高校時代、クラス友人が私の家に集まり、期末試験の勉強をしていた。
気が付けば夜9時を過ぎていたので、そろそろ帰ろうという雰囲気になった。そのとき、一人が「イオンの裏にある神社で肝試しをしよう」と言い出した。
みんなの帰り道の途中でもあるし、近場なので気分転換にはちょうどいい。
そんな軽いノリで、私も参加することにした。
公園のトイレ前にいた女性
神社へ向かう途中に公園がある。
住宅街の近くではあるが、街路灯が少なく、夜になるとかなり薄暗い。公園の周囲を囲む木々のせいで、昼間とはまるで雰囲気が違って見えた。
しかも、その公園は飲み屋街からの帰り道にもなっており、酔っ払いがベンチやトイレ付近で騒いでいることがたまにあって雰囲気がよくない。
正直なところ、幽霊よりも酔っ払いのほうが怖い。
その夜も、公園の横を通ったときに人影が見えたので、また酔っ払いかと思ったが…どうも様子がおかしい。
木々の隙間から女性の姿がみたのだけれど、服装が異様だった。
明治時代の鹿鳴館の舞踏会を描いた挿絵に出てきそうな、古めかしいドレスを着ていたのである。
季節は夏、夜とはいえ暑い時期。そんな服装で、公園のトイレ前に立っている理由が思い浮かばない。
すると、いつも空気を読まない友人が、「なんかコスプレしてる奴がいるぞ」とゲラゲラ笑い始めたので、私は「黙っとけ」と制止した。
女性は気がついてない。特にこちらを見ることもなく、ただ立っている。
なんだろうなと思いつつ、気にしないようにしながら神社へ向かった。
肝試しにならなかった肝試し
神社に着いてみると、思っていたほど不気味ではなかった。
むしろ期末試験のほうが気になっていたので、肝試しどころか、みんなで「良い点数が取れますように」と真面目にお参りをした。
高校生というのは案外そんなものである。
帰り道、公園の近くで巡回中のパトカーに呼び止められた。
夜遅くに出歩いている高校生ということで職務質問を受け、「こんな時間に出歩くな」と叱られたのである。
ところが、その直後、公園のほうから酔っ払いの怒鳴り声が聞こえてきた。
警察官は慌ててそちらへ向かい、私たちはそのまま解放されたのだ。
これ以上、イヤな目に合いたくないので、皆、ちりちりバラバラになって逃げるように帰ったいったのだった。
あの女性は何だったのか
試験が終わった日、朝ごはんを食べながら新聞を見ていると、公園で女性が酔っ払いに暴行され、翌朝に遺体となって発見されたという事件の記事を見つけた。
場所も時間も、私たちがあの女性を見た日だ。
学校にいくと友人たちはその話で持ち切りだった。
友人の一人が、「あれ、幽霊だったんじゃないか?」と言い出した。
しかし、例の空気を読まない友人は即座に否定した。
「幽霊があんなドレス着て、コスプレするかよ、バカじゃねーの」
確かにその通りなのかもしれない。
生きている人間だったとしても、夏の夜にあんな服装で公園のトイレ前に立っていた理由は説明できない。
「じゃあ何だったんだよ」
幽霊と言い出した友人が不機嫌そうに言ったが、誰も答えられないまま、ホームルームが始まった。
それから、あの時の事を誰も話す事ははかった。
それにしても思うのは、女性が事件の被害者だったのか、それともまったく関係のない別人だったのか。
そもそも、本当にそこにいたのかさえ分からない。
結局、今でも正体は分からないままである。
ただ一つ確かなのは、あの夜でいちばん怖かったのは幽霊ではなかったということだ。
警察官に叱られたことのほうが、ずっと現実的で、ある意味ではいちばん恐ろしい出来事だった。
※画像はイメージです。


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