モンスターが大地を駆け、竜が空を舞い、魔法が使えるーー想像の翼をいっぱいに羽ばたかせ楽しむことができるファンタジーの世界。古今東西、様々な媒体で親しまれ、数々のヒット作を生み出してきたジャンルでもある。
今回ご紹介する漫画『オルクセン王国史?野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか?』(原作: 樽見京一郎 漫画: 野上武志)も、そんなファンタジー世界を舞台にした作品だ。
ここまでなら従来のファンタジー作品とあまり変わらない印象を受けるが、本作はこれまで作られてきたファンタジー作品とひと味違う。本作のコンセプトはなんと「銃と魔法」。剣と魔法、ではなく「銃」。そう、本作は従来のファンタジー世界に重厚なミリタリー要素をプラス、今までになかった味付けをした作品なのだ。
「正統派」ファンタジーに「正統派ミリタリー」を掛け合わせたこちらの作品。一体どんな仕上がりとなっているのか、今日はその見どころに迫ってみよう。
驚愕の異種族同盟が歴史を動かす!
さて、今回ご紹介する『オルクセン王国史』。こちらは、第2回一二三書房WEB小説大賞で金賞を受賞した、樽見京一郎氏の小説をベースに、美少女ミリタリー漫画の大ベテラン、野上武志氏がコミックを担当した漫画作品。
概要にさらっと触れただけでも、出版社が自信を持って送り出した意欲作だとわかるだろう。
そんな本作は、(なんとなくタイトルからも察せられるかもしれないが)「銃と魔法」のファンタジー世界を舞台にした重厚な復讐の物語。と言っても、「平和なエルフの国を凶暴なオークの国が蹂躙する」……「ファンタジーあるある」は本作では適応されない。
「いや、サブタイトルにあるけど……」と思われるかもしれないが、実はこのタイトル自体がミスリード。
「復讐」の対象はなんと主人公の同族たるエルフ。こちらの作品ものすごくざっくり説明すると、エルフVSエルフの戦いにオーク族が介入する、そんな少しひねりのきいた内容になっているのだ。
あらすじと見どころ
気になる本作のあらすじを追ってみよう。
まず、主人公は平和なエルフの国「エルフィンド」で暮らすダークエルフの族長ディネルース。ある日彼女は同族である白エルフたちに裏切られ、故郷を焼き払われてしまう。傷を負い、ほうほうの体で生き延びたディネルースたちを匿い、同胞として受け入れたのは宿敵であるはずのオークたちが暮らす国「オルクセン」だった。
オルクセン国王、グスタフの助力を得たディネルースは、故郷を奪った白エルフたちに復讐すべく修羅の道へと足を踏み入れていく……というのが、本作の大まかなあらすじ。
国を追われた高貴な主人公が泥にまみれて復讐する。ストーリーラインはこれまでも様々なファンタジー作品で取り扱われてきたであろう「ベタ」だが、エルフとオークのイメージを利用し、さらにひとひねり加えることで面白味を追加している。
その最たるものが本作もう一人の主人公とでも呼ぶべきオーク王、グスタフの存在だ。同族の裏切りによって故郷を追われ、難民となったディネルースたちに手を差し伸べ、助力を申し出たグスタフは、その振る舞いからわかるようにかなりの名君。通常、ファンタジーで描かれるオークの印象からはかけ離れた存在だ。
作中では、グスタフ個人の描写にとどまらず、彼の手腕によって豊かな国となったオルクセンの様子もあますところなく描かれる。また個人としてのグスタフ像も、豚かイノシシのようないかめしい外見とは裏腹に、非常に理知的な性格をしており、振る舞いは紳士的。謹厳実直だが猛々しいディネルースとは好対照なキャラクターとなっている。
現状、やや聖人君子すぎるところが気になるところはあるものの、まだまだ隠された部分も多いグスタフ。ディネルースとの関係も含め、物語を楽しむ上で見逃すことのできない存在となるのは確実。魅力たっぷりの主人公に注目していれば、本作で今までにないドラマチックな大河ロマンを目にすることができるだろう。
銃と魔法?ミリタリー雑学祭り!
祖国に復讐を誓ったダークエルフと、カリスマオーク君主の歴史大河ロマン、『オルクセン』王国史。一方、本作のコンセプトは「銃と魔法」。その看板に偽りなく、ファンタジー世界に散りばめられた重厚なミリタリー要素もまた、本作の大きな見どころ。
作品の舞台となる世界は、おそらく私たちの歴史で言うところの19世紀ごろをモチーフにしており、兵器や乗り物、軍関連の諸々もそれに倣っている。
そのため、作中に登場するミリタリー要素は現代のそれではなく200年ほど前のものになるのだが、その描写がとにかく詳細でリアル。部隊の運用から兵站の豆知識までマニアックに描かれるさまは圧巻のひとこと。
特に漫画担当である野上氏のしっかりとした画力で描かれる豪華な軍服や馬具は必見。
ファンタジーでありながら、タイムスリップしたかのような感覚が味わえるはずだ。
もうひとつ、本作で目を引く描写と言えば食事。ヒット作『ダンジョン飯』のようになんでも食う面白さはないものの、食事は国の豊かさの象徴とあってか、本作では印象的な食事シーンが何度も登場する。
ミリタリー的にも注目したい食事シーンも多いのだが、特に面白かったのが、演習時の視察に訪れた士官をねぎらう昼食だ。ライ麦のパンやデカいヴルスト(ソーセージ)など、素朴でガッツリしたメニューの中に、燕麦のスープがあるのに注目してほしい。
こちら、なんの変哲もないちょっと具沢山なスープに見えるが、実はこれ「戦時加給食」と呼ばれる特別メニュー。特別な作戦や訓練時に足りない栄養を補うために出るもので、通常メニューではなかったりするのだ。
ご飯シーンひとつにも細かなミリタリー雑学が潜んでいる本作。読み込めば些細な日常のシーンからも色々な発見がありそう。作品を楽しむ際には頭の隅に置いておけば、より深く作中世界を楽しむことができるはずだ。
『オルクセン王国史』の勧め
重厚な軍事大河ロマンと、魅力的なキャラクターたちがメインの本作だが、周りを彩るミリタリー雑学も見逃せない。本作にチャレンジする際は、ぜひ注目してみてほしい。
今回ご紹介した漫画『オルクセン王国史』は、「銃と魔法」をコンセプトにしつつ、復讐の大河ロマン、重厚なミリタリー、生活の中に息づく歴史・軍事雑学と様々な広がりをもつ作品だ。
ファンタジーに興味があってもなくても読む価値はある。気になった方はぜひこの機会にためしてみてはいかがだろうか。
(C) 樽見京一郎 / THORES柴本 サーガフォレスト
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