これは、私が中学生だった頃に体験した出来事です。
その家は、私の通っていた学校の裏山の奥にひっそりと建っていました。地元では「あの家には幽霊が出る」と有名なのですが、それ以上に倒壊の危険があり大人たちは子供が近づかないように厳しく注意していました。
でも私たち中学生にとっては、それが逆に興味を引いたんです。
ある日の放課後、私と同級生達の3人で、その廃屋に探検に行くことにしました。噂のあの家を侵入すれば、みんなに自慢できる――そんな軽い気持ちでした。
学校が早く終わった日になのに、途中の山道が思ったより険しく、家にたどり着いたのは夕方近くでした。
木々の間にぽつんと現れたその家は、森に飲み込まれたかのように古びていて、外壁は苔で覆われ、窓ガラスはほとんど割れていて、見た目からすでに怖い雰囲気が漂っています。
友人Aが「本当に入るのか?」と少し腰が引けた様子だったのを、私が無理やり引っ張りながら玄関に向かいました。玄関扉は錆びついていたものの、力を入れると軋む音を立てて開きました。
中は想像以上に荒れていました。畳は腐って穴が空き、壁には大きなシミが広がっています。それでも、昔は誰かがここで普通に生活していた痕跡があちこちに残っていました。置き去りにされた茶碗や古びた座布団、壊れかけた箪笥。誰もいないのに、生活の痕跡が生々しく感じられました。
奥の和室に進むと、友人Bが「あれ、見て」と指差しました。部屋の隅にある箪笥の引き出しが、わずかに開いていたのです。引き出しを開けると中に、一枚の紙が入っていました。
手紙の内容は、こう書かれていました。
「助けてください。閉じ込められています。」
読んだ瞬間、私たちは思わず顔を見合わせました。冗談のつもりで来た私たちでしたが、その手紙の筆跡や紙の黄ばみが、本物だという妙な説得力を感じたのです。
私が「帰ろう」と皆の顔を見合わせたときです。二階から突然、大きな音がしました。何かが重く床に落ちたような音です。
「な、なんだよ!」と友人Aだ声をあげ、私たちが息を呑んで立ち尽くんでいると、音がした直後、今度は足音が聞こえ始めました。ギシ、ギシと床を軋ませながら、ゆっくりと何かが動いている音。しかもその音は徐々に私達の方へ近づいてくるようなのです。
さらに追い打ちをかけるように、後ろの方から大きな物音がしました。慌てて部屋を飛び出し、玄関に向かいましたが、誰もいるはずがないのに、開けたままのハズの扉がしまっているのです。
私は咄嗟に体当たりをして無理やり扉を開き、家を飛び出して振り返ることもせず、ただ夢中で山道を駆け下り、それぞれの家まで戻りました。
その日の夜、どうしてもあの家のことが頭から離れませんでした。あの手紙は何だったのか、二階で聞こえた音は何だったのか。
目が冴えて眠れず、そんな事を悶々と考えていると、かすかに足音のような音が聞こえてくる気がして。
恐ろしさのあまりに布団を被ってガタガタ震えていると、いつしか眠ってしまったようで朝になっていました。
学校に行くと、友人Bが青ざめた顔で話しかけてきました。
「昨日、夢を見たんだ。あの家の中化に白い服の女の人がいて、私のことをずっと見てた」
私も実は同じような夢を見ていました。でも、それを話す気にはなれませんでした。
そして全員、「あの家の話はもうやめよう」と意見が一致しました。
それ以来、あの廃屋に近づくことはありませんでした。そして数年後に取り壊されてしまいました。
でも不思議なことに、時折あの手紙の言葉が頭に浮かぶのです。
「助けてください。閉じ込められています。」
家はなくなったのに閉じ込められていた何かは、今もどこかに存在しているのかもしれない――そんな気がしてなりません。
※画像はイメージです。
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