主人公の女の子が「ぽい」するのは片づけられないおもちゃたち。でも、捨ててしまうのはそれだけではありません。シュールな教育絵本です。
子どもの心にひそむ闇を描いた絵本
「なんでもぽい!」は、タイトルから想像できるように、「ぽい」つまり「捨てる」ことを描いた絵本。表紙も、女の子がたくさんのおもちゃを捨てている場面が描かれているので「ああ、おもちゃを捨てちゃうんだな」ということがわかります。
しかし、捨ててしまうのはおもちゃだけではありません。ページをめくっていくと、ドキドキの展開が待っています。
主人公のまりこは、お母さんとお兄ちゃんに怒られてばかり。ふたりとも、いなければいいとさえ思っていました。
この日も、まりこは部屋を片づけていないことでお母さんに叱られてしまいます。
片づけようとするものの、ますます散らかってしまう部屋。まりこは窓からおもちゃを放り出してしまうことにしました。
部屋はきれいになったのですが、お兄ちゃんのせいで、おもちゃを庭に捨てたことがお母さんにバレてしまいます。
庭へ出たまりこが「どこかに あなぼこが あれば いいのに。」と思っていると、本当に庭の隅に大きな穴がありました。この穴に、おもちゃを捨てることにしたまりこ。しかし、ここでもお兄ちゃんに見られてしまいます。
ピンチに陥ったまりこがとった行動は、お兄ちゃんを穴に捨ててしまうことでした。
それを知ったお母さんは、お兄ちゃんを助けるために、自ら穴に飛び込んでしまいます。
やがて辺りは暗くなり、まりこは心細くなってきました。
自分の行動に嫌気がさしたまりこは、ついに自分自身を捨ててしまうのです。
トラウマが残る衝撃的なストーリー
怒られてばかりで、親やきょうだいがいなくなればいい!と思うことは、子どもだったら一度や二度、あるかも知れません。
でも、本当にそうなることは望んでいないはずです。親やきょうだいがいなくなったらどうなるか、子どもだってちゃんとわかっています。
ところが、まりこは実際に行動に移してしまうのです。お兄ちゃんを穴に落としてしまうなんて、ドキドキします。衝撃的な内容です。現実世界だったらと思うと、恐ろしい話ではありませんか。
さらに、お母さんまで穴に飛び込んでしまい、最後には自分まで…。穴の中がどうなっているのか全く書かれていないのが、恐怖でした。
呼んでも答える人のいない家に、まりこがひとりぼっちでいるシーンは、心がザワザワしたものです。
ただ、この物語は、お兄ちゃんとお母さんがいなくなってしまっておしまい、ではなく、夢オチだったというラストシーンが待っています。
眠っていたのかどうかは定かではありませんが、穴に飛び込んだまりこは穴の中をどこまでも転がっていき、気がつくと、元の散らかった部屋にいたのでした。
穴は、どこにもなく、お母さんもお兄ちゃんもいます。おもちゃもありました。
内容を知ってから改めて表紙を見てみると、何だかゾッとします。
女の子が立っている部分は半円に白く残されているのですが、まわりは真っ黒に塗りつぶされているのです。
白い部分は穴の入口を表現しているのでしょう。
黒い部分には、落ちてくる大量のおもちゃ。そのおもちゃを捨てる女の子の顔が、怖いのです。うつろな目をしているのに、口元が笑っているのですから。
教育的な絵本なのでしょうが、子どもの頃の私は「ちゃんと片づけよう」とはならずに恐怖を植えつけられてしまった気がします。
すべて夢だったというオチも「ああ、よかった」とはならない後味の悪さがありました。
ポップで明るいイメージの改訂版
実は私が子どもの頃に読んだのは、改訂される前の絵本です。今も手元にあります。長い間手放さなかったのは「怖い」と感じつつも、気に入っていたからなのでしょう。
海外の絵本のような赤坂三好さんの絵も好きでした。おもちゃやインテリア、大きな木に囲われた三角屋根の家などもどこか異国風でしたし、まりこの服装もおしゃれで、憧れのようなものがあったのかも知れません。
改訂版が出版されていたことを知ったのは最近でした。
手に取って見ると、ひとまわり小さいサイズになっていました。
作画は「かいけつゾロリ」シリーズでおなじみの原ゆたかさん。
絵柄も雰囲気もがらっと変わっています。
本文は、現代風な言葉遣いに変えられているだけでなく、吹き出しを使うなど、コミック風になっていました。
お兄ちゃんを穴に突き落とすシーンも「えりのところを つかむと、あなぼこへ ぽい!」と捨てたり、お母さんも自ら穴に飛び込むのではなく、まりこが持ち上げて「ぽい!」してしまうという具合に変更されていました。
不気味さは薄れ、コミカルな内容になっています。
時代に合わせているのでしょうが、少し残念な気もしました。
ただ、子どもたちに読み聞かせするなら、改訂版の方がトラウマを引き起こす要素は少ないかも知れませんね。
おとなの方には、改訂前の絵本も合わせて読むことをおすすめしたいです。
(C) 山中恒 作・赤坂三好 絵・偕成社(改訂版 原ゆたか 絵)
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