私は高齢者でもうすぐ70歳になります。これは、小学生だった60年前の話です。
当時、2歳年上の従兄の紀夫さんの事が大好きで、「ノリちゃん」と呼んで親しんでいました。
ノリちゃんの家は大阪のY市という場所にあり、生駒山の麓に広がる田畑に囲まれ、のどかな風景が広がる町です。私は横浜に住んでいたので、彼に会えるのは夏休みくらい。毎年、両親に連れられて泊まりに行くのが楽しみだったのです。
あの夏の日
私が小学4年生で、ノリちゃんが6年生の夏休み。
例によってノリちゃんの家に家族で訪れ、山で虫取り、池で釣りをしてみたりと二人で夏を楽しんで過ごしていました。
その日は、ちょっと遠くにある神社の裏手から、少し離れた所に古い祠があるから肝試しがてら見に行こうという事になりました。私はちょっと嫌だなと思ったのですが、ノリちゃんが考えつく遊びは面白いので、たまにはこういうのも良いと思ってついて行くことになしたのです。
今となってはハッキリしませんがノリちゃん家から自転車で10分ぐらいの小さな神社で、そこから獣道ような道を少し登って、鬱蒼と茂る竹やぶ抜けると、竹に囲まれている一角があり、その中には小さな祠がありました。
すこし不気味な雰囲気ですが、むしろ日陰で吹き抜ける風が爽やかな場所でした。
ただちょっと変に思ったのは、竹が何本か倒れて祠が押しつぶされたように傾いていて、そのために祠の扉が開いていたのです。
近くによってみると扉の中に塊のような物があり、ノリちゃんが取り出して二人でまじまじと見てみるとドス黒くて足のような突起が4本あってとても不気味な塊です。
私は気持ち悪いので元に戻そうといったのですが、ノリちゃんは記念にといって持ち帰る事にしたのでした。
黒い塊
ノリちゃんの家に遊びに行ったのはその夏の最後でした。
関西と関東とで離れていたせいもあったのですが、中学生になったノリちゃんは野球部に入ったようで、才能をみとめられたとかで直ぐにレギュラーとして活躍するようになり練習が忙しくなったのを切掛に疎遠になったのです。
それから月日は流れ、薬科大学に入学し解剖学の実習をしていた時のことです。
担当教諭が説明のために人の臓器の標本を何点か持ってきて見せてくれた、その中に心臓の標本がありました。
私はそれを見た時に、古い記憶が呼び戻されたようにその形や大きさが、ノリちゃんと祠で見たあの不気味な塊にそっくりだと思い出しました。
4本の突起は心臓についている太い血管で、あの塊を逆さにするとちょうど似たような形にみえます。
不思議な事もあるもんだなと思っていた頃・・・。
親類からノリちゃん一家が立て続けに不幸にあっているというのです。
ノリちゃんの行方
その事を聞いて、ひさしぶりにノリちゃんの家に電話をみたのですが通じません。
親類に聞いても解らないというので、家族で私はひさしぶりにノリちゃん家に行って見る事にしました。
ところがノリちゃん家に到着するとそこは空き地・・・、近所の親しい人に聞いてみると火事になって一家はどこかに引っ越したらしい。
途方にくれながら帰宅している途中、ノリちゃんのお姉さんとばったり会い、近場の喫茶店で話を聞けたのです。
それによれば、二人いた兄弟が病気と交通事故で立て続けに他界してしまい、家は火災にあって無くなった。
私は心配になり「ノリちゃんは?」聞いてきると、「家が火事になる前に何処かへいなくなった」という。
警察に失踪届を出して捜索してもらっているのですが、消息は定かではない。
その時、私はふと祠のことを話すと、姉は血相を変えて「祠を見ると呪われるという古い言い伝えがあって、両親からは行ってはいけないときつく釘を刺されていた」と言うのです。それに塊のことも、全く知りませんでした。
見るだけでもタブーなのに、中に祀られていたモノを失敬してしまうとは・・・。
ノリちゃんは、何処へいったのでしょう?
あの塊はなんだったのでしょう?
いずれにしても、私もあの祠を見てしまっています。
※画像はイメージです。
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