「遠くの的を」「正確に」「一撃で」…それは人類が「遠距離から攻撃する」という方法を覚えて以来、長らく追求し続けてきた結果が、投擲武器であり弓矢であり、銃砲から果てはミサイルといったスタンドオフ兵器にまで至る兵器の歴史となって現れたと言えるでしょう。
そんな中で、直接的に照準を向けて対象へ打ち込む兵器の「最高峰」と言えるのが、物理現象として最高の速度を持つ「光」を用いた「光学兵器」とも呼ばれるものです。
エンターテインメント界隈、殊SF周りでは光芒閃くアクションシーンのお供として、時折光速で飛び交っているはずのそれを平気で躱すなとツッコミを呼びつつ無くてはならない存在感を放っています。
他方現実世界では中々「気軽に」と行かないものの「実用に耐える」ものが姿を表しつつあるこのご時世、改めて「それは何なのか」という基礎的な部分から迫ってみたいと思います!
「レーザー」「ビーム」「○○光線」!レーザービームは何者だ?!
太陽光から月明かり、焚き火松明懐中電灯…世に「光」は満ち溢れていますが、兵器として運用出来る程に「威力」を高めた光というものは中々に得難いものでしょう。
古代ギリシャの発明家「アルキメデス」が集光レンズの理論を用いて遠距離の敵船を燃やす「熱光線」を構想した、と言われるのが現実に伝わる限りで「最も古い光学兵器」と言えるかもしれません。
○○光線
これは太陽光、即ち「自然光」を用いたものですが、広く降り注いでいるこうした光も大量に集め一点へ収束させる事で強力な「(熱)光線」。
正確には収束された一点に高い熱量が生まれるので「光点」となるのかもしれませんが…と呼ばれるものになります。
詰まる所「○○光線」という呼称は「線状になった光」を広く一般的に表すものだと言える事になります。
ビーム
「ビーム(beam)」とは「光線」の英訳であり、同じように「光源から広く広範囲を照らす光」と区別する形で用いられる語、という事になります。
尚、この「ビーム」には「電子ビーム(陰極線、電子線)」のように「ほぼ光速にまで加速された粒子=元々光とは認識されないもの」によるものも存在し、これらは「粒子線」と呼ばれ「光線の一種」となります。
これらが意味する所としては、起源がどうあれ「光速にまで加速されるとある種の光として認識される」という理屈になる…と大雑把な説明が一応成り立つと言える事になります。
レーザー
こうした光の区分において、一段特殊な分類となるのが「レーザー(laser)」です。
「レーザー(laser)」という名称は「Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation(誘導放出による光増幅放射)」という語の頭文字を取ったもので、この方法論から発生させられる「波長がほぼ均一に揃えられた(コヒーレント)人工光」を指します。
これは「レーザー」という光が自然にはほぼ存在し得ない人工による光であるという事を意味します。
これは自然光の光源が「ランダムな方向へ放射」するという基本的な性質から逃れる事は出来ず、高エネルギー状態から得られる「強い光」は「複数の波長光が混ざってしまう」事から「波長が揃う」という状況が希有だという事を意味します。
「自然放出」と呼ばれる現象
この自然光の性質は前述した「アルキメデスの熱光線」から、一点に集まれば木材を燃やす程の高熱を発する光が「太陽光」として散らばり世界を照らし出しているという逆説が成り立つ事からも分かるものと言えます。
そんな「自然に存在しない光」を作り出す現象である「誘導放出」ですが、この現象が「分かりやすく」。
自然において珍しい現象を比較的起こしやすいのが、世界初のレーザー発振器を構築する材料にもなった「ルビー」です。
「コランダム」と呼ばれる鉱石の中でクロムの含有量が1%前後のものが、透明度を持ちながら赤色に発色する宝石として「ルビー」と呼ばれますが、実はこの赤色と言うのが「他の光を吸収して赤色光を発している」という性質に由来しています。
これは「自然放出」と呼ばれる現象で、金属元素など(ルビーの場合は三価クロムイオン)が光を受ける事でエネルギーとして吸収、高エネルギー状態である「励起状態」になった結果、留め置く事が出来ないエネルギーを赤色光として「放出(放射)」するという流れになります。
この「励起状態」から「放出」が起きるまでは、極めて短時間ながら時差が存在する為、現象として「励起状態となった元素が更にエネルギーを受ける」という事態が有り得ます。
この場合、得たエネルギーを同時に「同じ方向へ」放出するという「誘導放出」が起こります。
自然現象ではほぼ有り得ない事ではありますが、連続的に物質全体が高エネルギーに晒される事で、全体的に「励起状態」となった元素が多数を占める「反転分布」という状態になり、確率的にこの現象が発生しやすくなります。
これを元に両端に鏡を配置した棒状の合成ルビー(レーザー媒質が接続された光共振器)にフラッシュランプ(エネルギー源)を巻き付け、周囲から強力な閃光を照射し続けられるようにする事で、ルビー内部で「往復する波長の光」が鏡によって反射を繰り返して「増幅」されていきます。
最終的に鏡が反射しきれないだけのエネルギーに達すると、鏡を透過して単一波長の「光線」が発振される事になる…と言うのが「ルビーレーザー」の原理とされます。
およそ「レーザー」と呼ばれるものは「レーザー媒質と光共振器」に「エネルギー源」が組み合わさって発振される仕組みになっており、エネルギー効率や得られる波長等の目的に応じて様々な種類が存在します。一様に「単一波長の光線」であるという事が共通するものになります。
ちなみに「レーザー」はこの「光の波長が揃う」という発生メカニズム上、常に「レーザービーム(光線)」の形態を取って現れる…という事になります。
「レーザー」対「ビーム」強いのはどっち?!「強い」光とは何なのか!
一般論として「強い光」という言葉を使う時、これは「明るい」光である事を指すものであり「ルクス」や「ルーメン」と言った「照度」や「光度」の単位を用いるものとなります。
これらも本質として「光源から放射されるエネルギー量」を表すものではありますが、いわゆる「光学兵器」が目指す所の「威力」とは少し違った「目先」であると言わねばなりません。
(恒星のように莫大なエネルギー=破壊力を発する存在が結果的に凄まじい明るさを放つ、という事は有り得ますが)
レーザー
現実の兵器として「レーザー」を用いるものは、主に「レーザーサイト」や「照準用レーザー」といった高い指向性や干渉性を利用した対象との距離等を測定する機器が広く実用化されている中で、物理的破壊力を行使する「高出力レーザー兵器」とされるものも存在します。
これらはCIWSの様な防空システムと組み合わせられる事で、ドローンや無人機等のセンサーやモーターをレーザー照射によって発生する熱で破壊する、或いは搭載された爆発物に引火させて破壊するといった用途での運用が公表されています。
現在実用にこぎ着けているものは、大気圏内での減衰が比較的少ない強力な赤外線(=熱線)を用いた数十キロワットクラスのものが多くを占めており、安価な飽和攻撃手段として注目を集めつつあるドローン等に対抗する手段として実積を積んでいるとされます。
その威力としては、アメリカ海軍の定義に拠ると「30キロワット級」で「レーザー溶接6台分」という、極めて「現実的な威力」が記述されているとされます。
この「威力」とは、赤外線、即ち「照射されたものに熱エネルギーを渡す」作用を持った光を「30キロワット分」=「レーザー溶接6台分」送り届ける事が出来るものだという事を意味します。
つまり「レーザーの威力」とは「(焦点位置に発生する)熱」であるという事、そして現状では用いられる光が「赤外線」「見えない光」であるという事になります。
「対象に熱を発生させる」力が強く、大気中で減衰しにくい光という実用性に則って選定されたものなので「見栄えがする必要は無い」というのも致し方無いという所でしょう。
威力については「熱」を利用するというのが基本となる事から、レーザーを増幅させる為の光共振器を強化する事やエネルギー源を如何に強化するかという事が技術的障壁となっており、装甲目標を溶断する程の威力は理論的に考えられてはいるものの、現実的には大きなブレイクスルーが必要だと言える状況とされます。
ビーム
一方「ビーム」の方はどうかと言えば、こちらはいわゆる「荷電粒子砲」、電荷を持った粒子を電磁力によって操作・加速させる事で威力を発揮させるもの等のアイデアが存在します。
工業用の「電子ビーム溶接」や、超高精度の光学分析に用いられる超高強度の光を発生させられる「自由電子レーザー(FEL)」等、動作原理において実現可能性が期待されるものではありますが、レーザー以上に加速させる粒子の選定や飛程の増強が難しいとされ、実現にはレーザー以上のブレイクスルーが必要。転じて「実現されたならばレーザー以上の威力が期待出来る」というようなものだという観点が成り立つと考えられます。
例えば「機動戦士ガンダム」において猛威を奮った「ビームライフル」等は、見た目こそモビルスーツが運用出来る小銃サイズの武器ながら、実はその威力たるや「戦艦主砲と同等」であるとされる莫大なエネルギーを秘めているとされます。
そこには「エネルギーCAP」と呼ばれる「ミノフスキー粒子」を縮退寸前まで圧縮、高エネルギー状態で封入した弾倉状のエネルギー源とされる途轍もないものの存在を背景としているという事が描かれています。
目からビーム
余談として、エンターテインメントの世界では、時に人間と同じような形態をした存在がその肉体からビームやレーザーを放つという描写がされる事があります。
古くは「スーパーマン」の「ヒートビジョン」という目から熱線を放つ技からも見られるこの「現象」ですが、高エネルギーのビームを得る手段が非常に高い壁となっている現実から考えると正に「謎」と言わざるを得ないものです。
これを考える一例として「ジョジョの奇妙な冒険」の第一部と第二部に登場した「空裂眼刺驚(スペースリパー・スティンギーアイズ)」なる技が存在します。
これは血管を触手のように蠢かせられる等の驚異的な変異能力と回復能力を併せ持つ吸血鬼とされる存在が、己の体液を眼球から超高圧縮して発射する攻撃とされます。
即ちこのように眼球(とそれに連なる身体器官)そのものを発射機とし、その能力を注ぎ込む事で何らかの粒子(体液等)を光速まで加速、発射したとすれば「目から光線」を放ったように見える…かもしれません?!
※画像はイメージです。
思った事を何でも!ネガティブOK!