突然、電話が鳴り響き、耳を疑うような知らせが届いた。
それは、仕事中の事故で夫が命を落としたという知らせ。
ようやく落ち着きを取り戻しかけた頃、次に私たち家族に襲いかかったのは、これからの生活でした。
疲れ果てていた私は両親の提案を受け、家族3人で引っ越すことにしました。
行き先は、私が子供の頃に住んでいた山間の小さな町。
知り合いや遠い親戚もいて、懐かしい記憶が残る場所です。
新しい生活
子どもたちは地元の小中学校に転入し、私も家業の不動産屋を手伝い、都会の生活とは違いに戸惑いながらも徐々に普通の日常を取り戻していきました。
ですが、約1年ほど経ったある日、学校から「娘さんが倒れました」と電話があったのです。
急いで迎えに行くと、先生が状況を説明してくれました。
授業中に突然「頭が痛い」と訴えたあと、奇声をあげて倒れたというのです。
保健室に運んだときには、まるで何事もなかったかのようにキョトンとしていたとのことでした。
それでも何かあっては大変なので、私に連絡をくださったということでした。
病院に連れて行っても、特に異常は見つからず、「生活環境の変化によるストレス」と診断され、しばらく学校を休ませることになりました。
しかし、その後も娘の様子は少しずつ悪くなっていきました。
部屋の隅でうずくまったまま言葉を発さず、食事やトイレも最低限。
私は実家や親戚の助けを借りながら、娘の世話に専念しましたが、状態は一向によくなりません。
居なくなった娘
胸が締めつけられるような思いで過ごしていた、ある朝のことです。
朝ごはんを持って娘の部屋へ行くと、そこに娘の姿はありませんでした。
窓が開いていたので、そこから外へ出たのでしょう。
私はすぐに近所や警察に事情を話し、捜索をお願いしましたが、娘は見つかりません。
その後、娘を目撃したという情報が寄せられるようになりました。
「畑で土を掘っていて、声をかけたら逃げた」
「唸りながら山道を走っていた」
どれも耳を疑うような話ばかり。
私は娘に何が起きたのかと、心配で胸が張り裂けそうでした。
目をつけられた
数日後、とある猟師さんから「娘さんを保護しました」と連絡が入りました。
鹿を捕まえる罠にかかっていたそうで、混乱していたところをなだめて連れてきてくれたのです。
娘は、ボロボロのパジャマをかろうじて身につけ、裸足で土まみれ。
じっと私を見つめるその目は虚ろで、口元はわずかに歪んでおり、まるで笑っているようにさえ見えました。
「まずはお風呂に入れて、ご飯を食べさせてあげなきゃ」
そう思いながら娘をリビングに連れていったそのとき、「ピンポーン」と呼び鈴が鳴りました。
こんなときに誰だろうとドアを開けると、そこには近所のおばさんが立っていました。
昔からおせっかいで、集落の噂にやたら詳しい人です。
どうやら娘の異変を一部始終見ていたようで、顔をこわばらせながらこう言いました。
「あんた、このあたりが昔からお狐さまの土地だってこと、知ってるよね?」
村のあちこちに小さな社が点在し、秋には神社で祭りが開かれるこの土地。
子供の頃はその祭りが楽しみでしたが、一方で「祟り」や「神隠し」といった言葉も、よく聞いた覚えがあります。
おばさんは、少し間をおいて静かに言いました。
「娘が何をしたかは知らんけど・・・・目をつけられたようだよ」
それから
それからというもの、周囲の空気が変わり始めました。
娘にまつわる噂が広まり、近所の目はどこか冷たくなっていったのです。
「狐憑きだ」
「祟りが来るぞ」
そんな声がささやかれ、子供たちは家の前で妙な歌を歌うようになり、夜になると、誰かが家の周りをうろつく気配がするようになりました。
そしてある晩、親戚や集落の有力者が突然家にやってきて言いました。
「このままじゃいかん。この町を守るため、昔のしきたりに従うしかない」
そう言って娘を引きずり出し、町外れにある古びた倉庫の中の檻へと押し込めたのです。
私は泣きながら抗いました。
けれど、親たちは沈黙し、集落の人々は「これが正しい」と私を責めるような目で見つめます。
狐憑きが怖いんじゃない。
人々が娘を「人間ではない何か」として扱った、その目が何よりも恐ろしかった。
それから娘がどうなったのか・・・・もう語りたくはありません。
ただ、どうか知ってほしい。
これが、私たち家族に起きた、あまりにも理不尽な出来事だったということを。
※画像はイメージです。


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