強いが、1986年では技術面や戦術面で相当に進歩している。どのように製造を成功させたのか分からないが、時限爆弾や「迫撃弾」を頻繁に使用、相手かまわず乱用して警視庁・警察庁と深刻な抗争を繰り広げた。

とりわけ深刻なのは成田空港問題に絡んだ事件で、新左翼集団は警察や政治家だけではなく、建設業者への襲撃や自宅への放火を続発させている。1987(昭和62)年に警察庁が発行した「警察白書」第7章から引用する。「このうち、新東京国際空港建設等の各種施策に反対して、公務員や⺠間業者の個⼈の住居をねらい、時限式発 ⽕装置を使って放⽕するという「ゲリラ」事件は、「⻄組社⻑宅放⽕事件」(3⽉、茨城)、「⼭梨県出納 ⻑宅 放⽕事件」(4⽉、⼭梨)、「梓設計相談役宅放⽕事件」(11⽉、千葉)等12件発⽣したが、その攻撃対象は、これらの施策とは直接関係のない者、下請業者等にまで広がり、個⼈を対象とした無差別「ゲリラ」へとエスカレートした」。

「警察白書」は報告書類であるため簡潔に書かれているが、イデオロギーなど持たず建設作業に携わっているだけで殺されかけては、たまったものではない。樋田毅『彼は早稲田で死んだ 大学構内リンチ殺人事件の永遠』(文春文庫 2024年)に目を通すと、新左翼集団に拉致された大学生が集団リンチに遭い、身体の各部分を鉄パイプで繰り返し殴打され、惨殺される様子が詳細に描写されている。そうした暴力衝動を、なんら恨みもない一般人に向ける神経は狂人と見なしていい。

寛容か・不寛容か

そうした新左翼集団が一般人を襲撃した事件の一つに、1986年3月8日に茨城県岩井市で発生した事例がある。成田空港に関連する工事を請け負っていた建設会社社長の自宅兼事務所が20時ごろ、対立する新左翼集団に襲撃された。社長は以前、トラックや宿舎への放火を繰り返して作業を妨害する新左翼集団と建設現場で遭遇、メンバーを叩きのめす喧嘩沙汰を起こしていた。その報復であったらしい。車に乗った新左翼集団は自宅兼事務所に向かって大量の火炎瓶を投げつけ、自宅兼事務所を全焼させた。このとき、自宅には社長の家族がいたが、不幸中の幸いとでも言ってよいのか、軽度の怪我で難を逃れた。

このような一般人に対する、通り魔も同然の殺人未遂が1年間だけで12件も発生している。偶然の流れで成田空港に就職することになった、関係する仕事に就いた人物も同じようにターゲットとされていた可能性は、当然ながら考えられる。ちなみに警察庁は別の資料で、新左翼集団どうしの報復合戦を「覇権抗争」と的確に表現していた。『彼は早稲田で死んだ』の苛立たしいセンチメンタリズム、著者が提言する「寛容か・不寛容か」などといった下らない人文趣味が通用する事象ではない。

かくも深刻な一連のテロ事件が、なぜ忘れられたのだろう。そして容易な検証や分析を拒むような不合理さ、禍々しくグロテスクな暴力衝動が資料の行間から漂い、目を通している意識を朦朧とさせるのだった。まるでオウム真理教のようだ。 

参考文献
『昭和62年 警察白書 国際化の進展に対応する警察活動』
樋田毅『彼は早稲田で死んだ 大学構内リンチ殺人事件の永遠』(文春文庫 2024年)

新左翼の派閥抗争を検証するとき感じる、意識を苛むような眩暈は一体なんだ?

※画像はイメージです。

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