小学生五年生になったばかりの春休み。
いつもは友達と裏山や河原に行って遊ぶのですが、いつもの友人は家族で出かけてしまい、1人で近所の公園に行きました。
ブランコと鉄棒しかない小さな公園なので、ほとんどここで遊ぶ事はありません。
公園の裏には取り壊しが決定したマンションがあって、普段は工事の音が家まで聞こえてきてうるさいのですが、今日はお休みのようで、しんと静まり返っています。
まわりを囲む灰色のシートが風でバタバタ音を鳴らし、すこし不気味なかんじです。
つまんない
つまんないと思いながら、誰もいない公園でブランコを漕いでいました。
すると私と同じくらいの年齢の男の子がやってきて、おもむろに声をかけてきました。
「ねえ、知ってる?」
どちらかといえば人見知りなのですが、何のことだろうと思って、知らない子だというのに自然に話をはじめます。
「何を?」
すると、男の子が取り壊しているマンションに指を指して答えました。
「あのマンションだよ」
目に入った建物はやけに近くにあるような錯覚を起こし、暗い灰色に吸い込まれて目が離せないような不思議な感覚に襲われた時です。
男の子は、妙に明るく興奮した声で誘ってきました。
「僕のお家に遊びにおいでよ」
まるでこの世で一番楽しいことに誘うように、私の手を引いてきます。
壊されているのにおかしいな?と思ったのですが、なぜだか誘われるままについていきたいと思い、ブランコから立ち上がった時。
取り壊し中のマンションから「ドーーーン」と大きな音がして、私は我に返りました。
気がつけば、あたりは日が暮れ始めて薄暗くなっています。
「もう、遅いから帰るね」
私は男の子の手を振り払って、逃げるように家へ帰りました。
あの男の子
後から聞いた話によると取り壊しているマンションはかなり古く、エレベーターの落下事故が起きたらしい。
本来ならばブレーキが効いてカゴが止まるのですが、整備不足と経年劣化で8階から勢いよく落ちて、運悪く乗っていた男の子が亡くなってしまったというのです。
それがきっかけで取り壊しが決定したのですが、退去しない住民がいたり、管理していた行政の都合でしばらく廃墟のような状態で放置され、ようやく取り壊しが始まったそうです。
もし、着いて行っていたらどうなっていたのでしょう?
そう思うとゾッとするのと、あの男の子の興奮した声が耳にこびりついて離れません。
※画像はイメージです。
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