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鉄のカーテンの向こうを走る誘拐犯『黒いヴォルガ』

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かつて、ソビエト連邦のゴーリキー自動車工場(GAZ)で生産された「ヴォルガ(Volga)」は、ソビエト国内で人気を集め共産圏に広く流通した。

居住性が高く高級感があり、著名人たちに愛され、庶民には高嶺の花であったこの車は、「黒いヴォルガ」という都市伝説があり、1960から70年代にかけて東ヨーロッパ近辺で蔓延したのだ。
脚色した創作ドラマと共に考察していこう。

目次

黒いヴォルガ

1970年代、東西冷戦下のポーランド。
ある冬の早朝、ワルシャワ郊外にある団地に住んでいた幼い少女は、自宅の窓から珍しいものを目にした。
艶のある黒い塗装が施され、ホイールを鈍く光らせながら、ヴォルガがゆっくりと団地の前に止まった。

ヴォルガは官僚や芸術家など選ばれた人間だけが乗れる車であり、普通の市民にとって羨望の的だった。
少女が住んでいる団地はポーランド政府が肝いりで建てたもので、生活機能は十分なのだが、共産主義を象徴したような作りで狭くて質素。住人は、決して豊かとは言えない生活していない。

そんな少女にとってヴォルガは滅多にお目にかかる車ではく、「間近で見てみたい」と少女は思った。

雪の積もった路上に出ると、ヴォルガは眼の前に止まっている。
まじまじと見つめていると車のドアが開き、運転席の見知らぬ男が少女に尋ねた。

「お嬢ちゃん、ちょっと道に迷っちゃったんだ。よかったら、このあたりの道を教えてくれないかい?」

少女は驚き、はにかんで俯いていると、さらに男は言った。

「案内してくれるなら、乗ってもいいよ」

言葉につられ、少女は車に乗り込んだ。
その瞬間、ドアが閉り、車は急発進した。
以来、少女は行方不明のままだ。

噂を聞いたワルシャワの住人たちは、憶測を重ねた。

「きっとKGBが誘拐したんだ。両親は西側のスパイだったんだ」
「ロシアから来たマフィアが誘拐したのよ。KGBと組んで」
「どうしてKGBとマフィアが女の子を誘拐しなきゃならないんだ?」
「おまえ、知らないのか?KGBとマフィアはグルになって、闇ビジネスをやってる。女の子は殺されて、臓器をアラブやヨーロッパの病院に売ってるんだよ」

憶測の中には、全く現実感のオカルトめいたものまであった。

「黒いヴォルガに乗った吸血鬼が、美味しい血を吸うために子どもを連れ去る」
「悪魔のいるが子どもを生贄にするために、黒いヴォルガでさらう」

誘拐された者の末路

「黒いヴォルガ」の噂は冷戦時の1960年代から70年代にかけて、ソ連、ベラルーシやポーランド、ハンガリー、ウクライナ等の共産圏から、遠くはモンゴルまで波及した。

もっぱら子供や若者を理由もなく誘拐するまでは共通するが、その犯人は大まかに2つのパターンに分けられる。

政府や反社会的組織

KGBや関与する反社会的組織が誘拐し、愛玩用か殺害され血液や臓器が西側のブラックマーケットに売られる。
吐き気をもよおす残忍な発想だが、リアルさがある。

カルト教団

悪魔崇拝者たちが行う儀式の生贄、吸血鬼みずから誘拐して生き血を吸うというのだが、発送がいきなりファンタジーな方向への飛躍してしまう。
「幽霊の存在を認めない共産圏で、カルト教団は活動できたのか?」と首を傾げたくなるが、ソ連が崩壊して以降に登場したパターンかもしれない。

カルトではないが、犯人はキリスト教の神父や尼僧であることもあり、旧ソビエト圏諸国のバチカンに対しての印象に起因するのだろうか?しかし、現在のポーランドでもカトリック教会の性的虐待が深刻な社会問題となって久しく、それを連想させて逆に不気味さが際立つ。

吸血鬼に関しては、吸血鬼の「母国」であるルーマニアから発生し、発展したのだと推測される。

考察

噂の土壌にあったソビエトが率いる東側諸国は、徹底した社会体制と秘密主義、官僚による独裁が蔓延し、それに共産主義の主張に矛盾した格差が生まれていた。

とりわけヴォルガは政府関係者に好まれ、秘密警察KGBの御用達でもあったことから、国民にとって「何をしでかすか分からない、犯罪を行ってもお咎めがない」治外法権の存在である。
そういった人々の持つ潜在的な恐怖心が、「黒いヴォルガ」を流布させたのだろう。

そして悲しいことに、「黒いヴォルガ」の噂は過去形になっていない。2022年から始まったウクライナ戦争では、ウクライナ国内で「黒いヴォルガ」がパイプラインの破壊工作などを行っていると囁かれている。
もちろんフェイクだが、旧ソ連圏の後遺症が未だに彷徨っている証でもある。

そういえば、カール・マルクスはこう言い残していた。
「妖怪がヨーロッパに出没する。共産主義という妖怪が」
こうした社会矛盾が噴出するかぎり、犯人の思想信条を問わず、「黒いヴォルガ」の役割は終わらないかもしれない。

featured image:EmslichterによるPixabayからの画像

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