私達家族が郊外の丘陵地に広がる、古い団地に住んでいた時のお話です。
街の喧騒から離れ背後には森が迫り、なんだか人のテリトリーから隔絶されたような場所でした。
息子が見たもの
長男が3歳の頃。
真剣な目で、リビングの先の暗い廊下の突き当たりを指さしながら、「ガブガブがいる」と告げのです。
私は何の事だかわからないので、息子に詳しく話を聞きました。
その内容をまとめると、口には牙がズラリと並んでいて、大きな口を開けているの中型犬くらいの獣がいるのだそうです。
子どもの脳はまだ発達途中で、現実の判定が甘い時期がある。
そんな話を聞いていたので、息子が「何かいる」と言っても、幻想を見たのだろうと考え、深く取り合わずに流していました。
ところが「ガブガブ」は毎日のように我が家に現れ、その度に長男が怯えるようになったのです。
このままでは良くないので、なにか対処を講じたかったのですが、どうしたらよいものか全く分からず。
そこで妻がどんな形なのか解れば、思いつく事もあるんじゃないかと動物図鑑を持ってきて、「どれに似てる?」と息子に聞いたのです。
すると、ハイエナやコヨーテにそっくりだと言うので、仮に心霊的なものだとすると犬系だと形は判明したのですが、だからといって私も妻もどうすることができません。
二人で考えているうち、やっと妻がピンときました。
よくみている子供番組のキャラクターが犬で、可愛らしいデザインなのだけれど、息子はどきどき「こわい」と言うらしく、その影響なんじゃないかと。
「まあ、そんなもんだよね」と私たちは納得して、しばらくほってば忘れるだろうという結論になりました。
終わらなかった
それから間もなく、私は犬に吠え立てられる夢を見るようになったのです。
最初は月に一度あるかないかだった。しかし日に日に回数は増え、気づけば毎夜。
そのうち妻まで同じ夢を見るようになり、息子は相変わらず廊下を指さして「ガブガブがいる」と叫ぶのです。
眠ってもすぐ目が覚め、家族全員が寝不足と苛立ちで半分ノイローゼ状態。
家の空気がどんどんと悪くなっていきました。
この状態ではいけない、皆で次の週末に病院に行こうと夜に話し合っていた時、玄関のチャイムが鳴った。
こんな時間に誰だ? と出てみたら、向かいの部屋のおばさんでした。
息子の通う保育園の保育士で、悪気はないがやたら詮索好きな人。
息子が「ガブガブ」の話をしていたこと、妻がゴミ捨てで合った時に「犬の夢を見る」と漏らしたこと、最近の我が家の空気が張りつめていることをつなぎ合わせて、半分は好奇心で事情を聞きにやってきたのです。
ガブガブさんの正体
正直、ちょっと煩わしいとおもったのですが、お隣だしぞんざいに扱うのもどうかな?と思って、ここ最近の状況を説明しました。
おばさんはため息をつき、ぽつりぽつりと語り出すのです。
この部屋には以前、夫と死に別れて一人暮らしのお婆さんが住んでいて、寂しさを紛らわす為に犬を飼っていたと言うのです。
ある日、犬が狂ったように吠えていたので、異変を察知しピンポンを押しても出てきませんし、なんだか変な匂いも漂っているような気がする。
ただ事ではないと判断して、管理人に頼んで鍵を開けてもらい家の中に入っていくと、お婆さんは亡くなっていました。さらに驚いたのは、その傍らで腹を空かせた犬が遺体を食い荒らしていたのです。
噂は瞬く間に近隣へ広がり、犬の引き取り手は誰も現れず、最後は保健所で処分されたのでした。
「ちょっと待ってて」と言い残し、おばさんは自室へ戻り、一枚の写真を持ってきた。
写っているのは老婦人と、例の犬ですが、夢で見た犬と同じ。
息子は写真を見るなり、即座に指をさし、大声で叫んだ。
「ガブガブ!」
驚きで頭が真っ白になった私たちは、思わずおばさんにすがりつきました。
「これ…どうしたらいいんですか?」
声が震えていたのが自分でもわかるほどです。
おばさんは眉間にしわを寄せながら、ちょっと考えるそぶりを見せ、「近所の神社の宮司さんが事情に詳しいから、一度相談してみると良いわね」とアドバイスしてくれたのでした。
結末は意外にあっさり
翌日、妻が高熱でダウンしたことにして、有給を取り、神社へ向かいました。
会社には申し訳ないですが、「ガブガブ」がいたら仕事どころじゃありません。
宮司さんは状況を聞くなり、「理由は分からないですが、まあ、その犬でしょうね」と断言しました。
そのまま「困ってるなら行きましょう」と我が家へ来て、お祓いを済ませてくれました。
不思議なもので、その日を境に家の空気がやけに軽くなったのです。
あれほど毎晩うなされていた夢もすっぱり途絶え、息子の「ガブガブ」発言も完全に消えました。
家族全員、肩の荷が落ちたどころか、背中に乗ってた何かが蒸発したみたいにすっきり。
ただ一つ困ったのは、それ以来、息子が「わんわん!わんわん!」といいながら、同じ場所をくるくる回って遊ぶようになったのです。
本人に問いただすと「わんわんごっこ」だと言います。
あの時のように息子は怯えることもなく、私たちも悪夢を見るわけではないので、そういう一人遊びなんだろうと思っているのですが・・・あんな事が合っただけに、不気味に思えてしまうのです。
※画像はイメージです。


思った事を何でも!ネガティブOK!