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山間部の田舎町

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今、私の周囲で起きている出来事についてまとめようと思います。

それは、奇妙な話だと思われるかもしれません。
なぜまとめる必要があるのか。
なぜ、他人に見せる必要があるのか。

しかし、その理由はもちろんあります。
それは、私自身が後から振り返って思い出すため。
そして、それが正常であることを示すためなのです。

というのも、私の中にある記憶は、どこか現実感がないのです。
それらの記憶は、どこか夢を思い出したかのような感覚といえばいいのでしょうか?
いや、その表現は正確ではないかもしれません。
なぜなら、それらの記憶には矛盾や飛躍がないからです。

私の思い違いや勘違いであるならば、それで説明がつくのですが。
そういうわけではありません、ただただ、私には自分の記憶に確信が持てないのです。

違和感があります。
まるで矛盾のないように作られた記憶のような。

そのため、この作業を通じて、私は何か確かなものを掴みたいのです。
そして、もしこの文章に目を通すことになった皆様も、私のこの試みに付き合ってくださることを願っています。

私はウェブデザイナーとして、東京の企業に勤めています。
東京の企業と聞こえはいいですが、普段はリモートワークがメインです。
そのため、基本的に自宅で仕事をしています。
そんな私に、今回、珍しく出張の機会がありました。
実は、最初にこの話を聞いたとき、断ろうと思いました。
私の会社は基本的にこうした業務を外注にしてしまうため、社員を出張させるとなると、何か特別な理由があるはずだと考えたからです。
しかし、この話が私に回ってきた時点で、他の適任者には既に断られた後だったようでした。
私もこの出張を断れば、今後の仕事全体に影響が出るかもしれない。
そう考えた私は、結局、出張を引き受けることにしました。

出張が決まった私は、上司や営業部の担当者からリモートで説明を受けることになりました。
この出張の目的は、地方の魅力を発信するプロジェクトの一環として、ある山間の小さな町の写真を撮影することでした。
その写真は、観光客誘致のために依頼されたウェブサイトに使用する予定だそうです。

つまり、私の仕事は写真撮影だけ。
条件としては破格です。緊張して何か特別な案件なのかと構えていた私は、その説明を聞いて拍子抜けしました。

旅行だと思えばいい、という上司の説得も、確かにこれなら納得できます。
しかし、どこか引っかかるものがある。私はそう感じずにはいられませんでした。

そんなこんなでしたが、直接的には大した準備も必要ありませんでした。
適当に荷物をまとめて、指定された日に移動することになりました。

そして、私はその町へと出発しました。
指定された町は都心からは遠く離れた場所にありましたが、飛行機を使うほどの距離ではありません。
そのため、電車を乗り継いで目的地へ向かいました。

私が降り立った先は小さな駅でした。
その駅に足を踏み入れた瞬間、どこか見覚えのある田舎の風景が広がっていました。
降り立った駅は無人でした。
簡易的な屋根がかかっているだけで、線路がなければバス停と見間違えそうな外観です。

周囲には何もありません。
駅は山間部に位置しており、タクシー乗り場やバス停など一切ありません。
それどころか、山の中にあるため、周囲に建物は存在せず、人の気配すら感じられませんでした。
仕方なく、スマートフォンの地図アプリを頼りに歩き始めました。
舗装こそされているものの、でこぼこした山道をおそらく30分以上歩き続けました。

ようやく町らしき景色が見えてきました。
しかし、そこは時が止まったかのような光景でした。
山間部にある寂れた町。
そんな印象を受けました。
店舗らしきものはなく、民家や空き地が目立っています。
ほとんど人はおらず、まれに道端で見かける人々は、その誰もが高齢者でした。
そして、その人々は皆無表情で、私を見ても特に反応を示しません。
彼らの姿を一言で言えば、没個性的でした。
つまり彼らの姿は、テレビなどで見たことがあるような、どこにでもいそうな田舎の風景の一部のようでした。
しばらく歩くと、交通量が多い道に出ました。
といっても、片道一車線の田舎道です。
その道沿いには、ようやくコンビニやガソリンスタンドなどの店舗が見えます。
どうやら、ここが町の中心らしい、と私は思いました。
宿泊先のビジネスホテルは、その道沿いにありました。
そのホテルは、小さな雑居ビルを改装したような建物でした。
屋上には看板があり、ホテルであることを示しているようでしたが、問題はその看板の文字が錆びて読めないことでした。

私はスマホの画面を確認し、間違いないことを確認しました。
そして、そのビジネスホテルへと入りました。
ロビーに入ると、落ち着いた雰囲気というよりも、どこか古臭いと感じるホテルでした。

フロントには中年の男性が立っていましたが、その顔には特徴がありません。
今でも思い出すことに苦心するくらいの存在感のなさでした。

特に問題なく、私はチェックインを済ませ、部屋に入りました。
フローリングの上にはカーペットが敷かれており、壁や天井は統一された白い壁紙でした。
一人用のベッド、テレビやその他こまごまとした小物が置いてある狭い個室です。トイレと風呂は、もちろん個室内にあります。
特に出張先として過ごすのには問題のない部屋です。

その日は疲れていた私は、部屋でシャワーを浴びた後、いつの間にか眠りに落ちていました。

気がつくと、夜中でした。
時計を確認すると深夜を指しています。

そして、空腹を覚えていました。
思えば、何も食べていません。
その時の私は、コンビニがあったことを思い出し、ホテルを出ることにしました。

ホテルを出ると、外には綺麗な月と星々が輝いている夜空が広がっていました。
建物からの光も街灯もなく、車の往来もほとんどないため、余計に夜空の光景が際立ちます。
しかし、それらは美しいというよりは、どこか陰鬱な印象しか感じられませんでした。
やはり、この場所が山間の町という点から受ける印象なのでしょうか。

私は、慎重に道を進んでいきました。
進むにつれて、その闇夜に私の目が慣れていきました。

そうこうしているうちに、私はコンビニに到着しました。
店内に入っても、そこは無人でした。
なんだか、あまり現実感がなかったことを思い出します。

私は適当な夜食となる商品を手に取り、レジへ向かいます。
もちろん、店員はいません。

大声で何度も声を掛けてようやく、従業員用の奥から人が出てきました。
その顔は何というか。
記憶に残らないものです。男性だったと思うのですが。
どこにでもいる人、としか言いようがありませんでした。
コンビニらしい定型文的な応対を終えた後、私はコンビニを出ました。

そのまま、ホテルに戻りました。
その後は、特筆すべきことはありませんでした。
ホテルの部屋へと帰った私は、先ほどのコンビニで買ったものを食べて、寝るだけでした。

翌日。私は出張の目的である、町の写真撮影を始めました。
指定されている構図や映る風景について、検討しなければなりません。
指定されていた条件は、町の特徴が分かること。ただそれだけです。

結局、私は、町の中心にある道。
そして、駅。
山々が見えるポイントなど複数箇所を事前に考えながら、移動することにしました。

また、私は地元の運転手が行っているタクシーを使うことにしました。

そのタクシーの運転手に町の特徴がつかめる場所を聞くのです。
私はホテルでタクシーを手配して、ホテルの前でタクシーの到着を待ちました。

しばらくホテルの外で待機していると、ようやくタクシーは到着しました。

私は確認をしながら、タクシーに近づきました。
すると、タクシーの扉が開きました。

そのタクシーへ乗った私は、まず、事情を簡単に話しました。
そして、その運転手に町の特徴を掴める場所へ、と言ったのです。
ただ、その運転手は不愛想な感じでした。ただ、無口というよりも話をするのが苦手なようにも見えました。

「場所は?」

タクシーの運転手は私が言ったことを無視してそれだけ言いました。
説明が悪かったかな?
私はもう一度繰り返します。

「場所は?」

彼は、どこか機械的な応答しか返ってきません。
私はあきらめて、町の中心にある道を指定しました。
すると、ようやくタクシーは動き出しました。

その道中はまったく会話などはありません。どこか居づらく感じました。

そして、場所に到着すると、彼はすぐに私を下ろして清算をしようとしてきました。
私は、事情を話しましたが聞き入れられませんでした。
私は仕方なく、それで降りることにしました。

それから私は、その近くの写真を撮りました。
そして、次は無人駅へ向かうことにしました。
既にタクシーは走り去っていたので、私は徒歩で向かうことになりました。

それからは、特に順調に写真を撮り、ホテルへと徒歩で戻りました。
結局、タクシーを使う意味はありませんでした。
ただただ、私は歩いて町と駅を往復しただけです。
こうなるのだったら、初日に写真を撮っておくべきだったな、と私は思い町の中心にある道に戻ってきていました。

もうお昼だ。
昼食でも取るかな。

私は周辺の店舗を確認しました。
大手チェーン店の看板を掲げた店がありました。
その店に私は入ることにしました。

その店の駐車場には、車がチラホラと停まっていました。

店内に入ると、駐車場の状況から予想がつく込み具合でした。
人はまばらで、おそらくこの町の人間ではなく、この道を通っていく途中の人たちが寄っている感じでした。

特に問題もなく、メニューを選ぶ。
そして、食事を行いました。

そのことを言葉で表すならば、どこにでもある店、でしょう。
価格もメニューも味も、そして店員や客層。
店舗の雰囲気すらも田舎の道に隣接しているチェーン店という情報以外になにもないのです。

それは不自然なくらいに印象に残っていません。

そんな記憶に残ることがない昼食をとった私は、夜に行ったコンビニで夕食を買ってからホテルへ戻ることにしました。
私はホテルに歩いて帰るまでにいくつか写真を撮り、淡々と歩いて帰りました。

しかし、それもどこか今にして思えば現実感のないような。
そう、例えるならば夢を思い出すかのように、どこか遠くの記憶のように感じています。

そんな私は、今、現在。ホテルの部屋で今日の出来事をまとめて終わりました。
あとは、明日、ホテルをチェックアウトしてこの町から出るだけです。

部屋の窓の外を見ると、人工的な光はまったくありません。
この私がいる部屋には、空調が稼働する音だけがかすかに音を立てています。

今、スマホで撮影した町の画像を確認していると、そこに映る風景が現実とかけ離れていることに気づきました。

撮影した時には気づかなかったのですが、写真には人が映っていました。
風景として使用するので、人物は映らないように配慮をしていたのですが、確実に映っています。

しかし、私の記憶では、撮影中、ほとんど人らしい通行人とは出会うことはありませんでした。
さらに不思議なことに、写真に写る建物の配置が、私の記憶と異なっているのです。

そして、たしかにコンビニがあったはずの場所。
しかし、スマホの画像には、綺麗に整備された駐車場とちょっとした商業施設が写っていました。

私は夢遊病者のように歩いていたのでしょうか?

完全にその可能性を否定できません。
今の私は、何も信じられません。

というのは、私の中には強い直観があります。

明日、私はこの町から出られない。
この町は、私のことを拒んでいます。
しかし、この町は私がここから出ていくことも拒絶するでしょう。

なぜなら、それが運命のようなものだからと感じています。
これを、私には言い表す良い言葉が浮かびません。
無理に表現するなれば、ここはきっと、私の現実ではないからです。

それとも、これらはすべて私の気のせいなのでしょうか?
それらは明日、私がこの町から出ていくときに全てが分かることでしょう。

ただ、一つだけ忠告します。
できることならば、この町には近づかないほうがいいでしょう。
おそらく、きっとここは、人が来るべき場所ではないのです。

速水 静香

「奇妙な話を聞かせ続けて・・・」の応募作品です。
評価やコメントをお願いします。

※画像はイメージです。

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