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凶悪犯も精神崩壊?!米国最恐の刑務所ADXフローレンス

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「脱獄不可能な刑務所」とうたわれたサンフランシスコ湾のザ・ロックは、切り立つ断崖と冷たい潮流に守られた天然の要塞だった。
しかし司法省がひとつだけ見落としていたことがある。それは、閉じ込められた人間がもつ自由への執念だ。

刑務所は犯罪者が刑に服する場所であり、再犯を起こさないよう更生させる役割もあり、広くは社会の安全を守る機能ももっている。したがって、厳罰大国である米国も原則として受刑者の社会復帰を促すアプローチをとる。
ところが、一般的な刑務所では制御不可とみなされた重罪犯や国家に脅威を与える危険人物は服役中もしばしば殺人や脱獄などの問題を起こす。そのような最悪のなかの最悪の囚人たちに事実上矯正の余地はない。

米西部のコロラド州に、全米で唯一特殊警備が敷かれているADXフローレンスという刑事施設がある。ADX(Administrative Maximum Facility/行政最高警備施設)の名が示すように、連邦政府がもっとも危険な男たちを閉じ込めてきた場所だ。9.11同時多発テロの首謀者ザカリアス・ムサウイも、オクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件のテリー・ニコルズも、メキシコの麻薬王エル・チャポも、この「ロッキー山脈のアルカトラズ」でおつとめ中である。
このクリーンな地獄は矯正不可の罪人から暴力を取りあげて、隔離措置をとることで今日も善良な市民を守っている。

目次

砂漠のなかのテロリストセンター

米国では、刑務所のセキュリティレベルは5段階に分かれる。犯罪の凶悪性や量刑の重さ、必要な監視技術などに応じて収容される刑務所が決まるのだ。ADXフローレンスはレベルがもっとも高いスーパーマックス級のひとつであり、最高等級刑務所のなかでも突き抜けた統制を誇っている。
最大収容人数は490人で、監房も490房。つまりすべて独房だ。受刑者は他の囚人や刑務官と接触できないように厳重な監視下におかれる。1994年の開設以来、脱獄に成功した者もいない。

この刑務所を生みだしたのは、11年前のたった1日の出来事だった。
1983年10月22日、当時において最高度レベルの警備体制が敷かれていたイリノイ州のマリオン連邦刑務所で、手錠をはめた囚人2人に刑務官があいついで刺殺されるという事件が起きた。犯人はいずれも悪名高いプリズンギャング、アーリアン・ブラザーフッドのメンバーである。

両件とも殺害の手口は同じで、周到に計画されたものだった。シャワー室に向かう廊下で付き添いの刑務官を先に歩かせる。そして、共謀者である友人の独房の前にきたところで素早く鉄格子のあいだから手を突っ込む。友人はあらかじめ盗んでおいた鍵で手錠を外し、ナイフを手渡す。

連邦刑務所局長だったノーマン・カールソン氏にとって、2人の刑務官の死は転機となった。
「人命を塵ほどにも思わない人間を制御する方法などない。終身刑を重複宣告された受刑者に新たな終身刑を科したところで、なんの抑止力にもならない」
カールソン氏は、囚人と囚人、そして囚人と職員を隔離できる新しいシステムの刑務所を建設するよう政府に進言する。努力は実を結び、危険な受刑者に特化したスーパーマックスプリズンの構想が90年代初頭に具体化した。クリントン政権が割り当てた6000万ドルの予算によって、このプロジェクトがようやく陽の目をみたのだ。

大物ぞろいの囚人たち

ADXフローレンスは死刑囚を収容しない。収監者は大きくふたつの種類に分けられる。

大半は他の刑務所で囚人や職員を殺害したり、脱獄を試みたために移送された一時的な在所者で、彼らは3年間のプログラムに組み込まれる。収監態度が改善されれば他の刑務所に移される可能性もある。ミルウォーキーの食人鬼ことジェフリー・ダーマ―を獄中で殺害したクリストファー・スカーヴァーも一時期ここに収容されていた。

残りは他の刑務所では安全上のリスクが高いと判断された面々だ。具体的には国内外のテロリストやスパイ、犯罪組織のボス、脱獄常習者といったビッグネームがこれに当たる。米軍の兵器開発計画をはじめ、多くの機密情報を旧ソ連とロシアに渡していた元FBI捜査官ロバート・ハンセンや、同じく二重スパイだった元CIA幹部ハロルド・ニコルソンもADXの住人だった。

ほぼすべての受刑者が仮釈放なしの終身刑、あるいは長期の禁固刑に処せられた者たちで、なかには「終身刑161回」という強者もいる。例外中の例外といえるのが、2013年のボストンマラソン爆弾テロ事件の実行犯ジョハル・ツァルナエフだろう。
死刑が確定しているツァルナエフがここに収監されているのは、死刑制度に反対の立場をとっていたバイデン前大統領の意向による。バイデン氏は退任前に相当数の死刑囚を仮釈放なしの終身刑に減刑したが、ツァルナエフは対象から外されたため今も死刑囚である。トランプ大統領が赦免に反対し、死刑を積極的に執行する方針を明らかにしたので、今後は死刑が可能な施設に移されて執行される可能性がある。

クリーンな白の地獄

ADXフローレンスでは隔離がすべてだ。社会復帰はまったく考慮されておらず、矯正プログラムも皆無。「ここは人間のためにデザインされた場所ではない」と元所長が認めるように、受刑者は人として扱われない。ある一点において。

彼らは1日のうち23時間を3.5m×2.0mのコンクリート打ち放しの白い部屋で過ごす。頭のすぐ上に迫る天井の圧迫感がストレスを与える。
机、スツール、ベッドも床と一体化して固定されたコンクリート製。家具を壊して武器や脱獄用の道具をつくるのを防ぐためだ。また「クリーンな地獄」の異名にふさわしく、衛生面は徹底して管理されているが、洗面台、トイレ、シャワーは破損を防ぐためのステンレス製。水回りにはタイマーがあり、一度に使用する水量が設定されているので、故意に水浸しにして脱走のチャンスをつくることもできない。鋼鉄の鏡は、もちろん自殺防止用だ。

各房は防音されていて、ほとんど自然光も入らない。10cm×120cmの細長い小窓からは空と屋根しかみえない設計になっており、自分が刑務所のどのあたりにいるのかも把握できない。この窓が中庭に向かってつくられたことにも意味がある。同じ屋外の景色でも、目に映るのが刑務所の外の世界と敷地内の景色とでは大きく異なるからだ。この窓は、おのれが罪人であることを自覚させ、現実を悟らせるためのものなのだ。

食事はドアの投入口から入れられる。このとき刑務官はけっして受刑者に話しかけない。他者との交流はいっさい許されない。
娯楽といえば本かラジオ、または収監態度のよい受刑者に与えられるテレビのみ。視聴できるのは許可された番組だけで、多くは教育番組か宗教番組。テレビさえ与えられない者は、退屈な時間が過ぎていくのにただ耐えるしかない。
独房の外に出られるのは、運動時間として与えられる1時間のみ。刑務官が独房のドアを開けるとき、彼らは素早く鍵を覆い隠す。全米でもっとも厳しい刑務所には、鍵をひと目みただけで形状を記憶し、どこかで拾った材料で複製してしまう輩がいるのだ。
運動ケージでも囚人同士が顔を合わせることはない。この狭い、空しかみえないコンクリートの空間で、彼らはウォーキングなどをして過ごす。

死ぬこともやすやすと許されない毎日がただ過ぎていく。囚人たちは隔離され、孤立させられ、無関心という精神的苦痛を与えられて
、ひたすら生かされる。
ここでは暴動も囚人同士の争いも起こらない。悪い人脈を増やしたり、出所後の犯罪計画をたてたりすることもできない。閉塞感、孤独感、絶望感はどれほどのものだろう。獄中生活は絶え間ない心理的な拷問だ。

死んでもでられない刑務所

アルカトラズ刑務所がロケーションの利をもって間接的に脱獄を防いだのに対し、こちらはスーパーマックス級の警備と監視システムをもって直接的に脱獄を遮断する。
一人ひとりの行動は監視カメラやモーションセンサーで容易に把握されてしまう。コントロールセンターには刑務所を即座にロックダウンできるパニックボタンがあり、不審な動きが発覚すれば施設内のすべてのシャッターが閉じられる。
仮に誰かが独房からの脱出に成功し、刑務官もそれに気づかなかったとしよう。だとしても脱獄は99%不可能だ。

建物の外には重装備の警備員が配置され、死角なしの監視塔からはスナイパーが目を光らせる。地面に埋め込まれた圧力センサーを踏もうものなら、たちどころに位置を知られてしまう。運よく圧力センサーをかいくぐり、広い敷地を走りきったとしても、3.7mの高さの電気鉄条網が待ちうける。鉄条網は地中深くまで埋設されているため地面を掘ることもできない。
冒頭で述べたように、現在収監されている服役囚のなかには脱獄名人のエル・チャポもいるが、彼をもってしても脱獄はまず不可能といっていい。

ADXフローレンスが最高度レベルの警備と最大管理システムを誇る理由はこれだけではない。
囚人が死亡すれば、葬儀も所内で営まれる。地上でのつとめを終え、あとは土に還るだけとなって、はじめて塀の外に出られるのだ。引き取り人がいればの話だが。

最高のセキュリティ、最低の人権

社会的な生き物である人間から社会性を奪い、なんの選択肢ももてない監禁生活のなかで、どこまでも自身の罪と向き合わせる。見方によっては死刑より残酷な罰である。事実、みずから命を絶つことで地獄の日々を強制終了させようとする者が後を絶たない。しかし、それに成功したのはこれまでにわずか8名。

このように、どの刑務所よりも厳しい懲罰モデルを採用し、元所長ですら人道にかなっていないと認めているほどだから、受刑者が精神を病むのも当然といえる。収監されて数か月もたつと、幻覚をみる、壁に向かって話しかける、壁を打つ、排泄物を部屋じゅうにまき散らすといった異常行動のほか、不眠、うつなどの心の病がみられるようになる。ADXの抑圧的な管理体制は、秩序と安全を維持するうえで有効だと支持する声がある一方で、国内外の人権団体から非難を受けているのも事実である。

個人的には、日本にもこのような刑事施設をつくるべきだと考える。少なくとも「社会的責任を放棄して国家に養われたい」という動機で犯罪を犯す者や、死を望んで犯罪を犯す者には抑止力になるだろう。生ぬるい環境は犯罪組織の拡大や新たな犯罪につながってしまう。なによりも、高リスクの受刑者を社会から完全に隔離することで救われる命があるはずだ。その前に人権問題とコストの壁を乗り越えなければならないが。

「収監」という手段が犯罪者の更生に本当につながっているのかと、刑務所のあり方が世界中で問われている昨今、なにかと論争の的になりがちなADXフローレンス。しかし先に述べたように、ここは矯正施設ではない。このさきも運営はつづくと思われる。
米国は世界的にみても再犯率が高い国のひとつだが、このように徹底的にマニュアル化して粛々と実施するところはいかにもこの国らしい。

featured image:Federal Bureau of Prisons, Public domain, via Wikimedia Commons

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