アメリカと言う国家は日本を含む大多数の民主主義国家、所謂西側諸国の雄であり、それを自他ともに認める存在でありながら、未だ多くの州で銃火器の個人の所持が許されてる稀有な先進国である。
こうした市井の一市民が銃火器を所持出来る点も含めてアメリカの自由さを称賛する声もある一方で、やはり銃火器を使用した凶悪犯罪も後を絶たず、日本を始め多くの先進国では眉をひそめているのが実態だろう。
しかしアメリカ社会では未だ全米ライフル協会のような銃火器の所持規制に強硬に反対する団体が、主として共和党系の政党の支持基盤としても機能しており、建国以来の個人の自衛権を堅持しようとする考えも根深い。
従ってアメリカには他の西側諸国と異なり、当然のように実際の銃火器をビジネスとして製造・販売するマーケットが純然として残されており、大手から極小規模なものまで数多の銃火器製造企業が存在している。
大手の銃火器製造企業であれば公的な軍隊や法執行機関への納入を行うと同時に、それらを民生用とした製品をネーム・バリューを元に販売しているが、民生用を主な市場とした小規模企業も数多い。
そんな小規模な銃火器製造企業のひとつとにケルテック社があるが、同社は2021年にその自身の存在意義を示すかのような風変わりな拳銃・ケルテックP50をリリースしている。
ケルテック社の前身~インターダイナミックUSA
アメリカの銃火器メーカーであるケルテック社は、スウェーデン出身のジョージ・ケルグレン氏が1991年に設立を行った企業で、アメリカ本土のフロリダ州のブレバード郡のココア後に本拠を構えている。
ジョージ・ケルグレン氏は1979年にスウェーデンからアメリカへと渡り、インターダイナミックUSA社において主任設計者兼共同経営者を務め、TEC-DC9という一応拳銃に分類される安価な銃火器を製造・販売した。
TEC-DC9は38口径の9mm×19mmの9mmパラベラム弾を使用し、オープン・ボルト・ファイアリング方式を採用したセミ・オート方式の銃火器で、要は民生用にフル・オート射撃を制限し、拳銃と称したサブマシンガンだ。
このTEC-DC9、当時のアメリカで200ドルと言う低価格で販売されていた為に入手が容易で、1944年に発生し13名の犠牲者を出したコロンバイン高校銃乱射事件等の凶悪犯罪に多数使用され、規制により販売停止に追い込まれる。
これによりインターダイナミックUSA社はアメリカの多数のマスメディアで批判の対象となり、ジョージ・ケルグレン氏はそれを機に同社を去り、1987年に自らは新たにグレンデル社を立ち上げた。
ケルテック社の前身~グレンデル
グレンデル社を通じてジョージ・ケルグレン氏が第一弾としてリリースしたのはグレンデルP10と言う380ACP弾を用いるセミ・オート方式の拳銃だったが、コストを下げる為、弾倉の無いクリップ装填式だった。
グレンデルP10は全長135mmで装弾数は10発と言う小型拳銃だが、安価な製造故の動作不良からセールス実績は伸びず、結局これを弾倉方式に改めたP12を発売するも、それも同様に商業的には成功しなかった。
ジョージ・ケルグレン氏はそこで、低価格で実質的には犯罪者へのニーズで商売していたこれまでの会社の方針を改め、アメリカでトライアル・ガンと呼ばれているアウトドアで使用する入門用の銃火器の製造を始める。
そこで22ウィンチェスター・マグナム弾を使用する拳銃・グレンデルP30と、そのカービンタイプであるグレンデルR31をリリースしたが、動作不良は相変わらずで、会社自体の存族が危ぶまれる事態となった。
その為ジョージ・ケルグレン氏は、前述したように1991年にケルテック社を設立、グレンデル社の人員を含む実質的なリソースを同社に移管して、1994年にグレンデル社を閉鎖、翌年よりケルテック社の稼働を始める。
その活動初年の1995年、ケルテック社はP-11と言う9mm×19mmの9mmパラベラム弾を使用する装弾数10発で、ダブル・アクションのみのストライカー方式のポリマー・フレームを採用した、実用的なセミ・オート拳銃を発売した。
このケルテックP-11は性能的にも価格的にも妥当に仕上がった事で2019年まで述べ24年間も販売が継続されるヒット製品となり、ここからユニークな様々な銃火器を販売する企業としての地位を確立していった。
P50の基本スペック
さて最初の製品としてケルテックP-11の商業的な成功で名を成したケルテック社が、2021年にリリースしたセミ・オート拳銃がケルテックP50であり、ベルギーのFNハースタル社がP90用に開発したFN5.7x28mm弾を使用する。
いやFN5.7x28mm弾を使用するどころか、そのP90の弾倉をそのまま用いる形とした拳銃であり、世界初のPDW(パーソナル・ディフェンス・ウェポン)として知名度の高い同銃とのその互換性を訴求したと言えよう。
P90の弾倉はFN5.7x28mm弾を50発も装填できる、そのファイア・パワーが特徴であるが、つまりケルテックP50は拳銃と言うカテゴリーながら50発もの装弾数を誇る事を意味し、インパクトは絶大だ。
但しケルテックP50はセミ・オート拳銃とは言うものの、全長は380mm、全高は170mm、全幅は50mm、銃身長は244mm、重量は1.43kgと、まあ標準的な9mm×19mmの9mmパラベラム弾を使用する拳銃の倍はある。
オリジナルたるP90は全長は500mm、全高は210mm、全幅は55mm、銃身長は263mm、重量は2.54kgであるため、これに比すれはケルテックP50は小さいと言えなくもないが、まあセミ・オート射撃のみの仕様の為拳銃に分類されているだけだ。
P50の特徴
今のところケルテックP50はメーカーとしては折り畳みストック等を装備するバージョンは予定されておらず、あくまでもセミ・オート拳銃と言う扱いだが、カスタム・パーツではそれらも登場する可能性はあるだろう。
ケルテックP50はその代わりにフレームの後端とブリップ下部にスリングの取り付けが可能で、携帯時に利用する他、射撃時にストックの代わりに肩に引っかける形で射撃姿勢の安定を図れるようになっている
因みにケルテックP50はP90の弾倉を使用するが、後者が銃身の上部にそれを装着する形式である事とは異なり、銃身の下部に装着する形で、その交換は銃口部を視点としてフレームの後端を上部に引き上げて行う方式だ。
オリジナルのP90も50発と言う装弾数は優れているものの、その弾倉の交換作業には難があると言われて久しいが、ケルテックP50もそれ以上に弾倉の交換は手間がかかりそうで、その意味での実用性は低いと感じられる。
それでもケルテック社や、ケルテックP50を扱うメディア等の紹介では、50発の強力なファイア・パワーは、ホーム・ディフェンスにも最適だとアピールしており、どうにも無理やりな持ち上げ感が否めない。
今後の予想
ケルテックP50は民生用にセミ・オート射撃のみの仕様となっている事を逆手にとって、アメリカのニッチな銃火器市場における唯一無二のセミ・オート拳銃として、その物珍しさで商業的な成功を企図しているように映る。
一部では仮にケルテックP50が法執行機関や軍隊等で採用を勝ち取るならば、フル・オート射撃も可能な本当のPDW(パーソナル・ディフェンス・ウェポン)となり、その存在価値を高める可能性に言及する向きもある。
しかし実際の法執行機関や軍隊等でPDW(パーソナル・ディフェンス・ウェポン)としてのシェアは、FNハースタル社のP90を後発であるH&K社のMP7が確実に上回っており、その理由はオーソドックスな操作性とコンパクトさが評価された故だろう。
H&K社のMP7はストックを折りたたんだ状態の全長は415mmしかなく、ケルテックP50は同380mmなので折り畳みストックを装備してもサイズ感では互角に近いかも知れないが、弾倉交換の煩雑さから敬遠されるのは明白ではないだろうか。
featured image:keltecweapons公式メディアキット
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