かわいらしいタイトルとは裏腹に、結末は衝撃的。
トラウマ必須の名作童話です。
トラウマになる!?悲しくて怖い名作童話
「ベロ出しチョンマ」は、同タイトルの短編童話集の中の一作です。
何ともユーモラスでかわいらしい題名ではありませんか。
ところが、読み始めてすぐ、重い話だなということに気づかされます。
主人公は12歳の少年「長松(ちょうまつ)」。タイトルの「チョンマ」というのは、この「長松」がなまったものだそうです。
妹の「ウメ」は3歳。忙しい両親に代わって、長松がウメの面倒をみています。
霜焼けがひどいウメは、手に巻いたキレを取り替えなければならないのですが、痛みから泣いてしまいます。そこで、長松が思いついたのが、変顔をしてウメを笑わせること。眉毛を「ハ」の字に下げてベロを出すというものでした。
その隙に、ウメの手のキレを取り替えてしまうのです。
キレの交換が済んでから、ウメとともに寝床に入る長松でしたが、なかなか寝つけません。長松の家には毎晩のように村人たちが来て、両親とともに相談事をしているからです。
村は災害によって米も麦も不作なのですが、殿様には年貢を前よりももっと出すようにと言われていました。どうしたらよいか、大人たちは夜な夜な話し合っているのです。
そんなことが続いたある朝、長松が起きると、父親がいません。父親は帰って来ず、何日もたったある晩のこと、役人が長松の家になだれこんできました。いなくなった父親は江戸へ行き、将軍に直訴したのです。でもそれは、命がけの行動でした。
そして、一家は刑場に引き立てられていくことになります。両親と長松、妹のウメまでもが、柱に上げられました。目の前で槍が光るのを見たウメが、泣き叫びます。
そのときに長松は、いつもウメを笑わせていた、あの変顔をして見せるのです。
つまり、眉毛を「ハ」の字に下げて、ベロを出すというもの。長松は、その表情のまま、槍で突かれて死んでしまいます。
一度読んだら忘れられないショッキングなラストシーン
役人に捕まって、刑場へ連れていかれる・・・ハラハラドキドキな展開です。でも、子どもの頃に初めてこの童話を読んだときは、どこかで、助けが現れてハッピーエンド。
そんな結末を期待していたような気がします。
淡い期待を抱くものの、現実は甘くありません。悲しい結末が待っていました。
幼い子どもまでもが、引き廻され、柱にかけられて槍で殺される…衝撃的なラストシーンが、頭から離れなくなってしまいました。
この物語には冒頭と末尾に「ベロ出しチョンマ」という人形の説明が記されています。
冒頭では、「千葉の花和村」にベロ出しチョンマという人形があること。末尾には、長松親子が殺された刑場跡に建てられた小さな社のことが書かれています。
長松親子の命日には縁日が立ち、ベロ出しチョンマの人形が売られるのだということです。
残酷な殺され方をした少年をおもちゃにして売るなんてことがあるのでしょうか?
実は、花和村というのも、ベロ出しチョンマの人形も、作者である斎藤隆介さんの創作なのだそう。
ただし、長松の父親の木本藤五郎にはモデルが存在します。
佐倉惣五郎という自分と家族の命を犠牲にして将軍に直訴し、村を救ったという義民伝説で知られる人物です。
最後まで妹を思いやる兄の優しさと強さ
「ベロ出しチョンマ」は、トラウマになりそうな内容ではあるのですが、教科書に掲載されるほどの名作です。
感受性の豊かな子どもたちが、この物語を読んで何を思い、何を学ぶのか気になります。
恐らくは、極限状態にあってもなお、恐怖に泣き叫ぶ妹を守ろうとする長松の優しさに焦点が当てられるのでしょう。
長松は思いやりのある少年ですが、それだけではなく、強さも持っていることがわかります。
家に役人がなだれこんできた際、役人に対して「知ってました。覚悟はしてますだ。ご存分に」ときっぱり言い放った母親の声が震えていないことを「気にいった」と思っているのです。
その強さは、かっこよくもありますね。
長松一家の死後に建てられた社が、何度壊されても元に戻る・・・その様子が長松の強さを表しているような気がします。
身分が低く、まして子どもだった長松は、力で対抗することはできませんでしたが、死してなお、静かに抵抗しているのかも知れません。改めて読み返してみると、この残酷な物語の中にも救いがあることに気づかされた思いです。
(C) 斎藤隆介 作・滝平二郎 絵・理論社
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