高齢の上に機械音痴な父は、長年のガラケーユーザーです。
そのガラケーが不調になり始め、仕方なく買い替えるというので、私は携帯ショップに付き合うことに。
同じタイプのガラケーを手に入れたはずですが、「ボタンの位置がかわっちゃって、よくわかんねえ」とボヤく父に、私達はあきれてしまったのでした。
倒れてしまった父
それからしばらくして、父は「身体がだるい」と訴えるようになり、母と私は病院の受診を勧めました。
しかし医者嫌いで、健康診断も受けたことがない父。
母は心配してなんど説得するのですが、「うるせー!自分の身体の事は自分が知っている!」と頑なに首を縦に振りません。
そうこう押し問答を繰り返していると、ある日、父は突然倒れてしまいました。
救急車で運ばれた先の病院での診断は虚血性心不全。意識を失った父は、集中治療室のベッドに横たわっています。
たくさんの管に繋がれたその姿を見て、母は完全に動転しきっていた。
病院からは「いつでも連絡が取れるようにしてください」と言われ、母と私は不安を抱えながら家に戻り、憔悴している母を寝床におしこみ、私もベッドへ入って目をとじました。
夜中の着信音
午前2時、スマホの着信音にハッと目が覚めました。
画面には「非通知」の文字。
普段なら取らないのですが、病院からかもしれないと思い、通話ボタンを押しました。
「はい」と出てたのですが、相手は無言。
しばらくの間、何も聞こえないまま沈黙が続き、様子を伺っていると、突然通話が終わりました。
翌朝、念のために病院に連絡をとりましたが、電話をかけていないと言います。
そして、その夜もまた、午前2時に同じように「非通知」からの着信がありました。
同じように「はい」と応じても、無言のまま。
不思議と苛立ちも、不気味さも感じず、今度は私の方から通話を切りました。
ガラケーの行方
翌日の午後、病院から悲しい知らせが・・・父は意識を取り戻すことなく亡くなってしまった。
悲しみにくれながら、お葬式まで済ませ、ようやく落ち着いた頃。
ふと、父のガラケーが見当たらないことに気が付きました。
倒れる前に紛失していたのか、それとも盗まれたのかはわかりません。
解約する為に契約している業者に連絡して、調べてもらっても不正使用された形跡はありませんでした。
あの着信が父からのものだったのかは、確かめようがありません。
ただ、今となって非通知の無言の着信に父の気配を感じたように思います。
「ボタンの位置が変わっちゃって、もうわからねえや」
父がガラケーを手にぼやいたこの言葉がに耳に残りっています。
※画像はイメージです。
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