私は幼少期、東北で暮らしていました。
当時、一匹の犬がいたのですが、今思えば「飼っていた」とは少し違います。
犬は庭に繋がれたままで、散歩に連れて行くこともほぼなく、特別に可愛がっていた記憶もありません。
家族の一員というより、むしろ「そこにいるだけ」のような存在だったのでした。
昔、飼っていた犬
こうしたことを書くと、「虐待だったのではないか」と感じる方もいると思います。ただ当時、地方では犬は今とは比べものにならないほど、雑に飼われていることが珍しくありません。
外飼いは当たり前で、雪が降っても犬は平気だと、多くの人が疑わずにそう思っていた時代でした。
実際、毎朝に餌をやりに行くと、雪に埋もれた犬小屋の中から尻尾を振って出てくるのです。
前の晩から大雪が降った朝、庭に出ると、犬は雪の中で動かなくなっていました。
丸くなったまま、体は冷え切り、もう息をしていません。
母は「老犬だから仕方ない」と言いますが、ひどくショックを受けたことだけを覚えています。
あの頃、犬を家の中に入れるという発想はほとんどありませんでしたが、大雪が降っていることも、犬が年を取っていたことも、分かっていたはずです。
せめてあの夜だけでも、玄関に入れてあげていればと、後悔の念に何度も胸を締めつけられました。
それにもう少し、可愛がってあげればよかったなとも。
犬が現れる
それからしばらくしてのことです。
布団に入って、ふと天井の方に目をやると照明のすぐ横に、犬がお座りをしているような姿勢で空中に浮かんでいました。
翌朝、犬が恨んで幽霊になって出てきてたのだと、母に話しても信じてくれません。
もし本当に出てきているなら、他の家族も見るはずだと。それ以上、何も言えませんでした。
私は来る日も来る日も、夜になると現れる犬が怖くてたまりませんでした。
布団に入るのが嫌で、目を閉じるのも嫌でした。
それでも、いつの間にか犬は現れなくなりました。
いつから見なくなったのかも、はっきり覚えていません。
気がついたら、ただ見なくなっていました。
理由は分かりません。
犬のこと
大人になってから何気なく見ていた動物番組で、多頭飼育崩壊の現場から保護された犬が映し出されました。
その中の一匹が、かつて家にいた犬とよく似ていたのです。
テレビを見た瞬間、胸の奥がざわつき、忘れていたはずの記憶が一気に戻ってきました。
もちろん、犬が再び現れることはありません。
今になって思えば、あの夜に見た犬は幽霊ではなかったのだと思います。
心の奥に残っていた後悔や罪悪感が、ああいう形で現れていただけなのでしょう。
あの頃は怖くて怖くて、そんなふうに考える余地はありませんでしたが、時間が経った今なら、そう理解できます。
画面の中の犬が、こちらを見ているように思えました。
その瞬間、悔やんでも悔やみきれない感情が胸にあふれてきて、もしまた犬を迎えることがあるなら、今度こそ大切にしよう。
そんな当たり前のことを、遅すぎるほど遅れて思いました。
だから私は、この記憶を書き残しておきたいと思います。
忘れてはいけないこととして。
※画像はイメージです。


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