ゼロ年代のSF界に多大な影響を残しつつ、早逝した天才作家、伊藤計劃。
そんな彼が遺したデビュー作にして代表作を、大胆にもアニメ化したものが今回ご紹介するアニメ『虐殺器官』(著: 伊藤計劃)だ。
アニメ化が決定された際、「本当にできるの?」と思ったファンも多いこちらの作品。一体どのようなアニメに仕上がったのか。
今回はそのイマジネーションの世界を少しだけ覗いてみよう。
血まみれの世界で「混沌の王」を追え!夭折の天才作家が遺した緻密でダークな世界観をアニメでも
今回取り上げるアニメ映画『虐殺器官』は、2009年わずか34歳で病没したSF作家、伊藤計劃のプロデビュー作。
テロとの戦いが激化し、高度な情報管理社会となった世界が舞台だ。主人公の米軍士官、クラヴィス・シェパードは、陸・海・空・海兵隊に加えて新たに創設された「第五の軍」情報軍に所属。
混沌とした世界情勢の中、日々過酷な任務に当たっていた。そんなある日、クラヴィスに上層部からある男の暗殺指令が下される。
男の名はジョン・ポール。世界中の紛争地帯に現れては人々を扇動し、凄惨な虐殺を引き起こしている謎の人物だ。
世界を股にかけて暗躍する彼を追うクラヴィスだったが、やがてあまりにも残酷な真実に辿り着くことになる……というのがざっくりしたあらすじ。
ここでどうしても気になるのがアニメ版の仕上がり。原作は現代社会をベースにしつつ、緻密に構築された世界が魅力の、情報量が多い作品。原作小説と比較した際、やはり練りに練られた世界観設定や、登場人物の内面描写の厚みといった面では小説に軍配が上がる。しかし、「映像」で表現される戦闘シーンや、キャストの「声」が乗ったことで広がったキャラクターの感情表現など。
アニメ映画ならではの見どころもふんだんにあり、映像作品としてのクオリティは高めだ。そして、ここは評価が分かれるところだろうが、2時間程度でコンパクトにまとまっているところも映像作品としては魅力的。
伊藤計劃ワールドは世界情勢をはじめとした緻密な世界観設定や、各所に散りばめられた様々な専門分野のエッセンスが魅力だが、小説で触れるとその情報量に圧倒されてしまうこともままある。だが、情報量があらかじめ整理された映像作品ならスルッと受け入れられる人も多いのでは。
もちろんもっと作品世界について知りたくなった場合は、小説を読めばいい。アニメ映画版『虐殺器官』は広大で深遠な伊藤計劃ワールドの入り口としてぴったりの作品と言えるだろう。
映像で体感するイマジネーションの世界!『虐殺器官』はアニメならではのSF表現にも注目
緻密で広大、深遠な世界観のSF小説を映像化したチャレンジングな作品『虐殺器官』。天才、伊藤計劃ワールドの入り口としてぴったりな本作だが、鑑賞するならストーリーだけでなく、伊藤氏のイマジネーションがふんだんに盛り込まれたSF表現の映像化にも注目したい。
本作の舞台は今より「少しだけ」技術が進歩した世界。作品自体がスパイアクションスリラーの系譜なだけに、それらが登場するのは戦闘など血生臭いシーンが多いのだが、伊藤氏が生み出したイメージの塊がアニメ版でどのように換骨奪胎されているかを知るのは面白い。
原作を先に読んだ人なら「このアイテムはこう処理されるのか!」「あのテクノロジーって人間が実際に使うとこうだったのか!」と、うならされるだろうし、アニメから本作に触れた人は原作でそれらがどう表現されているか確かめれば二度楽しめる。そうしたちょっとマニア向けの楽しみ方でなくとも、作中で登場する近未来的なガジェットや、SF的な戦闘シーンの迫力には単純にワクワクさせられる人も多いはずだ。
ストーリーはワクワクしている場合ではないのだが……。
SF作品は重厚で緻密な設定があればあるほど、文字ではイメージできない部分も増えるが、アニメであれば視覚的に理解してガンガン楽しめる。また、本作に登場するSF的なガジェットがあまりに荒唐無稽なものではないところも、個人的には面白いポイント。
適度にリアリティがあり、そのうち私たちの世界でも実用化されるのでは?と想像が掻き立てられるものもたくさん登場する。気になった方は鑑賞の際、ぜひ注目してほしい。
アニメ版『虐殺器官』のススメ
アニメ版『虐殺器官』は、伊藤計劃氏のイマジネーションを継承しつつ、それらを映像で再構成した魅力的な作品だ。
コンパクトで鑑賞しやすいこともポイントだ。深くて広い伊藤計劃ワールドに飛び込むのにぴったりの本作。気になった人はぜひチャレンジしてみてほしい。

(C) Project Itoh/GENOCIDAL ORGAN
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