現代社会において、最も広く使われている「エネルギー」と言えば(その生産・加工過程でのエネルギー源はさておき)「電力」という事になるでしょう。
小さく作って大きく使う、遠くまで伝送する事が出来る、様々な形に変換して使う事が出来る、大きな力を生み出す事も出来る・・・等々、その「エネルギー」としての特性から今日の社会を構成する要素として欠かす事の出来ない重要な基盤となるに至っています。
その利便性はエンターテインメントの世界でも言わずもがな、電力を動力源とする存在は直接明言がされなくとも、明らかに電力で動いているであろう「ロボット」や「機械」の類いを始めとして、電気・電力を様々な手段として扱う能力や魔法まで、幅広く描かれるものとなっています。
ここまで広く浸透してしまうと、それこそ魔法か何かのようにも見えてしまう不思議な「電気」の世界に、今回は少し踏み込んで見たいと思います!
幅広く形を変える「電気」とは
乾燥した時期にパチッとくるアレから、嵐と共にやって来る雷に、動力照明通信磁気に加熱まで…「電気」と一言で言ってもその表われ方は正に千差万別、一体その「正体」と言えるものが何なのかまるでつかみ所が無いように見えてしまいます。
この「問題」を考える手掛かりとして、今回は「電気を発生させる方法」からアプローチを仕掛けてみる事にします。
「電気を発生させる方法」として、まず多くの人が思い浮かべるであろうものは「静電気」…樹脂製の下敷きや化学繊維性の布を擦り合わせる事で起きるものがあります。
但し今回の観点から見ると、この方法で起きる「静電気」は方法こそ手軽なものの、発生メカニズムについてかなり複雑なものがある為、アプローチとして逆に高度なものとなってしまうので候補からは外れます。
ここで用いるのは、学校の授業などで覚えている人がいるかもしれない「レモン電池(ガルバニ電池)の実験」と「モーターを回して発電する実験」の二つとなります。
前者は2種類の金属…銅と亜鉛(アルミも可)が基本を二つ並べてレモンの実に差し込んで銅線で結び、小さな電流でも動くモーターや豆電球等を接続して動かすという「化学電池」の実験です。
これはイオン化傾向の異なる2種類の金属が金属をイオン化させる電解質と反応する事で電気的に不安定な状態…物質として安定している状態から「電子」が余ってしまう側(負極)と「電子」を減らしてしまう側(陽極)が出来る事によって、接続された銅線を通じて「電子が移動」する事で「電気(イオン)的な安定を作り出そうとする反応=電気」が起きる事となります。
この「化学反応」は「イオン」という分子レベルと原子レベルに跨がる観点から「電気」というものが「電子の移動」によって起きている現象である事の手掛かりとなります。
つまり「電気」とは根本的に「電子の移動」が起きる事で発生する現象と言えます。
一方で「電子」とはあらゆる物質に「原子」という形で組み込まれており、それを「電力」として有用な形で利用する為には「どうやって大量の電子を安定して狙った方向へ移動させるか」という問題が持ち上がります。
先に挙げた「レモン電池」は、小さいとは言え目に見える反応を起こせる程度の電力を安定的に得られるものですが、実用とするには到底力不足です。
二種類の物質
「化学電池」の方法論でこれを解決するには物質の選定。なるべく「イオン化傾向の差が大きくなる二種類の物質」が必要となります。
現在「リチウムイオン電池」が多くの機器で多用されているのは「リチウム」が安定的に電池を形成出来る「金属元素」として最も大きいイオン化傾向を持つ為です。
ただ、イオン化傾向が大きい物質は単体で空気中に放置するとそれだけで酸化し始める…リチウムに至っては即座に燃焼するという「反応のし易さ」が避けられず、得られるエネルギーが大きい代わりに安全な運用がそれだけ難しくなるという性質に繋がります。
(現在のリチウムイオンバッテリーが時折火災を引き起こす原因もリチウムの反応性が元になっています)
この点は、電気の利用における難題である「1度取り出し始めると簡単には止められない≒保存が難しい」という性質にも繋がる点となります。
そこで発想として持ち上がるのが「必要な電力」を「必要な時」に「必要な規模で起こす」という方法論であり、それを叶える事となるのが後者の「モーターを回して発電する」実験となります。
これは「電磁誘導」、磁力(正確には磁束)が変動する環境で導体(実験では銅線を芯に巻き付けたソレノイドコイル等)に起電力が発生するという現象を実験するもので、電力と磁力が密接な相互関係にある事を示す手掛かりともされます。
この電気と磁気の相互作用は「電子」という素粒子の一つに強くアプローチするものとして、後に相対性理論にまで至る現代物理学の礎となる多種多様な物理現象へ関わるものですが、ひとまずここでは「(磁石かコイルを)動かす」という「仕事」を「電気」に変えて取り出す事が出来る非常に簡便且つ強力な技術であるという点が重要です。
これは即ち基本構造となる「回転子」と「固定子」に発生した電力を送る「回路」というシンプルな構造によって安定した「定格の」電力を得る事が出来る他、設計を変える事で「直流」や「交流」に始まる得られる電力の質や量も調整出来るという利点が存在します。
つまりこの「電磁誘導」こそは、人類が現状最も「手軽」且つ「直接的」と言える距離感で「電子の挙動」へアプローチしているものだと言える現象でしょう。
人類は「電子」を手にできるか?
前段では「電気」とは「電子の移動によって起きるもの」で「電子の挙動を如何にコントロール出来るか」が「電気」を「エネルギー」として利用出来る効率を上げる為の要因だという所に迫りました。
ここで改めて「静電気」や「雷」…自然に姿を見せる「電気」が文字通り一瞬、光速で拡散してしまう事に注意が必要です。
「電子」…特に「原子」から外れてしまい、単独の素粒子として飛翔する「自由電子」の状態になると、そのエネルギーは強力ながら捕まえる事が難しい「電磁波」等として方々へ拡散してしまうような事になります。
「電磁誘導」の理論に則ると、これも非常に強力な磁界を発生させる事で自由電子の挙動を制御し、電力として回生させるという事は理論的に有り得なくはない、と言う事は出来そうです。
例えばこれは核融合炉の炉心内部、熱源であるプラズマを強力な電磁場によって閉じ込める方式において、磁界の形状からどうしても漏れ出てしまう自由電子を回生させる等の考えに現れる事があるようです。
とは言え、如何せん必要となる磁力が極めて強大である=得られるエネルギー以上に必要となるエネルギーが多い可能性がある事から、効率化に巨大なブレイクスルーが起きない限りは難しいアプローチであるという事になるのかもしれません。
電池の理想型
他に現代の技術で電子を取り出すものとして、現在最も期待されているのが「電池の理想型」とされている「全固体電池」です。
現段階で既に実用段階へ達しているこの技術は、基本的に従来の「電池」。
即ち「化学電池」と同質の現象によって「電子の移動」を取り出すものとなっていますが、その特徴として「全固体」つまり「負極」と「陽極」と「電解質」のいずれも「固体」によって形成されています。
これによって物体として安定する、つまり安全性を高めつつ、物体が持つ電子を効率良く放出する事でより多くの電力を発生させる事が出来るようになりました。
現状、素材となる物質が複雑とならざるを得ない(特に固体電解質)事から「手軽に」とは言い難いものですが、人類が「電子を操る」領分としては一段階広がった、と言えるものかもしれません。
他に「電子」に直接触れる…とは少し毛色が違うものですが、発電から送電に関する技術として面白い技術と言えるのが「レーザー送電」や「マイクロウェーブ送電」と呼ばれる技術です。
これらは、遠隔地…主に宇宙太陽光発電のように太陽光発電を高効率で行える領域で発生させた大容量の電力をレーザーやマイクロ波へ変換、その「エネルギー」を照射し、言うなれば「発電力を受け渡す」ようにして遠隔地に送るという技術が考案されています。
現段階では実験段階で、照射するレーザーやマイクロ波の安全性を確保する必要性や、大容量のレーザーやマイクロ波を受信する側の設備をどうするかといった課題が山積してはいますが、事に拠っては人類が電気を利用する次の段階が拓ける…かもしれない技術と言えるでしょう。
巨大な力
以上を踏まえ、現状では「巨大な力(熱エネルギーや運動エネルギー)」を「巨大な電力=様々な力に変換出来るエネルギー」へとそのまま変換するには「電磁誘導」を利用する「回転運動」が最もコンパクトで高効率、且つ安定してコントロール出来る技術であるという観点が成り立つと言えます。
これを越えるブレイクスルーには、例えば「電力以上に様々な変換が出来る新エネルギー」や「素粒子の挙動を高効率で制御出来る理論」等が必要になるという所でしょう。
現代技術や学術は時に「空想」や「エンターテインメント」とされる領域が拡げていったともされるので、様々な作品が生み出されていく事に期待したいと思うばかりです。
※画像はイメージです。
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