2025年にとある中国企業が「1秒で20℃温度を下げる」という謳い文句でミニエアコンを発売した。
経験則で言えば、通常のエアコンはスイッチを入れてから風が出て来るまで早くても十数秒はかかり、それが部屋に行き渡るには、5分や10分はかかるだろう。
消費者庁という優秀な省庁を有する、世界でも上位の法治国家たる日本で公然と提示される宣伝において、嘘、大袈裟、紛らわしい表現があろうか。
広告に何らかの誤りがないなら、このミニエアコンは、21世紀の技術を凌駕する、オーパーツの可能性を考えるのが自然だ。
エアコンの性能表現
エアコンの冷房性能は、「kW(キロワット)」で表現される。
1W(0.001kW)を熱量で表すと、1.163kcal/h。
つまり、1時間で1000g(1リットル)の水の温度を1.163℃下げるという意味になる。
これでは何だかピンと来ないと思うので、実際の場面に即して言うと、16畳に適したエアコンの冷房能力ランクが5.0kW程度である。
仮に、一般的なエアコンが、5分ほどで10℃程度室温を下げるとして、1秒で20℃下げるエアコンは少なくとも600倍の冷房性能を持つという単純計算になる。
エアコンの消費電力には幅があるが、16畳対応のパワフルなものなら1000W(10アンペア)に達するであろうから、その600倍となれば、とても家庭用電力(10〜60アンペア程度)で賄えるような出力ではない。
これほどのエアコンが家庭用電力で稼働するというのであれば、これは常識外れに画期的な発明だ。
科学による実現性
常識外れであるからといって、一律にオカルトやオーパーツと結論付けるのは早計である。
創作において、幽霊などのオカルト現象に触れて「非科学的だ」と否定するテンプレ学者キャラがいるが、これはあくまで擬化されたものであって、実際の科学の徒が取る行動と真逆だ。
目の前の観察結果を受け容れ、最短距離で説明可能とする理論を構築する、そうやって科学はオカルトが背負っていた膨大な荷を、少しずつ肩代わりしていったのだ。
今回のミニエアコンの最大のポイントは電源だ。
それさえ解決出来れば、目標スペックは現実と地続きのところにある。
第1に、太陽光発電による補助電源が考えられる。
2024年時点の京セラの太陽光パネルで、1平方メートル当たり210W。ミニエアコンのオプションに、3000平方メートルほどのパネルが付属していれば、600,000Wが補える。
ただ、これはコストはともかくサイズが大きすぎる。
そもそも、太陽光パネルとして発売した方が売れ行きも良いだろう。
第2候補は原子力発電による補助電源だろう。
核物質は少量でも膨大なエネルギーを持つため、コンパクトな発電装置になり得る。
巷で人気のデーモン・コアの場合、直径89mmの球体、つまり硬式野球のボールとソフトボールの間ぐらいのサイズだ。
これなら、装置に内蔵させる事も可能ではなかろうか。
と、思いきや、こちらも難しい。
販売元の所在地であろう中国本土の事情は知らないが、本品は日本での販売が想定されている。
日本では「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」があるため、核物質の譲り渡し可能な者は、精錬事業者や加工事業者、原子炉設置者などに限られ、海外の電気機器メーカーはこれに該当しない。
また、譲り受けも厳密に制限されるため、あなたが許可された人でないなら、罪になってしまう。
第3候補は、密度を高める方法。
極端に蓄電量が大きく、放電時間が短いコンデンサに電力を充電する形で、ミニエアコンを作動させるという考え方である。
1秒の冷却のため、600秒のチャージ時間を設定すれば、家庭用電源でも動作し得る。
ただ、この装置をエアコンと主張すると、品名を偽装している見做される可能性がある。
何故なら、エアコンすなわち空調(空気調和)とは、場所の空気を調整するものであって、瞬間的にごく狭い範囲を冷やしたところで、何の影響も与えないからだ。
これがエアコンなら、冷蔵庫や冷えピタでも当てはまってしまう。
やはり、科学技術面からは難しいと考えた方が良いだろう。
オカルトによる実現性
では、魔術やオカルトの場合、どのような方法が考えられるだろう。
第1に、永久機関が考えられる。
これは、科学的装置の皮をかぶっているが、エネルギー保存の法則を無視たオカルトである。
永久機関を組み込んだ時、エアコンはコンセントに拠らず、大量のエネルギーを自己生成できる。
第2に、平行世界へのエネルギー放棄。
装置に、より低エネルギーな平行世界との接合点を設置する方法である。
エネルギーが枯渇し、全ての分子運動が停止した宇宙の場合、絶対零度になる。
高圧で低温な場所と繋げば、瞬時に風が吹き込んで部屋を冷やし、バナナで釘を打つ事も可能になる。
第3は、精神力を用いた方法。
「心頭滅却すれば火もまた涼し」を、根性ではなくサイキックで実現する方法である。
装置に精神に感応する魔法素材を用い、「冷やしたい」という精神力を物理変換する事で冷却する。
この場合、性能は術者の精神力や魔力に比例するため、懐疑的な気持ちで使ったり、心身が疲弊した時期に使うのは難しいだろう。
秋の気候の良い日、栄養も取れ、心身が充実したタイミングで、満を持して使う、というのが一番機能を発揮する状況だ。

妖怪やUMAによる実現性
持続可能性を考えると、生物的な素材の採用も考えるべきだろう。
妖怪やUMAなど、生物を用いる方法はどうだろうか。
冬の精霊や妖怪を宿すというのは良い方法だ。
日本の場合、最も身近なのは雪女だろう。
雪女の力は諸説あるが、吹雪を呼び、冷気を吐いて人を瞬時に凍死させる、というのが雪女自体の能力であるなら、スペックを満たす事は可能だ。
これはつまり、36℃の60kgほどの物体を、瞬時に0℃以下まで冷却する能力という事だ。
大気の重さは1リットルで約1.2gほどなので、1立方メートルで1.2kg。
天井までの高さ2メートル、床面積25平方メートル(15畳ほど)の部屋の空気が60kgである。
類型として、ツララ女、雪ん子の他、ざっくりと「雪の精」と呼ばれるものもある。
海外の妖怪では、ジャックフロストも人を凍らせる能力があるため丁度良い。
これらをミニエアコンに宿らせたり、契約によって適宜呼び出せるなら、目標スペックは達成可能だ。
ミニエアコンの発売元が中国である事を考えると、中国由来の存在も忘れてはいけない。
陰陽五行説における冬は水に通じ、玄武が当てはまる。
また『山海経』に記される燭陰(しょくいん)という、人面蛇身の神は、体長が千里に及び、吹けば冬、呼べば夏をもたらすという。
エアコンはただ冷やし続けるだけでなく、スイッチが切る事も重要である。
だとすると、この燭陰こそがメイン動力に相応しいのではなかろうか。
ミニエアコンの効果的な付き合い方
件のミニエアコンに、燭陰の切り身が仕込まれていると考えた時、この商品の本質が見えて来る。
全ては燭陰の機嫌次第であるから、購入したけれど思ったように動かないからといって、直ちにインチキと騒ぐのも筋違いだ。
まずは、きちんと清め、御神酒などを供え、日数をかけ、十分な神事を済ませ、加護を与えるに相応しい信者であると認めて貰った後に、心静かにスイッチを入れるが良かろう。
それがどうも難しいという場合は、Panasonicなりダイキンなり、手近なエアコンを買うしかない。
もちろん、物にも魂が宿る事はあり、人との間に縁もあろう。
それを意識に置いて、衝動的に買わず、じっくり相性を考えてからポチる姿勢も必要だろう。
そうして手に出来たエアコンは、物に宿る魂の働きにせよ、厳選したという気持ちから来る認知的不協和からにせよ、スペック以上の快適さをもたらすだろう。
インチキ臭い商品を、安いからというだけの理由で衝動買いし、やっぱりダメだと怒り任せに同じような安物を買う、といった雑な向き合い方は、一番いけない。


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