決闘裁判、神に誓って係争を抱えた者同士が決闘し、勝敗によって判決がくだる裁判形式のこと。
概要を聞いただけでも現実の話とは思えないが、実はこれ、中世ヨーロッパに実在した裁判なのである。
今回ご紹介する漫画『決闘裁判』(著: 宮下裕樹)は文字通りこの決闘裁判をモチーフとした作品。なかなか現代人には想像がつきづらいテーマを扱った本作。
決闘裁判が一体漫画ではどのように描かれているのか、今回は詳しく作品に迫ってみたい。
トンデモ?それとも時代ゆえ?決闘で判決が決まる!
「決闘裁判」このワードを耳したことがある人はどれぐらいいるだろうか?
冒頭でも触れたが、決闘裁判とは証拠が不足し、原告と被告の言い分が食い違った際、両者が決闘しその勝敗によって判決が下されるという裁判の形式を指す。つまり決闘に勝ちさえすれば罪を犯していても無罪となるし、負けてしまえば無罪でも罪を負う・・・ちょっと考えただけでも激ヤバなシステムの裁判だ。
なんとなくマッド・マックスや北斗の拳など、世紀末ディストピア世界で行われていそうなこの決闘裁判。実はかつてヨーロッパで本当に行われていたもの。
神に誓いを立てて決闘すれば、おのずとその勝敗は神の意思となるという考えのもと、本当に裁判の結果が決闘で決まっていたのだ。
今回ご紹介する漫画、『決闘裁判』も16世紀ヨーロッパを舞台に、神の名のもと「決闘裁判」で人々の運命が決まってしまう世界で、ひょんなことからこの決闘裁判に関わることになった少年の闘争と旅を描いた漫画作品。
公明正大であるはずの法廷が、よりにもよって力に支配された世界で奮闘する主人公たちの姿が描かれ、日本ではあまり馴染みがない「決闘裁判」というテーマも相まって面白い仕上がりとなっている本作。
国内エンタメで中々触れる機会がない「決闘裁判」を扱った作品として、チェックしておいて損はない漫画と言えるだろう。
史実プラスフィクションの面白さ
かつてヨーロッパで実際に行われていた裁判、「決闘裁判」。今回ご紹介している漫画『決闘裁判』はタイトルそのままこの「決闘裁判」を取り扱った漫画だ。
ここからは、こちらの作品の内容をさらに掘り下げていくのだが、その前にひとつ注意してほしい点がある。実は、作品の舞台となる16世紀、史実では決闘裁判は廃れつつあり、だんだん行われなくなっていた。
実際に本作のように片田舎の街でガンガン決闘裁判が行われていたとは考えづらく、このあたりはあくまで漫画ならではのフィクションとして捉えたほうがいいだろう。
とは言え、そうした史実と少し異なる「時代劇要素」も本作ではある種のスパイス。内容を鵜呑みにするのは禁物だが、わかった上で楽しめば、味わい深さも二倍。
「決闘裁判」については、近年映画で取り上げられたこともあり、文庫などてわかりやすくまとまったものもあるので、漫画を読んだ後史実について調べて見ても面白そうだ。現代の私たちの常識では計り知れないものだけに、漫画をスタートに多角的な楽しみ方ができるテーマなのかもしれない。
「決闘裁判」を司るのは美少女裁判員?狼?
さて、そんな漫画世界でそして主人公はなぜ決闘裁判に巻き込まれてしまったのか?さらに詳しく見ていこう。
舞台は神聖ローマ帝国。片田舎の城塞都市で正義感の強い姉と暮らす少年ニコは、街で横暴の限りをつくす傭兵くずれ、ギュンターに因縁をつけられ、姉を無惨に殺されてしまう。
公正な裁きを求めるニコはギュンターに「決闘裁判」を申し込むのだが……というのが物語のはじまり。連戦連勝の決闘士でもあるギュンターと平民の子供ニコ。力の差は歴然。
当然ギュンターに軍配があがると思われたのだが、ここで決闘の行方を左右するもう一人の重要人物が街にやってくる。法王庁直属の巡回裁判員アリアと、その随伴員の狼(?)ヴォルフだ。任務として諸国をめぐり、どうやら「決闘裁判」制度そのものに思うところがありそうなアリアと、さらに訳アリ(どう訳アリなのかは漫画を読んで確かめてほしい)なヴォルフ。
第一話ではこのひとりと一匹(?)の介入もあって、ニコは見事ギュンターに辛勝。みごと勝訴を勝ちとる。そして真実と公正な裁きを求め、アリアたちの旅に同行することとなる。
こうしてはじまった二人と一匹(?)の旅路は、アリアの目的が徐々に明らかになるに従い、「決闘裁判」そのものを揺るがすレベルの意外な方向に進んでいくのだが・・・それは読んでのお楽しみ。ぜひここから先は実際に二人と一匹の旅路を見届けてほしい。
漫画『決闘裁判』は難しいテーマを扱いつつ
「歴史裁判もの」というと当時の法律に詳しくないと楽しめないのでは?ヨーロッパの歴史に詳しくないといけないのかな?など、ちょっと敷居が高く感じるかもしれない。だが、本作が扱うのはバトル要素も多く(決闘が裁判のメインなので当たり前)、良くも悪くも少年漫画らしい仕上がりでとっつきやすい。
また、不正を許さないアリアとニコの旅路は、やや水戸黄門っぽさもあって、異国の物語ではあるが肌に馴染む。
「決闘裁判」のシステムには現代人としてはギョッとさせられるが、漫画『決闘裁判』は難しいテーマを扱いつつ、なかなか健闘した作品と言えるだろう。気になった方はぜひチャレンジしてみてはいかがだろうか。
(C) 宮下 裕樹・後藤 一信 講談社 ヤングマガジン
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