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殺人株式会社マーダーインクとマフィアの血の掟オメルタ

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報酬と引き換えにターゲットの殺害を請け負う人間をヒットマンと呼ぶ。
元マフィアの「消し屋」が自著で語るには、裏社会の殺し屋はフリーランサーと組織に雇われる刺客のふたつのタイプに分かれるそうだ。
業務たる殺人がビジネスとして成り立つかどうかは、その国の治安と警察力によるところが大きい。法治国家においては、営利目的の殺人はきわめて重い刑罰が科せられる。治安がよく警察の捜査能力が高ければ高いほど、このリスクも高まるからだ。
裏を返せば、警察力をしのぐプロ集団を構築できれば殺し屋稼業は成り立つ。

そんな職業凶手たちで構成された闇の組織は現実に存在した。
マフィア直属の暗殺執行機関、マーダーインク(Murder, Inc.)である。
マフィアの正式な一員となるには儀式を行い、誓約を交わさなければならない。沈黙の掟は命より重く、破れば友の手で葬られる。マフィアネットワークの全貌がいまだに冥々としているのは、このような行動規範と秘密主義に守られてきたからだ。

今回は殺しのプロフェッショナルたちに光をあてて、アンダーグラウンドな世界を深掘りする。

目次

ラッキーと呼ばれた男

「敵を憎むな。判断に差し響く」
映画『ゴッドファーザー』3部作は名台詞の宝庫だが、これも至言だと思う。雑念は思量を鈍らせ、思わぬ誤算を生むことがある。マーダーインクの処刑人は無用の感情にとらわれず、ビジネス至上主義に徹して淡々と任務を遂行した。

マフィアとは、本来はシチリア島を源流とするファミリーをさす。しかし現在では意味が広がってギャングスターの総称になっている。
殺人株式会社が誕生した背景には、コーザノストラの最高幹部チャールズ・“ラッキー”・ルチアーノの存在が欠かせない。マフィアの旧態依然とした体質を刷新し、近代的なビジネス組織へと変貌させた革命児だ。
コーザノストラは単体のファミリーの名称ではなく、マフィアと呼ばれる犯罪組織の集合体。イタリア語で「我らのもの」を意味する。ニューヨークの5大ファミリーも、シカゴ・アウトフィットもコーザノストラの構成分子というわけだ。

ルチアーノは自身がシチリア系だったにもかかわらず、従来のボスたちがこだわった古いしきたりを破り捨てた。いつまでも血筋と伝統に縛られていては未来はない。マフィアが生存するためには、アメリカ的な合理性が必要だった。
「無益な抗争を避け、連携体制を築くことがビジネス上の利益につながる」。彼はそう説き、各地のファミリーを統合して巨大な犯罪シンジケートにまとめあげた。また、ボスたちはファミリーの規模に関係なく対等な立場とみなし、運営には合議制を正式に導入した。信頼関係を築くために自分もトップには立たない。

ルチアーノが構築した企業型シンジケートは現在も機能しており、ほぼ変わっていない。現代までつづく変化をもたらしたその手腕には一点の疑いもない。

マーダーインクの誕生

では、制裁機関はなぜ創設されたか。
ファミリー間の紛争は協議で解決し、不要な殺しをなくす。ルチアーノのそうした理想を反映したのがマーダーインク(殺人株式会社)だ。どうしても殺しが必要となった場合は審査を通じてプロに依頼する。その目的は、勝手な処刑を禁止して殺人行為を規律化すること。復讐の連鎖を断ち切ること。

設立は1930年代前半のニューヨーク。ルチアーノの心腹の友でユダヤ系のマイヤー・ランスキーが率いたバグズ&マイヤーギャングが前身となり、そこにエイブ・“キッド・トゥイスト”・レルズの一派が吸収された。キッドは、のちに当局に寝返って組織を売る裏切り者。ランスキーはマネーロンダリングの立案者といわれる切れ者だ。
当初はベンジャミン・“バグジー”・シーゲルが指揮をとる予定だった。が、それは相棒のランスキーに最強の暗殺部隊をもたせることと同じ。ランスキーの天下になることを恐れたコミッション(全国委員会)はバグジーを外し、代わりに人当たりがよく、同じユダヤ系のルイス・バカルターをリーダーに据える。

マーダーインクという名は、1940年代に入って組織の存在が公になった際にメディアが命名したものだ。正式名称はいまだに明らかになっていない。あえて組織名をもたなかったのかもしれない。

社則、給与、福利厚生 

構成員は洗練されたプロの暗殺者だった。請け負うのはコミッションの処刑要請。当局の目を欺くため、本部は老婆が経営する24時間営業の店に置かれた。所属した凶手は250人以上、殺害した数は500人とも800人以上ともいわれる。
暗黙のルールもあった。

  • 仕事はビジネスと割り切ること
  • 殺害目的は反逆者の粛清
  • 政府密告者の口封じなどビジネスに限定し、恋愛・復讐など私的なものは禁じる
  • 民間人を巻き込まないこと

このほか、「殺す」「処刑」「抹殺」といった単語の使用を禁じ、“hit”という隠語を使うよう求めた。会話が盗聴されても、“hit”なら間接証拠として弱い。
誰よりも自分を守らねばならなかったのはリーダーのバカルターだ。殺害指令は誰もいない部屋で一人のヒットマンに伝える。命じたのはこの男だと同席者に証言させてはならない。
指令の実行者は、ターゲットと利害関係のないメンバーが起用された。このことは大きな強みになったにちがいない。

報酬は週給のサラリー制。表の世界と同様、経験や技能に応じて50ドルから250ドル程度の幅があった。任務をこなしたときは、一件あたり1000ドルから5000ドルが上乗せされる。世界恐慌の影響が残る当時の貨幣価値と現在の円価を比較するのは困難だが、仮に「1ドル=2000円」で換算すると、5000ドルは1000万円になる。
サラリー制を採用したのは、金回りの悪くなった構成員が無断でビジネスをはじめるのを防ぐため。運悪く逮捕された場合は一流弁護士をつけ、投獄されても妻子の生活は保障する。

福利厚生も上場企業のようだった。趣味と実益を兼ねて暗殺業務に従事する物騒な男もいたが、そうでない者にとっては、殺し屋稼業はやはりストレスが多い。
バカルターは社員旅行を企画したり、プロスポーツの試合観戦にメンバーを招待した。家族問題など私生活の悩みごとの相談にものって、メンタルケアもしていたという。

マーダーインクの処刑方法

標的の多くはマフィアの幹部や構成員だった。同業者が大量に消されているだけでなく、ほとんどが迷宮入り、事故、自殺として処理されていることから、殺しの技術が相当なレベルだったことがわかる。
処刑方法は射殺、刺殺、絞殺、溺殺が大半を占めたが、なかでも足がつきにくいロープやアイスピックが武器として好まれた。わが国の必殺仕事人が三味線の弦やかんざしを用いるのは理にかなっているのだ。
フィクションと異なる点は、派手な立ち回りを嫌い、合理性を重視したこと。自分の殺しを「芸術的」と自画自賛する狂犬もいた。

胃にアイスピックで穴をあけると水に沈んでも浮かんでこないことを発見したのは前述のバグジー。ハリウッドスター顔まけのイケメンマフィアで、ファッショニスタでもあった。「ラスベガスをつくった男」として知られる。

死体の処理は「現場に残す」場合と「死体を消す」場合があり、後者のときは死体運搬用の盗難車を調達してナンバープレートに細工を施す。運搬ルートも選びに選ぶ。
殺害計画を実行するにあたり、関与者全員のアリバイも用意した。
この100年間で、犯罪者の手口がさほど進歩していない点は苦笑いするしかない。

裏切り者が謎の転落死

組織の瓦解は突然やってきた。
1940年2月、主要メンバーのキッド・トゥイストがついに逮捕。どうみても小物にはみえなかったことが彼の不幸だった。当局はキッドを大物ギャングとみなしてマフィア摘発のキーマンに定める。
沈黙の掟を守って自分だけが死刑になるか、それとも告発と引き換えに減刑されるか。キッドは司法取引に応じて仲間を売ることを選ぶ。まもなくマーダーインクは一斉検挙され、幹部が次々と死刑台へ送られる。
キッドは警察の監視下におかれ、厳重な身辺保護を受けることになった。当局にしてみれば、検察側の証人としてまだまだ働いてもらわなければならない。

ところが、その口はあっけなく封じられる。
それはサブリーダーのアルバート・アナスタシアに捜査が及ぼうとしていた1941年11月12日のことだった。
匿われていたホテルの6階の部屋から、キッドが転落死をとげたのだ。24時間体制の護衛つきだったにもかかわらず。
「逃亡を企て、窓の外から5階に降りようとして転落した」という警察の発表には一脈の疑問が残る。なぜなら、転落した地点は窓の真下ではなく、まるで誰かに放り投げられたかのように建物から不自然に離れていたからだ。
リーダーのバカルターにつづいて、アナスタシアまで失いたくなかったルチアーノら上層部が護衛を買収し、口を封じたというのが真相に近いだろう。賄賂をばらまいて警察を取り込み、国家権力との癒着を深めて組織を守るのはマフィアのお家芸だ。転落死の第一報を受けたルチアーノは、皮肉たっぷりに「殺しの芸術だ」と裏切り者の口癖を真似たという。

マーダーインクの終焉につきまとう風説も、いかにも彼ららしい。バカルターが処刑されたとたん、なぜか警察の捜査がぴたりとやんだのだ。リーダーの死刑執行で手打ちとするマフィア・当局間の密約があったという見方が今では主流になっている。

マフィアの沈黙の掟オメルタ

キッドの転落死は口封じであり、血の制裁が実行されたと人々は震えあがった。
マフィアには、シチリア発祥のオメルタと呼ばれる十戒がある。新しい一員になる者が幹部の前で結ぶ入会の誓約である。彼らは自分たちが所属するファミリーを、しばしば「名誉ある社会」と呼ぶ。オメルタは、たとえ拷問を受けても沈黙し、ファミリーを守ることを名誉ある行動とする。
違反者には地獄が待つだけだ。ある日突然姿を消したかと思うと、口にいっぱい小石を詰められた惨殺体となって建設現場に遺棄されていたり、自宅でいきなり射殺されたり、海でサメのランチにされたりする例は枚挙にいとまがない。
これを防ぐために、アメリカでは証人保護プログラムが存在する。その名のとおり、組織による報復措置から証言者を保護する制度である。

今回は、2007年に逮捕されたシチリアの大物サルバトーレ・ロ・ピッコロの自宅から発見された文書に依拠して、「名誉ある男」になるための十戒をご紹介しよう。

  1. 第三者の同席なく、一人で他のファミリーの構成員と会ってはならない
  2. 仲間の妻と関係をもってはならない
  3. 警察関係者と交友関係を築いてはならない
  4. バーやクラブ通いをしてはならない
  5. 妻の出産に際しても、ファミリーのために動けるよう準備をしておかなくてはならない
  6. 約束は必ず果たさなければならない
  7. 妻を大切にしなければならない
  8. ファミリーに情報提供を求められたら、真実を語らなければならない
  9. 仲間、およびその家族の金に手をだしてはならない
  10. 親族に警察・軍関係者がいる者、または背信的悪意者や倫理道徳に欠ける者は構成員にはなれない

このほか、「犯罪被害にあっても、司法システムの法的援助に頼ってはならない」、「オメルタに違反すると死刑」といった行動規範がある。俗に血の掟と呼ばれるのは、誓いを交わすときに手の指に針を刺し、自らの血をつけた聖人画を燃やす儀式に由来する。「掟に背けばわが身も燃えてなくなる」ということか。

暗黒街を跋扈し、殺し殺されたギャングスターの世界。
マフィアにとっては必要悪であり、同時に正義でもあったのがマーダーインクだったのだろう。類同する制裁機関は現在も存在すると思われる。

結びに代えて、蛇足を添える

人を殺す、という仕事は、なにも裏社会だけのものではない。国家が秘密警察や諜報機関を使って殺人の実行行為に着手する場合もある。たとえば、ラモン・メルカデルはNKVD(ソ連内務人民委員部)のエージェントであり、公務としてレフ・トロツキーを殺害して英雄になった。

「死がすべてを解決する。人間が存在しなければ問題は起こらない」とスターリンは言った。
あなたはこの言葉をどう受けとめるだろうか。

featured image:Al Aumuller, World Telegram staff photographer, Copyrighted free use, via Wikimedia Commons

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