私は改めて調べてみるまで、アメリカ社会と「心霊」の相性は悪いものと思い込んでいた。ゾンビや殺人鬼など、パワフルなキャラクターたちが暴力性を発揮する、ホラー映画のイメージを通じて「アメリカ・幽霊・都市伝説」の個人的な印象を形成していたからである。
実際に調べてみると案の定、現実は異なる様相を呈し、掘り返してみると、そこには現実の根や葉があった。
ウェスト・マイルフォード
アメリカのニュージャージー州に実在する広大な森林地帯と、そこを貫く一本の道路に纏わる四方山話から話は始まる。その道路に出没するジャージー・デビルに導かれて歩みを進めると、気がつけばアメリカ建国の抜き差しならぬ歴史へと案内されていた。
アメリカのニュージャージー州にある田舎町、パサイク群ウェスト・マイルフォード。ここには、北西にあるアッパーグリーンウッド湖から、クリントン貯水池を通って都市の南西を横切るハイウェイにつながる、クリントン・ロードと呼ばれる約16kmの道路が存在している。
この道路は幽霊、悪魔崇拝者、未確認生物、UFOなどで賑わう、全米でもズバ抜けたオカルトスポットといえる。
そのせいであろうか、ウェスト・マイルフォードには不可思議な話が絶えないのだ。
ワーナー・ブラザーズ ジャングル・ハビタット
グーグルマップでウェスト・マイルフォード内の様子を見てみると、ごく平均的な北米の田舎町の景観が広がっており平穏そのものだ。町の周囲はひろい森林地帯に囲まれており、人口密度は低い。かつて、こうした土地柄に利用価値を見出した映画会社があった。
ワーナー・ブラザーズは1972年、ウェスト・マイルフォードにサファリパーク「ワーナー・ブラザーズ ジャングル・ハビタット」を開園した。区域ごとに放し飼いにしてあるライオン、シマウマ、ゾウ、キリンなどを、自動車に乗ったまま見ることが出来るのがセールスポイント。
開園直後は入場する自動車が列をなし、町内の道路では渋滞が発生するほど営業成績は良かった。だが開園して間もなく、サファリパークの運営や拡張を目指すワーナー・ブラザーズとウェスト・マイルフォードの住人のあいだで対立が生じる。
ジャングル・ハビタットを巡る問題
『ジャングル・ハビタット』が開園して一年も経ていない頃、とある入場客がサファリパークの規則を無視、勝手に窓を開けたことが原因で飼育しているライオンに襲われ負傷する事故が発生。それから暫くして住民たちの間では「ウェスト・マイルフォードの森林に『ジャングル・ハビタット』から逃げ出したライオンやオオカミ、トラたちが棲んでいる」「道路でライオンやトラを目撃した」といった噂が駆けめぐる。
この噂を「ニューヨークタイムズ」紙が報じるなどして、ウェスト・マイルフォードでは『ジャングル・ハビタット』は地域問題と化す。
実際、『ジャングル・ハビタット』で飼育していたエミューが逃げだして町内で騒ぎになった事件は起きており、ほかの危険動物が逃げ出したとする噂の火に油を注いだ。
ワーナー・ブラザーズ側としては『ジャングル・ハビタット』は営業を続行、拡張する計画もあったようだが、事故の頻発や噂、住民投票の結果もあいまって『ジャングル・ハビタット』は1976年に閉園してしまう。
『ジャングル・ハビタット』が閉鎖されてからも、そこから逃亡してウェスト・マイルフォードの森林で野生化した動物たちの噂が消えることがなかった。ちょっと驚くのは、その噂の生命力が思いのほか強いことだ。
ほら、虎がいる
1990年ごろ。両親が運転する自動車に乗っていた少年が、ウェスト・マイルフォードの森林を貫く道路を横切る得体の知れない動物を目撃する。自動車が近づくにつれ、彼は動物が何なのか分かった・・・カンガルーだった。
オーストラリアに棲息するカンガルーが、どうしてウェスト・マイルフォードの森にいるのか?
カンガルーならば攻撃性は低いが、肉食動物であるトラやライオンも未だにウェスト・マイルフォードの森林地帯で生きながらえ、そこを通るクリントン・ロードに姿を現すという。ウェスト・マイルフォードの森では何物かに喰い散らかされた動物の遺骸が転がっているが、そいつを喰ったのはもれなく『ジャングル・ハビタット』から逃げ出したトラやライオンなのだという。
そんなライオンが幽霊やら、マフィアやら、悪魔崇拝のカルト集団やら、畑違いのキャラクターたちと一緒に出現するクリントン・ロードには、ブラックドックや地元で愛される「ご当地キャラ」と化したジャージー・デビルも現れるのだ。(続く)
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