「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」日本を巡る噂〜ドラマ編

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ナイト・オブ・ザ・リビングデッド。
ゾンビ映画の第一人者、ジョージ・A・ロメロが若い頃に撮影した長編映画のデビュー作だ。
もちろんゾンビ映画でモノクロにもかかわらず、1968年に公開されてからアメリカで大ヒットした。

しかし長い間、なぜか日本では放映されなかった。
奇妙な出来事やトラブルが相次ぎ、封印されてしまったという噂があるのだ。

この話を最初に知ったのは、インターネットが普及してしばらく経ったころ。
映画が好きなので、映画関連のサイトをネットサーフィンしていると、とあるホラー映画専門のwebサイトが目にとまった。
そこに掲載されていたのが『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』に関しての顛末について詳しく書かれていて、運営者いわく政治団体から圧力を受けた為だったそうだ。

その理由についてをドラマ仕立ててで話していこう。

目次

ゾンビと極左集団

まずは当時のおぼろげな記憶もあり、若干のフィクションも含んでいる事を伝えておこう。

列島中がオカルトブームに沸いて「オカルト映画」が立て続けに公開されていた、70年代ごろ。
『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』上映権を買い付けてきたと映画配給会社が劇場公開を企画し、映画雑誌などメディア媒体に公開予定の記事を出したのだが・・・快く思わない人々がいた。
とりわけ「極左」とカテゴライズされる集団である。

当時、なんらかの映画を公開する・しないをめぐり政治団体が圧力をかけてくる出来事は珍しいものではなく、何故かターゲットにされてしまったらしい。
ヘルメットやゲバ暴で武装した団体が配給会社のオフィスに押しかけ、対応した社員たちに向かって、極左集団が怒号まみれで『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の劇場公開に反対した。

理由はこうだ。
蘇った死者が人間に襲いかかって食い殺す描写のある映画は人倫に反し、政治的に間違っている。
しかし、この言い分を聞いた社員は、集団に向かって言った。

「ところで貴方たちの中に、問題視している映画を観た人はいますか?」
「あああんっ? 公開されてないんだから、観てねーよ!」
「待ってください、肝心の映画そのものを観ていないのに、貴方たちは内容も知らずに反対するんですか?」
「あああんっ? 人を食い殺すなんて映画、人倫に反してんだろが!」

たしかにそうなのだが、言っている事がおかしい。
そこで社員は提案した。
「何が問題なのか、ちゃんと分かってないのに反対するのって、おかしいんじゃありませんか?」

その言葉に、抗議にやってきた極左集団のメンバーたちは沈黙した。確かに言われた通りだ。
実際にこの眼で確認いた者は一人もいないのだから、理にかなっていない。

極左集団に対して一本とった配給会社の社員は、さらに頓智を利かせてこう言った。
「せっかくですから、いまから試写室に集まっていただけませんか。『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』を上映しますから。みなさんが映画を観終わってから、何が問題なのか議論いたしましょう」

狂乱の試写会

社員に言いくるめられた極左集団は、ぞろそろと会社の試写室に集まって席についた。
照明が落ちて、試写室は暗闇に包まれ、ロゴマークがスクリーンに映り、おどろおどろしい音楽がモノクロの画面に流れる。
配給は正式に決まっていないため、日本語字幕はついていない。

映画が始まると、車に乗った兄妹ふたりが墓参りに赴いているシーンが流れ、そこへゾンビが襲いかかってきた。
兄は妹を守るためにゾンビと戦って死んでしまい、命からがら逃げだした妹が、近くにあった一軒家へと逃げ込む。
そこには同じく逃げ込んできた黒人青年や若いカップル等が籠城している。
夜になり、ゾンビの集団が家を囲しはじめ、人々は脱出を試みるが失敗し、ゾンビたちに喰らわれていく・・・。

「うぎゃあぁぁぁぁぁぁ!」

とつぜんカン高い声が響き渡り、一人の活動家が錯乱して暴れ始めた。

「ダメだ!やめてくれ!オレじゃないんだぁぁ!」

意味の分からない言葉を大声でわめきちらし、椅子を蹴りあげ周囲にいた人物に殴りかかる。
メンバーで取り押さえようと大騒動になり、巻き添えを喰った社員たちは逃げ回る。その光景は、さながらゾンビに襲われたの人々のごとし。

なんとか取り押さえて担ぎ出し、試写会は中止になった。
後には呆然と佇んでいる極左集団たちと配給会社の社員が残されていた。

「いったい、彼はどうしたんです!?」

配給会社の社員は、傍にいた極左活動家に尋ねた。

「いや、俺にも全然わからない。あいつ、どうしちゃったんだろう?」

たぶん映画が怖すぎて、あんな風になってしまっのだろうと思っていると。

「まえに深夜の映画館で、一緒に『エクソシスト』を観たときは一緒に笑ってたよ。アイツ、オカルト映画を観るのは平気なんだ」

などと涼しい顔をしている。

「じゃあ、なんであんなに叫んだり暴れたりするんです?」

と訪ねてみると、「分からない」というばかりだった。
その後、残っていた極左集団は黙ったまま、配給会社が入っているビルから去っていった。

この映画にはなにかがある

試写会の様子を目にした配給会社の社員は、翌日の会議でこう言った。
「理由はわかりませんが、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』には観客を狂わせる何かがあるようです。公開は中止した方がよいかもしれません。」

それを聞いた年長の、別の社員が言った。
「ちょっと待ってくれ。私はアメリカでその映画を観て、人気があったもんだから権利を買ってきたんだ。アメリカの客は怖がったり、ちょっとは叫んだりしたけど、みんな正気で観終わって帰ったぜ。どうして連中だけが、そんなにイカれたんだ?」

たしかにその通りで、もし観客を狂わせる何かがあるのであれば、アメリカで大問題になっているだろう。それに、試写会に参加したすべての人たちが可怪しくなってしまう。
仮にショッキングなシーンが問題だとしても、この時代には『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』などは比べ物にならない残虐な描写がある、”スプラッター”というジャンルの映画がメジャーになりつつあった。

錯乱した活動家に問題があったのだろうと結論が出たのだが、数日もしないうちに試写会に訪れた極左集団から脅迫状が届いた。
仲間をあれほど怖がらせる映画を公開することは許さない、もし公開したら、会社や社員はどうなるか解らないという内容だ。

「もう面倒くさいから、こんな映画を小屋にかけるのは止めよう」

事件化を恐れて『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』を一旦お蔵入りにした。

噂の真相

それから時を経て、VHSからはじめまり、LD、DVD、ブルーレイと様々な媒体で発売された。
歳月を重ねるにつれ、映画界における『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』は今や古典の地位を獲得したのだ。
しかし、とりたてて似たような騒動が起きたという話は聞いた事がない。

私がはじめて『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』を観たのは高校生のときだが、モノクロの映像ゆえ、古めかしい怪奇映画を観ているような気分であった。面白いと映画だと思うが、特に怖いと感じた記憶はない。

それがなぜ、このような根も葉もないような噂が出回ったのかといえば、1968年頃の日本の事情だ。
「ホラー映画」に一定の商品価値が付くようになったのは、1974年の『エクソシスト』公開で、それ以前にもジャンルとしては確立されたいたが、社会現象になるほどヒットには結びつかない。

今でこそ、ゾンビ映画の第一人者であるジョージ・A・ロメロの監督作品であるが、この頃はまだ無名の若者。有志たちが寄り集まって製作した低予算のインディペンデント映画で、メジャーな配給先がつかない。そこに、カラー映画が浸透しつつある時代にモノクロ映画。
すべてが商業的なアダとなり、日本では存在として知られる余地がない。

しかし、噂が生まれた背景について、少しだけ思い当たることがある。
70年代当時、政治的主題をテーマとした日本映画は少なからず製作され、政治色や党派性が強すぎると、上映の是非をめぐり異なる政治団体が衝突する騒ぎがしばしば起きていた。

政治抗争の現場に居合わせてしまった人々の間に禍根が残され、曖昧になる記憶の中で、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』が公開されないことと何処かで結びつき、噂話が醸成されていった。
それをホラー映画専門サイトの運営者が記事として書き、偶然にも私が目にしてしまった。

おそらく運営者の妄想だとおもうが、ちゃんと調べたくとも、そのサイトは存在せず真相は分からない。
インターネット黎明期にオンラインを漂っていた幽霊のような存在に出会ってしまったのだろう。

※画像はイメージです。

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