父方の祖父母が建てた、築五十年の古い木造二階建ての家で起きた出来事です。
両親と姉、兄、そして小学生だった私の五人家族で暮らしていました。
家は古いけれど豪華な和風建築で、一階にはリビング、キッチン、応接間、和室が2部屋に洋室が1部屋、お風呂とトイレの他に納戸があり、二階には両親の寝室、姉の部屋、そして私と兄の部屋がありました。
間取りだけ見れば贅沢でしたが、築年数のせいで隙間風がひどく、室内はエアコンや暖房をつけても、冬は底冷えし、夏は息苦しいほど蒸します。
音や振動もよく伝わり隣や上下の部屋の話し声が聞こえ、家そのもにガタがきているようで、二階の廊下を歩くだけで「ギギギギ」と家全体が軋む音がなるのです。
足音はだれ?
その夜もいつも通り風呂を済ませ、階段を上り、二階の部屋へ向かいました。
慣れてはいるものの、廊下の軋む音は怖く感じ、ふと誰かがついてくるような気もちになります。
自分の部屋に飛び込んで部屋の電気を消し、頭から布団をカブってウトウトしていたとき、誰かが廊下を歩く音が聞こえました。
兄は自分の部屋より奥にあったので、たぶん兄が歩いているのだろうと思ったのですが、普段よりゆっくりな足取りでした。そして、なぜか私の部屋の前でピタリを音が止まったのです。
なにか用事があるのかな?と思って待っていたのですが、一向に中に入ってきません。
「カチャカチャ」と携帯電話をいじっているような音がするので、兄がいるのは間違いない。
ちょっといたずら心が芽生え、こっそりとドアに近づき「わっ」と大きな声とともに勢いよくドアを開けたのですが、そこには誰もいませんでした。
むしろその音や声に驚き、1階にいた家族全員が様子を見にやって来た中に兄はいました。
「あれ?兄ちゃん、僕の部屋の前にいなかった?」と尋ねると兄は首をかしげ、夜遅くに大きな音を出すなと怒られてしまったのでした。
さっきゆっくり歩いてきた足音は誰だったのでしょう?
幽霊なの?
翌日の夜、家族そろって一階の居間で晩ご飯を食べていました。
その頃は家族みんなで食卓を囲むのが当たり前で、テレビではちょうど心霊番組が流れていました。あの時代、心霊ブームでどの局も心霊特集ばかりやっていたんです。
「暗い場所や古い家には霊が集まる」なんて特集の最中、兄がニヤニヤしながら言いました。
「昨日の音、あれ幽霊だったんじゃない?」
冗談だとわかっていても、思わず箸を止めてしまいました。
昨晩のあの「足音」を思い出した瞬間、背中に冷たいものが走りました。
だからその夜は、怖さをまぎらわせようと必死で、「歌えば明るって、霊も寄ってこないはずだ」。
そう信じ込むようにしながら、すこし大きな声で歌いながら、風呂を出て階段を上りきったときです。
廊下の奥に、白い影のようなものが目に入りました。
女の人に見えたので、「お姉ちゃん?」と声をかけました。
けれど、返事はありません。微動だにせず、ただそこに立っている。
次の瞬間、思い出しました。
お姉ちゃんは、さっき風呂を交代したから入ったばかりだ。
じゃあ、いま目の前にいるのは誰?
逃げようとしても、腰が抜けてへたり込んでしまって動けません。
そのモノは、ゆっくりと、まるで床を滑るように私に近づいてきて、真っ白な顔つきで笑いかけてきます。
「ぎゃあああああ――!」
自分の悲鳴が、家中に響いた。
あれはいったい何だったんだろう?
昨日と同じように、家族全員が部屋に駆けつけてきました。
私は涙と鼻水と、お漏らしでぐしゃぐしゃ。
そんな姿を見て、兄は腹を抱えて笑いました。
「お前、漏らしたのかよ!」
その一言が、恥ずかしさと悔しさで胸に刺さりました。
父は少し困ったように言いました。
「この家は古いけど、幽霊が出る理由なんてない。もし本当にいたなら、誰かほかの人も見てるはずだろ。お前しか見てないなら、それは幻か思い込みだ」
そして一言、決めつけるように言うのです。
「心霊番組の見すぎなんだよ」
私はただうつむことしかできませんでした。
でも、あのとき見たアレは目に焼き付き、今思い出しても恐ろしい。
幻なんかじゃない。あれは確かに幽霊だと思うのです。
※画像はイメージです。


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