「進化」は、誤用が定着された言葉だ。
本来、変異から適者生存の淘汰を経て形質の定着に至る「世代を経る」事が大前提の概念だが、一個体、一世代の成長、変態、進歩などに当てはめる誤用がまかり通っている。
この流れは既に訂正しようがなく、新語「しんか」として分けて使うしかない。
これと同じ現象が起きつつあるのが「錬金術」ではなかろうか。
創作物などで濫用されるうち、科学とオカルトが混ざってしまっている。
オカルトと科学の混合は、容易に人の認識を狂わせる。
オカルトとしての錬金術はどんなものか、はっきり認識する事が必要だ。
錬金術は非科学的?
まず、科学の文脈における錬金術を理解しておこう。
錬金術とは、化学的手段によって、鉄などの「卑金属」から、金を代表とする「貴金属」を生み出す事を目的とする試みである。
その起源は古代エジプトや古代ギリシアとされる。
これが中世アラビアに影響を与え、12世紀にはイスラム錬金術としてヨーロッパに逆輸入され、盛んに研究された。
16世紀のルネサンス期には、パラケルスス(テオフラストゥス・フォン・ホーエンハイム)が錬金術の成果を医療に導入している。
17〜18世紀頃には、化学の考え方が成立し始め、その集大成たる原子論により、化学的方法によって卑金属から金は精錬出来ない事が明確にされた。
インドや中国においても、同様の技術が研究されたが、ユーラシア大陸内は知識の交流があるため、完全に独立したものではない。
錬金術の研究の過程で、化学に用いられる実験器具や、硝酸、硫酸、王水などの化学薬品の製法などが多数発明、発見されている。
科学における錬金術はつまり卑金属は貴金属にできるかという仮説を検証するために繰り返された実験と試行の積み重ねと言える。
結果として金は作れなかったが、その手法は十分科学的であるが故に、その成果が残され、後の科学者の検証対象となり得た。
端的に言えば、仮説が間違っていただけの科学である。
オカルトの錬金術
では、オカルトの錬金術に移ろう。
大前提として、何故卑金属から貴金属が「出来ないか」をおさらいしておこう。
物質は分子から出来ており、分子は原子から成り立つ。
化学的な手法は、原子の性質に依存するため、最小単位である原子そのものを変質させる事ができない。
喩えるなら、レゴブロックをメーカー推奨のやり方で組み立てたり分解したりしながらダイヤブロックを造り出そうとする試みと同じだ。
逆に言えば、レゴブロック自体を溶かしてダイヤブロックの型に流し込めば、ダイヤブロックに出来る可能性がある。
これは「化学的な手法」の枠を超え、量子力学の分野に入る事になる。
オカルトの錬金術は、すなわちこの量子力学的反応を、化学的手法の中で発生させる事と考えられるだろう。
レゴブロックを付け外しするのと、溶かすのとでは、必要なエネルギーが大きく違う。
原子についてもこれと同様で、原子そのものを作り替えるには、膨大なエネルギーが必要になる。
それこそ、核兵器並のエネルギーが動く。
というより、核兵器のエネルギーがそのまま、「ある原子が他の原子に変わる時の質量差がエネルギーになったもの」だ。
故に核兵器は「“原子”爆弾」と呼ばれる。

錬金術を可能とするもの
オカルトにおける錬金術は、自然現象の中からこの核兵器並エネルギーを取り込んでいる訳ではない。
精神力だろうか。オカルトにおいては、しばしば精神力が物質的な作用を持つ。
だが、それにしてもエネルギー量が大きすぎる。
このレベルの事は、思念1つで新しい宇宙を作り上げるAKIRAのような超能力者にしか出来ない。
では、誰の力か。
これはすなわち上位の存在、つまり神が手を貸していると解釈できる。
であれば、錬金術の手順は、神などの力を呼ぶための儀式と考える。
これに感応した神など力あるものが、物質を変化させ、卑金属を貴金属にしてくれる。
この変化に必要なエネルギーは、神にしてみれば些細なものだ。
アブラハムの宗教の神であれば、天地創造を1柱で成し遂げているのだから、自分が作ったものをちょっと作り直す程度の事だ。
神道の神であっても、最高の位置にいるのが天照大神、すなわち太陽である。太陽にとって、核反応はむしろ得意分野と言って良い。
他に力を貸してくれそうなものと言えば、悪魔が考えられる。
新約聖書に記されるマモンは富を意味し、地獄の七大君主の1人とされる事もある。彼は人に富をもたらすが、しばしばゴールドの形で与える。
願望がこの悪魔に伝われば、物質を変化させる力が仮になかったとしても、すり替えてそれっぽく見せる事は十分あり得る。
異世界の錬金術
一方、ファンタジーものなど、異世界の錬金術に関しては根本的な事情が異なる。
神が力を貸しているパターンもあり得るが、金が我々の知る分子構造ではなく、ある種の化合物の可能性がある。
この世界なら、あたり前の化学的手段によって金を「作り出す」事が可能になり、錬金術師はオカルトを必要としない科学者になる。
ただ、この「化合物の金」が、現実世界の金と同じ性質を持っている場合、少し話は厄介になる。
金は極めて安定性の高い物質だ。
これが、化学的手法によって作られるという事は、自然環境下で後天的に金が発生するという事になる。
これが長いスパンで続くと、結果的にその異世界の惑星は、ミダス王が触れて回ったかのように、金だけの不毛な地になりかねない。
そのような異世界に転生する事があったら、くれぐれも錬金術を控えた方が良いだろう。
世界は長く存続させた方が良い。
落とし穴に落ちないために
ある程度、錬金術のイメージは固まっただろうか。
現実的な文脈にせよ、オカルト文脈にせよ、元を理解しておく事は重要だ。
それなしに、錬金術全てをオカルトと断定したり、逆に全てを科学と考えたりしていると、思わぬ落とし穴にはまるものだ。
オカルトをオカルトと見抜けないものは、オカルトを使うのは難しい。
※画像はイメージです。


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