世界的なベストセラーとなり、映画化もされた小説「ダ・ヴィンチ・コード」でも唱えられている、イエスとマグダラのマリアの聖なる結婚。
小説内で鍵となっている聖杯とはイエスとマリアの血を引く子孫だと。
ダ・ヴィンチ・コードだけでなく、ここ数十年でイエスとマリアは実は結婚していた、伴侶であったとの説が盛んに唱えられている。西洋世界では暗黙のタブーであったイエスの人間としての側面について、積極的に解き明かそうとする研究や議論が行われているのでした。
彼らは結婚していたのか、いなかったのか?
そしてマグダラのマリアの正体とは?
結婚
まずは彼らの「結婚」という点をクローズアップしてみましょう。
それは国家や既存の宗教権威に認められる制度としての結婚というよりは、古代世界の多くの宗教で活発に議論されていた男女または人間同士の「聖なる結合」というもの。
そういった意味での「聖なる」行為だったのではないかと言われています。二人の人間の心身の合一、つまり聖なる結婚は多くの古代宗教で重要な教義や儀式になっていました。
この考え方は現代の密教にも受け継がれています。
聖なる結婚の起源をたどると、紀元前後の古代より更に遡った紀元前数千年の超古代、世界中のあらゆる文化圏で行われていた女神信仰にたどりつきます。
女神信仰や母性を中心とした社会で行われていた聖なる行為が、形を変えながらあらゆる時代の宗教の中で受け継がれていった可能性があります。
さらに言えば、この行為が現代社会でも行われている「結婚」制度の心理的起源になっているのかもしれません。
マグダラのマリア
マグダラのマリアの素性・身元についてははっきりとした情報は見つかっていません。数々の諸説の中で、最も興味深いものを紹介します。
マリアは古来より脈々と受け継がれた地中海・エジプト世界の女神信仰を受け継ぎ、特にイシス信仰を受け継いでいた巫女・シャーマン的な女性だったのではないかという説があります。もちろんイエスとマリアが生きた紀元前後の時代は、既に強烈な男性中心社会だったため、当時の権力者に都合の悪い正統な女神信仰は地下で密かに行われていました。
超古代の女神信仰は、生命・自然を神聖視し、また自然と人間・人間同士の結びつきや一体化を重要とすることで知られています。人間を自然の上に置き、人間が同じ人間や、この世界のあらゆるものを支配することを正当化するその後の社会とはまるで違う価値観を持っていました。
一部の権力者が残りの者を支配するという、今日まで続く社会形態にとって都合の悪いもので、超古代社会の文明や女神・母神への崇拝は、現存する世界中のあらゆる文明の下地として存在しながらも、その本質的価値は徹底的に隠されていると言われています。
歴史は権力者が紡ぐもの
19世紀に発見され、21世紀はじめにようやく復元し出版された「マグダラのマリアの福音書」では、マリアはイエスの説く教えと愛を最も深く理解し、一番の理解者になったとされています。これまで信じられてきた「マグダラのマリア」像と全く違う人物像や逸話が書かれており、西洋社会に大きな衝撃を与えたのです。
娼婦であった、罪を犯し悔い改めた女だったというイメージやストーリーがただの創作であり、しかしそれは女性抑圧の装置として2千年近くもの長い間機能し続けてきました。
権力者が描く歴史的逸話や物語は個人の無意識に容易に忍び込み、思想や価値観・感覚にまで影響を与えていきます。
「歴史は権力者が紡ぐもの」という考え方は21世紀の現在でこそ以前よりも強烈に意識されるようになってきましたが、まだまだ私たちの頭の中には、無意識に信じ込んでいる、教え込まれた「歴史的創作」があるのかもしれません。
featured image:Jusepe de Ribera, Public domain, via Wikimedia Commons
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