心霊体験でも不思議体験でもなく、どのカテゴリーに属す話なのか・・・いまだに判断がつきません。
ただ体験した当時、異常なまでの背筋が凍る感覚と、そして同時に悲しい気持ちになったことだけは、今でもはっきりと覚えています。
軽音楽部活動に夢中だったあの頃
当時、となり県の実家から大学に通っており、授業にバイトに軽音楽部活動にと、それなりに充実した学生生活を送っていました。
中でも力を入れていたのは軽音楽部の活動で、同学年生4人とバンドを組み、私はドラムを担当していました。
バンドをやっていた方なら理解して頂けるでしょう、ギターとベースはアンプを通さなくても、自宅で練習できますし、ボーカルならばカラオケや車中でいくらでも練習できます。
しかしドラムに関しては裕福な家庭で自宅にドラムセットと防音室でもない限りは、学内か一般のスタジオに入らないと実機練習はできません。若かりし当時の私はその辺をよくメンバーに愚痴っていたものです。
自宅でも素手と膝や机を使って多少の練習もできなくはないのですが、できれば、曲を聴きながらスネアドラムやドラムパッドの跳ね返りをスティックで感じながら叩きたい。
そんな思いから、私はよくマイカーにスネアドラムとスティックを持ち込んで練習をしていました。
車中とはいえスネアドラムを叩く音はそれなりに大きく、当然自宅の駐車場などでは練習できません。
そのため、私は自宅から車で15分程離れた小高い山の中腹にある、精神病院の第二駐車場に車を停めて練習をしていました。精神病院と言っても特別不気味な噂などがあるわけでもなく、患者さんたちの属性上から、やや市街地から離れた場所に建てたというような病院です。
私が使っていた第二駐車場は、病院の建物から徒歩で10分程度と結構離れている場所にありました。
接続している道路から、車1台が通れるぐらいの森を切り通して作った10mぐらいの細い通路を通り抜け、木々に囲まれ道路から駐車場の中を覗くことはできず、外界とは隔絶した印象です。
駐車スペースは30台分ほどあって、しっかりとしたアスファルト舗装のちゃんとした駐車場なのですが、おそらく不便なせいでいつ行っても駐車している車はいません。
だからこそ、ここでいくらドラムを叩いても誰の迷惑にもならず、絶好の練習場所なのです。
大学2年生の夏
その日は翌日に大学内でライブがあることもあり、私はバイトが終わった22時過ぎ、いつものように第二駐車場でドラムの練習していました。
練習を始めて30分が経った頃、一台の車が駐車場に入ってきました。私がここに来るようになって始めてです。
私は入口から入ってすぐ左側、森の方に車のフロントを向け駐車していたのですが、その車は私のまっすぐ後方の場所に、森を背にするようして駐車してきました。要するに私の車をまっすぐ見るような形で停まったのです。
「こんな時間に気持ち悪いな」と思いつつ、自分も同じことをしている訳なので気にせず練習をしていました。
それから10分程経った頃、あの車が数回パッシング(ヘッドライトをチカチカ光らせる)してきたのです。
「なんだこいつ」と思いつつも無視していると、数分置きに何回もパッシングを繰り返してきたため、ふと思いついたのは、「さてはカーセッ〇スしようとここに来て、先客のオレが邪魔なんだな」。
そう理解はしても、私の方が先客だと変な自負もあり、しばらく無視していたのですが20分程繰り返されたため、仕方なく退散することにしました。
駐車場を出る際にチラッとみた感じでは、アルトのような白い軽自動車でした。
再びあの駐車場に
翌日のライブも無事に終了し1週間が経った頃、新しい曲を演奏するため、再び駐車場に練習をしに行ったのです。
駐車場に着いたのは15時頃、前と同じ場所に白い軽自動車が止まっていて「こんなに暑いのに盛んだな」なんて思いながら、いつものようにいつもの場所に停め、練習を始めて30分が経った頃。
またもやパッシングを始めて、「コノヤロー!!!」とイライラし始めた、その時でした。
次々と計5台もの車が駐車場に入ってきて、無造作に私の後方に停車していきます。
「もしかしたら、あの白い車のヤローがチクっくて、ここでドラムを叩いているのを注意されるのか?」と思いながら、姿勢を低くして車外からは私が見えにくいように隠れながら、バックミラーで見守りました。
車から黒っぽい服装で統一された数人が降りてきて、ひと所に集まり何かしていると思うと10分程ぐらいで、全員来た際の逆回しのように帰っていきました。
ふと気がついたのは、人々が集まって何かしていた場所は白い軽自動車。
黒服の人たち、白い軽自動車、パッシング・・・一体何が?
白い軽自動車
不思議に思いながら、何が起きているのかを確かめずにはいられず軽自動車へと向かい、車中を覗くと無数の白い花束が積まれていました。
それを見た瞬間、真夏にも関わらず私の背筋は一気に凍るような感覚を覚えました。
慌てて病院へ行って事情を聞くと、借金を苦に若い夫婦と赤ちゃんの3人が排ガス自殺をしたのです。
つまりは、彼らはカーセッ〇スをするために私が邪魔でパッシングをしていたのではなく、この世の最後を迎えるのに静かに逝きたかったから。
それに、既に亡くなってしまっているはずなのに、さっきのパッシングは・・・。
私はある種の恐怖でしばらく動けなくなると同時に、もしかしたら、あの時に何らかの声を掛けていれば、少なくとも赤ん坊の命だけでも助けられたのではないかと悲しみ、虚しさを感じました。
あれから
駐車場でドラムを叩いていた事に関してお咎めはなく、人に迷惑にならなければ、使って良いとお許しがでたのですが二度といく気はしません。
それ以降にこういった事が起きたなどということはありませんが、数十年経った今でもときどき暗闇の中でパッシングライトが光る夢を見ることがあります。
※画像はイメージです。
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