引っ越してきたアパートは古いが手入れはされていて、日当たりも良く、家賃も手頃で満足。
居間には、レトロな明り取りがはめ込まれていた。
色の薄い型板ガラスに幾何学模様の凹凸が刻まれ、昼間は柔らかい光を室内に落とし、むしろ洒落て見える。
異変
友人が新居の見学がてら遊びにやってきた。
酒が進んで、終電を逃した友人は泊まる事になって、居間のなソファで眠った。
私は寝室へ向かう前、居間の明かりを消すと、外の街灯の光が明り取りを通して壁に影を落とす。
ガラスの凹凸が光を歪め、影は波打ち、折れ、重なり合って美しい。
面白くなってスマホのライトをガラスに当ててみると、光源が増えたことで影はさらに分裂する。
二重、三重に重なり、人の形になった。
影はユラユラと揺れたと思うと、細く伸びた影の一部が腕のように伸びていった。
すこし気持ち悪く感じたので、ライトを消したのだが、人の形の影は消えない。
それどころか、腕に見える部分が一定の方向に伸び続け、壁を伝い、床へを這うように足元へ近づいてくる。
接触
ついに影が足先に届いた。瞬間、反射的に足を引いた。
影なので触れた感覚はないのだが、皮膚の表面に乾いたざらつきを感じた。
恐ろしくなって寝室へ向かい、ドアを開けようとすると影が先に部屋へ入っていった。
気のせいだろうと自分を納得させてベッドに潜り込む。
影は、なにかの意図を持っているように感じられた。
布団から顔を出して見回すと、例の手のような影がみえたような気がした。
気のせいだと目を閉じるたび、ガラスの歪んだ影が頭に浮かびあがる。
影の形が、現実よりもはっきりと再現される。
結局、まともに眠れなかった。
夜明け
突然、ドアを叩く音がした。驚きながらベッドから飛び起きて扉を開くと友人が立っていた。
6時を過ぎていて、もう始発が動いているから帰るそうなのだ。
帰り支度をしている最中、彼が話しかけてきた。
「昨晩、光や影がチラチラして何度か目が冷めたよ、アレなに?」
彼も同じような体験をしていた。
現象自体は、ガラスの凹凸による光の歪み、複数の光源による影の重なり。
説明はつく。
ただの影だと分かっているのに、あの伸び方だけは、どうしても納得できない。
結末
また夜になると同じ現象が起きるのではないか?
少し怖く思っていたその時であった。
突然、携帯が鳴り響く。
友人からの電話なのだが、興奮した口調でこんな事をいったのだ。
「帰りがけに気になって事故物件サイトをみたら、お前の部屋が載っているぞ!」
引っ越ししたばかりで金が無く、どうする事もできない。
今日も、明り取りから光がちらつくたびに、影はひそやかに伸びる。
私の夜の恐怖は終わらない。
※画像はイメージです。


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