アメリカと言う国はこの21世紀にあっても、建国時の開拓時代の精神を色濃く受け継ぎ「市民が武装する権利」が多数に支持され、州によって多少は異なるものの未だ先進国で唯一といってよい民間での銃器保有が認められた国である。
このアメリカの「銃社会」と言えど、度々発生する凶悪な銃器を使用した乱射事件等で凄惨な被害が報じられると、規制賛成派派による声が高まるものの、根強い規制反対派の前に抑え込まれている。
今年2024年11月にはアメリカの4年に一度の大統領選挙が実施される年に当たるが、大まかに言えば銃器の規制に関しては共和党支持者に反対派が多く、民主党支持者に賛成派が多いと言う傾向は変わらないだろう。
世界の耳目は前回2020年の大統領選挙でその座を争った共和党のトランプと、再選を目指す民主党のバイデンの何れになるのかに注がれているように見えるが、現在の民主党政権を見ても銃規制への強化は芳しくない。
それほどまでに「銃社会」が根強く支持されているアメリカだが、一言で銃といっても、民間ではハンドガンからセミオートに限定されたサブマシンガンやライフル、そしてショットガン迄幅広い種類のものが流通している。
そうした現状において、アメリカの市場で今もベストセラーを続けているショットガン、レミントン・アームズ社のM870について今回は紹介してみたいと思う。
アメリカにおけるショットガンの歴史
銃器の歴史上、ショットガンという呼称が初めて使用されたのは1776年であるとされており、アメリカ中東部の現在のケンタッキー州において、当時の西部開拓者らが用い始めたと言うのが通説である。
そもそもショットガンとは日本語では散弾銃と訳されているように、大口径の銃から1発の銃弾の中に多数の子弾を拡散する事を目的に開発された銃を指し、民間の狩猟からスポーツ射撃、軍隊や法執行機関での鎮圧用途にまで供されている。
ショットガンはその弾薬の特性上、凡そ50メートル程の至近距離での制圧射撃を目的とした銃であり、大元を辿ればフランスで鳥獣用の狩猟を効率的に行う事の出来る銃として使用されたのが始まりと伝えられている。
アメリカにおけるてショットガンは、そうした狩猟用の用途に留まらず、当時の西部開拓という時代を反映して、アメリカ原住民との戦闘に軍隊が、暴徒の鎮圧用に保安官等が使用して、その効果が認識された。
そして1775年から1783年に生起したアメリカの独立戦争においては、その戦いに勝利し後にアメリカの初代大統領となるジョージ・ワシントンの発案で、通常弾と散弾をマスケット銃で並行使用する運用が成されたとされる。
次いで1861年から1865年にかけてのアメリカ南北戦争においては、接近戦において有効なショットガンが、兵士個人の私物を中心に多くの戦闘に使用され、その効果を世に知らしめる事となった。
この南北戦争が北軍の勝利で終了した後には、アメリカの方東部から西部に向けた大開拓時代が加速し、南北戦争でショットガンの有用性を認識していた元軍人らによって短銃身の2連式のものが多用された。
こうした経緯から1914年に発生した第一次世界大戦において、アメリカ軍は狭小な塹壕内での接近戦にウィンチェスター社のM1897ショットガンを投入し、その制圧力を改めて実感したとされている。続く1939年からの第二次世界大戦においては、第一次世界大戦のような塹壕戦はヨーロッパ戦線では縮小した為使用は減少したが、日本との太平洋戦域においては島嶼部のジャングル戦においてやはり効果を発揮した。
アメリカ軍では1960年代のベトナム戦争に際しても密林のジャングル戦においてショットガンの使用を行ったが、ここでは先祖帰りして軍からの支給品でなく、兵士の私物が用いられたと言われている。
M1912に対抗しM31の後継M870の開発を決断
このような第二次世界大戦前後の時代において、各種の戦場で使用されたアメリカ軍のショットガンは、ウィンチェスター社の新型M1912や、レミントン・アームズ社のM31が市場を2分していた。
ウィンチェスター社のM1912はその名称が示す通り1912年に軍に正式採用され1963年までの長きに渡り生産され、レミントン・アームズ社のM31もそのライバルとして1931年から1949年迄生産された。
元々シェア的には先に開発・投入されていたウィンチェスター社のM1912が上回っていたが、レミントン・アームズ社のM31は前者と同様に横から排莢する方式を踏襲し、使用性と信頼性を高め普及していった。
しかし健闘はしたもののセースル自体はレミントン・アームズ社のM31はウィンチェスター社のM1912には及ばず、更にシェアを伸ばすべくより安価で堅牢さを向上させたM870の開発を決断した。
こうしてレミントン・アームズ社が満を持してショットガン市場を席捲すべく世に送り出したのが後継のM870となったが、多数の銃器の専門家間ではM31をポンプアクション方式のショットガンの雄と評する声も多い。
市場に投入されたレミントン・アームズ社M870
レミントン・アームズ社のショットガン・M870は、前述したように同社の従来品のM31の後継として企画され、市場シェアを競う最大のライバルであるウィンチェスター社のM1912を倒すべく世に出された。
M870の開発は1960年代中盤に開始され、レシーバー部は鋼鉄を削り出して作成され、機構は従来から定評の高かったポンプ・アクション方式を踏襲し、堅固な造りで非常に信頼氏の高いショットガンとなった。
完成したM870は全長が964mmから1,245mm、銃身長が457mmから762mm、重量が3.2kgから3.6kg、使用弾薬は12・16・20・28ゲージ及び410bore、装弾数が4発から8発の各種の仕様がラインナップされた。
M870は従来のチューブラー・マガジンによるポンプ・アクション方式と言う信頼性の高い機構はそのままに、複数のモデルと各種のアクセサリーの装着が可能なモジュール化によってモダナイズされたと言える。
ベースモデルとも言うべきM870ウイングマスターは、鋼鉄製の本体に木製(ウォールナット)の銃床とグリップを備えたオーソドックスで堅実な造りが特徴となっている。
M870エクスプレスはベースのM870ウイングマスターの素材や製造手法を簡略化し、コストの低減を図ったモデルで、その販売価格を凡そ半分程度に迄抑制した、謂わば入門用とも言うべきものである。
M870ブリーチャーは本体の取り回しを容易にし、狭所での使用を考慮しショルダーストックを廃してピストル・グリップを採用したモデルで、建物等への突入を前提とした用途での使用が想定された。
日本の海上保安庁向けの専用品としてもM870マリーンマグナムなるモデルが存在し、海上保安庁の主たる活動領域である海上や沿岸部での塩害を低下させるべく、こちらは本体にクローム・ステンレスを用いて製造されている。
こうした各種のバリエーション展開によってM870は、モスバーグ社のM500、イサカ・ガンパンパに―社のM37、ウィンチェスター社のM1300等と並ぶ現代を代表するショットガンとして、世界各国で使用されている。
因みにインターネット上で確認したところガンショップ栄興という会社のホームページにて、レミントンM870 EXPRESS SYN シンセ DEER CL12番ハーフライフル 23インチという製品名で日本でも22万円で扱いが確認できた。
M870が登場する作品
これまで見てきたように今も製品として2024年現在も製造と販売が続けられているレミントン・アームズ社のショットガン・M870だが、それだけに多くの映画やTVドラマなどのフィクション作品でも登場している。
そんな映像作品の中でレミントン・アームズ社のショットガン・M870が登場する最も有名な作品としては、アーノルド・シュワルツェネッガー主演の「ターミネーター2」なのではないかと思われる。
そこではサラ・コナーが、敵であるターミネーターのT-1000に対してクライマックス時に発砲して攻撃するシーンがあり、非常に迫力のあるガン・アクションが印象に残っている。
前述したモスバーグ社のM500、イサカ・ガンパンパに―社のM37、ウィンチェスター社のM1300等ライバルも多く、M870が市場シェアを独占しているとまでは言えない感もあるが、現代を代表するショットガンである事は間違いないだろう。


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