「核融合」それは「相対性理論」によって大きく可能性を広げた物理学の世界において、手の届く程に近づきながらも未だ「手中に」収まりきらない次世代エネルギーです。
その名の響き一つ取っても物騒なような凄そうなものを感じずに居られませんが、そこから得られるエネルギーや実現可能性。検討されている技術の数々まで踏み込んでみるとSFもかくやな話題は引きも切らず、正に「夢のような」話で満ち溢れた界隈と言えます。
21世紀現在においては、遂に商用運転への目途が立ったという話題も現れるなど、人間が手にし得る可能性が最も「期待される」エネルギーであり、エンターテインメントにおいては「リアリティのある」存在としても語られる、そんな「夢と現実の交錯する」話題について、ワタクシ的に少し深掘りしてみたいと思います!
かといって専門家ではありませんので、過度な指摘はご遠慮願います。
「物質」と「エネルギー」の関係性を整理
「燃える物」に「火種」を近づけると「(大きな)炎」になって燃え上がり、その炎は色々なものを「温め」たり、焼いて「灰」にする事が出来る。こういった「火(炎)」にまつわる現象は、現代水準の科学的知識を持ち出すまでもなく「火(炎)」というものを扱って生きている人間であれば「一般常識」としても知っている程度に身近な知識や知恵として定着しているものと言えます。
この「火(炎)」を作り出す現象を「燃焼」と呼びますが、これを整理して突き詰めていくと「化学」的な見方と「物理」的な見方が並び立つ複雑な現象である事が浮上します。
ごく簡単に言うと「化学」的な視点では、いわゆる「酸化」の加速された反応として物質が化学変化を起こし、熱を放出しながら「酸化物」等の化合物へと変化していく事が表される現象となります。
一方「物理」的な観点では、燃焼する物質が「火種」という「熱源」からエネルギーを得る事で分解、粒子が高エネルギー状態に達する事で「電離」という電気的にも分解された状態となって「炎」という一種の「プラズマ(状態)」を形成しているという表し方になります。
「化学」と「物理」それぞれ見え方
これらの観点は「どちらが正しい」という問題では無く「化学」と「物理」という、それぞれ見え方や解像度の異なる覗き窓から燃焼という「同じ現象」を見ている事が、今回の話題において重要な点となります。
いずれも「ある物質(燃料)が変質していく過程で熱(エネルギー)が発生している」という事を意味しており「化学的な反応」が熱(エネルギー)を発生させるのは「物質」の結びつきが「組み変わる」。
熱という「高エネルギー状態」によって物質が分解され、供給される酸素と分解された炭素がより安定した二酸化炭素となって安定するといった事を表す。この際「物理的」には分解された物質が「燃焼ガス」や「自由電子」による一種の「プラズマ」を形成する事で「光」や「熱」として観測される事を示します。
つまり「火(炎)」とは、物質が高エネルギーによって分解される事で、物質それ自体の一部が高エネルギー状態になってバラバラに飛び出している状態というようなものだと言え、熱や光は(若干の飛躍は含みますが)「物質として留まる事が出来なくなった高エネルギー状態の粒子」であると言う事が出来る。
エネルギーの伝達とはこの「高エネルギー状態の粒子」…即ち「高速で運動している粒子」が「別の粒子に衝突」する事でその「運動(エネルギー)」を「受け渡す」現象であるという事になります。
これは非常に小さい粒子、おおよそ「原子」クラスのサイズを対象とする分野において顕著になる見方として「核物理学」や「プラズマ物理学」「素粒子物理学」等の分野において扱われるものとされます。
核分裂反応
この「核物理学」が現在実用化にこぎ着けた代表的なエネルギーが「原子力(核分裂反応)」です。
これは原子と自由電子の構造が安定していない事から、自然にエネルギーを少しずつ「放射」して安定した物質へ変性して行く性質(放射性崩壊)を持った物質を多量に配置する事。その反応を連鎖的に増幅し「自然に強力なエネルギーを発するように仕向ける」という方法論です。
原理的に発生するエネルギーが極めて防ぎにくい放射線を大量に含む為、安全性の確保に困難は伴いますが、エネルギー源としては「ほとんど自然発生的に」増加していく、しかもそのエネルギー自体も巨大である事から実用にこぎ着けたものとして現代社会を支えるものとまでなりました。
言ってみれば「ただ置いてあるだけの物質」が「勝手に膨大なエネルギー源に変わって行く」という「原子力」。このエネルギーは「危険性」と共に「そんな物質は都合良く大量に存在しない」という現実的な問題がありました
実際問題として「放っておくとエネルギーを出し尽くしてしまう」のだから、広大な自然の中で知らない間にエネルギー切れとなったものもあったかもしれません。そこで更にこの観点を進め「(多量に存在する)原子を変性させてエネルギーを取り出す」のが「核融合」だと言えます。
「燃焼」の火種
ここで思い出して頂きたいのが「燃焼」の火種という「高エネルギー状態のもの」を「燃料」と結びつけて反応を加速させる、という発想の構造が「核融合」と似通った部分があると言えます。
「核融合」における「燃料」となるのが、現在では「反応を起こしやすい」とされる「デューテリウム(重水素)」や「トリチウム(三重水素)」が挙げられます。
これらは自然界にごく少量しか存在しない「放射性物質」ですが「比較的変化しやすい」為に「燃料」に目されており、これらと「水素」を組み合わせて「ヘリウム(四重水素とも言える構造を持つ安定した原子)」を作り出し、その際に発生すると計算されるエネルギーを得ようとするものです。
問題は「核分裂反応」が「放っておいても自然に」エネルギーを発していく形だった事に対して「核融合」は「反応を始動してあげる」必要、言わば「火種」が必要となります。
「無理矢理原子核を押し付ける」事で起こすものとされ、その方法論として超高熱を用いる「熱核融合」か、爆圧等によって超高速で粒子が衝突する状況を作り出す「慣性核融合」の二つが現在実現可能性を模索している理論とされます。
他にも、より入力エネルギーを小さくし効率を高められる事が期待される技術として、水素原子を直接押さえつけて核融合までコントロール出来る強力なレーザーを用いる「慣性核融合」の発展系として期待されている「レーザー核融合」や、通常規模の燃焼や爆発で核融合を起こせる物質があれば可能というオカルト染みた「常温核融合」等、夢と現実が今正に交錯している領域となっています。
エネルギーを「捕まえ」る!?
「核融合」の可能性それ自体は「核分裂」と歩調を合わせるようにして研究が進められており、ただ爆発的なエネルギーを放射するだけというのであれば、数十年前既に「水素爆弾(水爆)」という形で一定の成功を収めていたものではありました。
日本においては「第五福竜丸」の被爆事件という苦い記憶で知られるものではありますが、かのビキニ湾水爆実験では核融合燃料に設計ミスがあったとされ、想定外の核分裂反応まで起きた結果「死の灰」をもたらしたという事が報告されています。
詰まる所この「事件」自体は「核融合」としては失敗という事になりますが、その結果より凄まじく陰惨な「威力」を生じさせてしまったのは歴史の皮肉と言える所でしょう。
ともあれ、ただ被害を無闇に撒き散らすだけ、例え爆風と熱線だけを撒き散らせるとしても、それだけではただの爆弾としてしか利用価値が見出せない事になってしまう。「エネルギー源」としては不足であり、これを如何に「利用可能な形」へと制御していくか、という事に問題が移っていく事になります。
そこで辿り着くのが、実に「旧態依然」としたものと感じられてしまいますが「水を沸騰させて蒸気圧でタービンを回し発電する」という方策です。
しかし驚くべきはこの「水」という地球上においてごく当たり前となっているものが、核融合という技術における「究極の減速材」と言わなければならない事実です。
やっぱり水
「核融合」で現在検討されている技術レベルにおける主軸となっている「ヘリウム」を生成する方式が最終的に直面する、最も対策困難とされる「放射線」が「高速中性子」と呼ばれるものです。
これはあらゆる原子が抱えている素粒子の内「電気的に中性」という性質を持つ「中性子」が、核融合の際にその高エネルギーで「弾き出されて」しまったものです。
この「電気的に中性」という性質故に、核融合において熱や光(放射線)の多くを磁気や頑丈な合金などでその他の全てを遮蔽出来るとしても、この「高速中性子」だけは「上手く何処かの物質に衝突してくれる事を期待」する=「偶然」遮蔽される以外に明確な対策が立てられず。しかもその「高速=高エネルギー」という性質が何を引き起こすか分からないという極めて厄介なものとされます。
実際に、上述した「第五福竜丸」の事例では発生した大量の「高速中性子」が想定外の核分裂反応を起こしたとされており、被曝する事でどの物質が何を引き起こすかはまるで検討もつかないという危険性を孕んでいます。
その為「高速中性子」への対策が核融合をエネルギー源とする為の最大の課題と言って過言では無い部分があります。
それを「最も強力に」為し得るのが他ならぬ「水」でした。
これは「水」、「H2O=二酸化水素」という「水素を含んだ物質」であり、しかも「液体」という「流動性」即ち「気体ほど密度が低くなく、固体ほど粒子の自由度が低くない=高速中性子が確率的に捕えやすい」という実に「都合の良い」性質を持っているという驚くべき事実がありました。
加えて「高速中性子」から「エネルギーを受け渡される」。
即ち「熱せられる」事でそのエネルギーを更に蒸気圧等として抽出出来る可能性もある事から、なんとエネルギー効率を高める期待まで為されています。「意外とローテク」と言うよりは、核融合という次世代の技術が「水」というあまりに身近な存在の可能性を更に引き出してしまった…と言えるものなのかもしれません。
いよいよ核融合による発電
かくしてこの「身近な減速材」が存在する事で、現実でもいよいよ核融合による発電が現実性を帯びたものになってきています。そこから得られる大きな電力が、現代社会を一段先に進めるようなブレイクスルーとなる事を「夢見て」みたいものです。
エンタメ界隈においては「枯れた技術」とも言えてしまうものですが、しかしそれ故にその奥深さを改めて深掘りし、楽しみを深めるという「楽しみ方」もまた出来るものではないでしょうか。
※画像はイメージです。
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