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ウクライナが生んだの救国の英雄?「キエフの幽霊」

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2022年2月24日に生起したロシアによるウクライナへの軍事侵攻、所謂ロシア・ウクライナ戦争は2024年10月末には2年8ケ月目に突入しようとしているが、まだ収束の兆しは薄いように個人的には映っている。
但し2023年6月から行われたウクライナ軍の反攻作戦が事実上失敗して以降は、地上における戦闘ではじわじわとロシア側が東部を中心にウクライナ側の領土を侵食する状態が続いていると、残念ながら言えそうだ。

開戦時に短期のウクライナ制圧を目指したロシア軍は、北東部でキエフ方面、南部でへルソン方面、東部でルハンスク及びドネツク州への3方向からの同時進侵攻を行ったが、これは目論見通りには進まなかった。
ロシア・ウクライナ戦争の開戦劈頭に、ウクライナ軍がロシア軍を撃退できた理由として、トルコ製の中型無人航空機のバイラクタルTB2やアメリカ製の個人携行式の対戦車ミサイルであるFGM-148ジャベリン等の存在がメディアを賑わせた。

そうしたメディアによる報道は、劣勢なウクライナの国内の士気を少なからず上げる役割も担ったと思えるのだが、中でも最初期に多くのSNSで喧伝されたのが、「キエフの幽霊」と称された存在だった。
「キエフの幽霊」は、ウクライナ空軍に所属しMig-29戦闘機を駆って短期間に多くのロシア空軍機を撃墜したとされるパイロットに与えられた称号で、現在では特定の個人を指すものではないと解釈されている。

目次

「キエフの幽霊」の出現

「キエフの幽霊」が最初にSNSに登場したのが何時なのは定かではないが、2022年2月24日の開戦からほぼ時間を置かずして急速に拡散されて広まったと思われ、そこでは開戦初日からの僅か30時間程でロシア軍機を6機撃墜したと謳われた。
この戦果はウクライナ空軍に所属する1人のパイロットが愛機のMig-29戦闘機を駆って行ったとされ、撃墜した内訳はロシア空軍のSu-25攻撃機とSu-35戦闘機が各2機、Su-27戦闘機とMiG-29戦闘機が各1機の合計6機とされた。

これだけの戦果を僅か1名の「キエフの幽霊」が挙げたと言う主張は、SNSが情報元である事を含め本来であればそこまで広まる類のものではないようにも感じられるが、これを補強したのがウクライナ国防省等だった。
ウクライナ国防省はロシアによる軍事侵攻開始から3日後の2022年2月27日、「キエフの幽霊」の存在を認める立場を表明した為、ウクライナ国内に留まらず西側諸国でもウクライナ政府の公式見解だと見做される事となった。

その後、「キエフの幽霊」が挙げたとされる撃墜数は、開戦より5日後には10機を超え、更に2022年4月末までには50機を超えたと言う、凡そ個人が1機で達成したとは信じがたい戦果がSNSで拡散された。
しかしこうした中でもウクライナのポロシェンコ前大統領が自身のTwitter上に「キエフの幽霊」だとするパイロットの写真を投稿、ウクライナ国防省もその戦闘の様子と称する動画を公開するなど、この件の信憑性を高める方へ作用した。

SNSで爆散された「キエフの幽霊」の実像

前述したように「キエフの幽霊」は、ロシアによる軍事侵攻に晒され窮地に陥ったウクライナにおいて、その祖国の抵抗を分かり易く示す、言わばアイコン的な物語の主役として広まっていったものと考えられる。
個人的にはそこには祖国を襲ったこのロシア・ウクライナ戦争、その劈頭に首都キエフの早期の失陥さえも起こり得るとされた極限の状態の中で、多くのウクライナ国民が希望の拠り所と感じた部分が大きかっであろう事は造像に難くない。

そこに持ってきて自国ウクライナのポロシェンコ前大統領と言う、知名度やステータスも申し分のない人物が、SNSを通して「キエフの幽霊」だと主張するパイロットの写真を投稿した影響力も大きかっただろう。
更にウクライナの国防省までSNS上で、「キエフの幽霊」の実在を喧伝する内容の動画を公開した事は、ロシアの脅威を実際に目の当たりにしたウクライナ国民にとって、救国の英雄と捉えられたと思われる。
しかしやがてこれらの「キエフの幽霊」の実在の証拠と見られたSNSで拡散された内容の多くは、時間の経過と共に現実ではない、所謂フェイク情報であるとの検証が成され、当初の熱狂は冷めていった。

先ずウクライナのポロシェンコ前大統領が自身のTwitter上に「キエフの幽霊」として投降したパイロットの写真は、ロシア・ウクライナ戦争が始まる2年前の2019年に既に搭乗者用ヘルメットのテスト風景として公開されていた1枚であると判明する。
またウクライナ国防省を始め、多くのSNSの賑わせた「キエフの幽霊」の戦闘の状況を捉えた画像の多くは、ゲームの「デジタル・コンバット・シミュレーター・ワールド」を加工したフェイクだと判明した。
つまりポロシェンコ前大統領やウクライナ国防省の行いは、主としてウクライナ国内の士気を高める目的で意図的に実施された戦意高揚を狙ったプロパガンダ戦略の一環であったと、分析により証明されてしまった形だ。

但しこうした指摘が行われた以後も、主としてウクライナ国内や同国を支援する西側諸国の中では、苦境にあったウクライナの士気の高揚と抵抗の象徴とされた「キエフの幽霊」について、良いフェイク情報と言う好意的な解釈が成された。

「キエフの幽霊」のモチーフとされたパイロット達

2024年4月末にはイギリスの著名なメディアであるタイムズ紙が、「キエフの幽霊」」のモチーフである同国空軍のステファン・タラバルカ少佐が、落命を遂げたと言う内容の記事を報道するに至った。
タイムズ紙は同記事の中でウクライナ空軍のステファン・タラバルカ少佐は、開戦後40機以上に上るロシア軍機を撃墜したと記述したが、ウクライナ国防省側はその戦果は過剰で「キエフの幽霊」の存在もフェイクと認めた。
しかし同時にウクライナ国防省は、ロシアによる軍事侵攻を受け危機的な状況に陥った同国にとって、「キエフの幽霊」の逸話は同国空軍の優秀且つ献身的な複数のパイロットの精神的な集合体だと表明した。

2023年8月にはウクライナ空軍のパイロット・アンドリー・ピルシチコウ大尉が、練習機による訓練中に両機との空中接触事故により落命、彼もまた「キエフの幽霊」のモチーフの一人だったと報じられた。
この実在したウクライナ空軍のパイロットの落命に伴い、多くのメディアは彼らが「キエフの幽霊」と称された戦闘機部隊の一人だったと記述し、ウクライナ国防省の複数のパイロットの精神的な集合体との説明が強化されたと言えよう。

こうした複数の痛ましい落命の報道から、「キエフの幽霊」はただ一人のウクライナ空軍パイロットではない事と言う事実が浸透し、当初の1名の救国の英雄的なイメージは表舞台から消えたと言えるだろう。
ただ繰り返しにはなるが、「キエフの幽霊」と言う事象がウクライナ国内や支援国である西側諸国の国民に、大きな希望をもたらした事は否定できず、戦時のプロパガンダとしては大きな成功を挙げたケースと感じられる。

「キエフの幽霊」と個人的に思う事

ロシア・ウクライナ戦争と言う究極の事態の中で、ウクライナの善戦を願う人々に一縷の望みを与えた「キエフの幽霊」と言う逸話は、今後のこの戦争を語る歴史の中でも象徴的なワードとして残されるだろう。

個人的には些か不謹慎かもしれないがこの「キエフの幽霊」と言うワードからは、「銀河鉄道999」等の作者として著名な故・松本零士氏の短編漫画・戦場マンがシリーズに登場する「ベルリンの黒騎士」を起こい起こさせる。
双方ともに祖国、ウクライナはキエフ、ドイツはベルリンという首都の名の後に異名が添えられたネーミングであり、自国民の戦意の高揚に相応しいワードとして機能していると感じる今日この頃である。

※画像はイメージです。

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