屈強な兵士は強い軍隊の基礎のはずなのですが・・・。
帝国陸軍兵力
帝国陸軍の武力を背景にした中国大陸での勢力拡大は、1937年、対中国全面戦争に発展した。
さらに日本は1941年、これを侵略戦争として警戒する米国とも開戦。
この過程で帝国陸軍の兵力は急増した。
帝国陸軍兵力
1931年>23万人(満州事変)
1932年>30万人(満州国建国)
1937年>50万人(日中戦争)
1938年>100万人
1941年>210万人(太平洋戦争)
1943年>310万人
1944年>410万人
1945年>550万人(終戦)
日本軍の徴兵制
旧日本軍の兵役法では満20歳男子の徴兵検査受検が義務付けられていた。
受検者は身体検査により次のように格付けされる。
日中戦争以前 | 以後 | |
甲種 | 現役適格(入営) | (入営) |
第一乙種 | 現役適格(第一補充兵役) | (入営) |
第二乙種 | 現役適格(第二補充兵役) | (第一補充兵役) |
第三乙種 | 現役適格(設定なし) | (第二補充兵役) |
丙種 | 国民兵役(能力不十分) | |
丁種 | 兵役不適格 | |
戊種 | 翌年再検査 |
日中戦争開始前の平時の徴兵法では即入営なのは甲種のみだったものが、日中戦争以後は第一乙種まで現役入営となり、第三乙種を新設して現役兵の補充にあてることになった。
その結果、兵役検査受検者数に対する現役徴集者数の割合は、25%(1937年)から77%(1944年)にまで増加した。
この措置は実質的には適格基準の緩和であり、それまで実質的に兵役免除であった第二乙種が現役適格となり、能力不十分としてほぼ兵役免除だった国民兵役の者でさえ、補充兵として入営する例が生じた。
兵士能力の低下
単に不足数を補充するためだけの大幅な適格基準緩和による、兵士の能力低下にの悪影響は各方面から報告された。
体格低下
陸軍では各サイズの補充用軍服を一定量在庫している。
通常、小さなサイズの軍服が残る傾向が強かったが、戦争末期には小サイズの軍服の在庫が急激に減って不足さえした。
体力低下
兵士の平均体重が56㎏から50㎏に落ちていた。
体格低下はそのまま体力低下に現れ、補充兵が前線部隊に到着した時点で、そのほとんどがすでに半病人というほどに疲労しており、現地訓練や野戦行動に耐えられず兵士としての用をなさなかった。
教育なし、兵器なし、知的障害
補充兵全員が兵士基礎教育を受けておらず銃の扱いを全く知らなかった。
また銃など兵器の支給もなく手ぶらで送られてきた。
中には仮名の読み書きができないほどの知的障害者も含まれており、知的障害と判定される者の割合が3~4%の部隊もあった。
携行装備の負担激増
陸軍兵力の中心である歩兵は、鉄帽・小銃・弾薬など武器や、遠征戦の場合は食料・天幕など野営用品を各自携行し、移動は徒歩行軍が基本だった。
陸軍軍医団の研究では、荷重負担限度は体重の40%とされたが、現場では50%越えが常態化していた。
それは近代戦闘の複雑化などによる武器装具の増加によるものでもあったが、兵士の体格低下も大きな原因だった。
例えばインパール作戦では、ある部隊の個人装備は40kg以上だった。
1943年徴兵検査時の平均体重が20歳で53.2kgなので、単純計算すればその負担率は75%を超える。
兵士たちはこの重量を負担しながら、密林と2000mの山を越える400kmの道なき道を踏破したのである。
日米陸軍兵力比較(1945年)
数字は各資料からの寄せ集めなので正確とは言えないが、おおよその傾向は推測でき、人口に対する動員兵力の割合は日米ほぼ同等である。
兵力 | 動員兵力 | 人口 | 戦死者数 | |
日本 | 296 | 547 | 7200 | 230 |
米国 | 800 | 1126 | 14500 | 29 |
では米軍でも同様の兵士能力低下があったのか、という疑問が出て来る。
しかし戦死者数の著しい差に注目したい。
つまり米軍では経験豊富で有能な兵士が前線現場に多く存在したと推測できるのに対し、日本軍は補充しただけ戦死していおり、兵士の使い捨てである。
国力の差だけではなかった無謀
太平洋戦争の対米開戦については、生産力・経済力に注視した、国力格差の観点から無謀だったという、俯瞰的分析が中心である。しかし戦力の基礎である兵士に焦点をあてた視線で見ると、ここにも大きな無謀があった。
兵器の生産・更新や兵站などの不備は国力差に負うところ大きく、日本軍の戦病死者増加がこれに起因することは確かである。
しかし軍部が自国の国力を無視して戦争に突入し、無謀な戦略作戦で戦争遂行を強行していった裏には、「貴様らの命は赤紙一枚、一銭五厘だ」という言葉に象徴される、軍上層部の国民に対する意識があったに違いない。
見逃してはならない大きな無謀である。
※画像はイメージです。
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