私の住んでいるのは海沿いの小さな町で、漁港の堤防の先に小さな赤い灯台があるのですが、地元の船乗りや釣り人たちの間で、この灯台にまつわる奇妙な噂がささやかれています。
それは夜中にこの灯台に近づくと、灯台が話しかけてくるというものです。
身バレが怖いので詳しくは話しませんが、釣りが大好きでうだつの上がらないサラリーマンの私は、仕事に嫌気がさし、独り身なので誰に反対されず、昔から憧れていた漁師になろうとこの町に訪れました。
仕事は性に合っていたようで、周りと馴染めて上手くいっています。
ある休みの日、この赤い灯台がある防波堤で夜釣りをしようと仲の良い漁師仲間を誘ったときに、この話を始めて聞いて「そんな事は無いよ、気のせいだよ」と笑い、忠告を無視して釣りを始めました。
その日は海面が静かで風も穏やかな絶好のコンディション。目の前には赤灯台の光がゆっくりと瞬いており、気持ちよく時間が過ぎていきます。
しかし、ふとした瞬間、海の方からかすかに音が聞こえてきました。最初は風の音だと思いましたが、それに混じって、何か人の声のような響きが聞こえます。
それは、かすかに助けを求めるような「助けて」という言葉に聞こえたのです。
鳥肌が立ちましたが、変な話を聞いたから意識してしまい、波の音がそう聞こえてしまうのだろうと無理やり自分を納得させ、釣りを続けました。
しかし、それから数分もしないうちに、明らかに自分の名前を呼ぶ声が聞こえたのです。
驚いて辺りを見回しましたが、周囲には誰もいません。
もしかして仲間のドッキリ?と思って、「悪ふざけはやめろよ!」と怒鳴り、様子を伺っていても、灯台の光が相変わらず静かに点滅しているだけで、不気味なほどの静寂が広がっているだけです。
だんだんと怖さが増し、なんともいい難い胸騒ぎがしだし、釣り道具を片付け、急いで陸の方へ逃げるように走って行く途中、「待ちやがれ!」と灯台の方から声が聞こえます。その声がした瞬間、防波堤に大きな波が打ち寄せ、たぶんそのまま釣りをしていたら、波に飲まれたかもしれません。
その後はとにかく怖くて、灯台を振り返ることもなく帰宅しました。
次の日、地元の漁師仲間にこの話をすると「ほらいわんこっちゃない」と言われ、こんなことを聞かされました。
あの赤い灯台付近では、海に転落した釣り人が何人も行方不明になっている。そして、不注意で灯台に近づきすぎた人々が謎の声を聞くことがあり、その声はまるで「自分の場所に引き込もうとしているようだ」と。
それ以来、あの灯台の近くで釣りをすることをやめましたが、なにも知らずにやってきた釣り人が不気味な声を聞いたという話を耳にする事があります。
※画像はイメージです。
思った事を何でも!ネガティブOK!