一鬼夜行

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お盆に実家へ帰省した時の話です。
こんなものを見てしまったら、忘れられない…。

目次

私の実家は、古い集落の外れにあります。
周りは田んぼに囲まれ街灯もなく、車が1台通るのがやっとな細い道。
夜になると周囲は真っ暗になり、人の気配なんて、まずありません。

その夜、寝る前に水を飲もうと思い、一階の台所へ降りました。
古い家なので台所の窓は昔ながらの模様入りの曇りガラス、外の様子はぼんやりとしか見えません。

蛇口をひねり、コップに水を注いでいた時でした。
何気なく見た窓の向こうに、人影が横切ったのです。
曇りガラス越しなので、輪郭しかわかりませんが、人が歩いていることだけははっきり解ります。

近所の誰かかと思いました。
ですが、その直後に違和感に気づきました…頭の位置が高すぎるのです。

この窓は少し変わっていて、地面からかなり高い位置にあり、外から見ると見上げるぐらいです。
台所からみれば、普通の大人の身長だと、だれかいるのが解るぐらい。
ところが、その影は窓の中央近くに頭がありました。

しかも妙にゆっくり、家の横を真っ直ぐ進んでいくのですが、そこは家の敷地で家族以外はだれも通りません。
むしろ、だれもそこを通るような事はないのです。

曇りガラスの向こうを、巨大ななにかの影が静かに横切っていく。
あまりの異様さに、私は慌てて台所を離れ、自室へ戻りました。
その夜は妙に寝つきが悪く、何度も目が覚めたのを覚えています。

翌朝

翌朝、明るくなってから外を確認しました。
窓の高さも改めて見ましたが、普通の身長では昨夜見えた位置に頭は来ないはず。
家族にも聞いてみましたが、昨日の夜は誰も外へ出ていないと言い、みんな口を揃えて「寝ぼけてたんじゃないの」と笑うだけでした。

自分でも、半分はそう思っていました。
帰省疲れもあったでしょうし、お盆特有の妙な空気に呑まれていただけかもしれません。
ですので、その日はあまり気にしないようにしていました。

ですが、夜、また現れたのです。
昨夜と同じように、台所へ行き、水を飲もうとした時、曇りガラスの向こうを、あの巨大な影がゆっくり横切っていきます。
見間違いではありません。しかも、よく見ると頭の位置が不自然に張り出しているように見えるのです。
まるで角のように…鬼…という言葉が浮かび上がりますが、そんな馬鹿なことがあるわけありません。
しかし、そうとしか思えない形でした。

恐怖より好奇心が勝ってしまい、私は影が通り過ぎる前に、台所の勝手口を開け外へ飛び出しましたが誰もいません。
家の横には暗闇しかなく、足音も、気配もない。

なにかがそう見えただけ、気のせいと思った瞬間、全身が凍りつきました。
何もいないはずの窓に、まだ影が映っているのです。
曇りガラスの向こうを、巨大な人影がゆっくり歩いていく。

外には何もいないのに、窓の中だけにあれがいる。
私は絶句しました。

その瞬間、説明のできない恐怖が一気に込み上げてきたのです。
見てはいけないものを見てしまった、そんな感覚でした。

私は逃げるように部屋へ戻って布団を頭まで被り、なぜか自分でもわからないまま、
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
と、朝まで繰り返していたのです。

さらに翌朝

朝食の時、ぼんやり食事をしていると、母が「顔色が悪いよ」と声をかけてきましたので、昨夜見たものを話しました。
すると母は、「ああ……見たの」と、小さく言い、驚いた様子ではありません。

私が詳しく聞こうとすると、母は少し黙ったあと、不思議そうな顔でこう言ったのです。
「おまえ、子供の頃にも見てるでしょう」

私は意味がわかりません。
母の話では、私が幼かった頃、夜中に泣きながら「窓の外に大きい人がいる」と怯えたことが何度もあったそうです。
ですが、私はまったく覚えていませんが、父も祖父母も、その話を覚えていました。
私だけが忘れているようです。

あれが何なのか、家族の誰も知りませんが、昔から私はあれを見て怯えていたというのは事実のようでした。
それ以上、その話をするのはやめました。

百鬼夜行という言葉があります。無数の魑魅魍魎が夜を練り歩く、有名な怪異です。
ですが、私が見たものは違います。音もなく、暗闇の中を、たった一つだけで歩いている。
百鬼夜行を見たことはありませんが、おそらくずっと異様なもの。
もしあれに名前をつけるなら、実家の横を歩いていたものは、“一鬼夜行”と呼ぶしかない気がしています。

※画像はイメージです。

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