現実とも言い切れない現実

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これは現実そのものに対する違和感の話です。
晩秋に差しかかる頃の夕暮れ、スーパーで買い物を終え、何気なく空を見上げた瞬間、明らかに「おかしい」と感じる光景に遭遇しました。

最初は変わった雲だと思った。しかし、全体を視界に収めようとした途端、その認識は破綻したのです。
空に浮かんでいたのは、自然物としては説明しづらい、あまりにも整いすぎた巨大な構造のようなものでした。

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巨大すぎるため、全体像が把握できない

写真は撮影しているが、対象が大きすぎてフレームに収まりませんでした。
慌てて何枚か撮影したこともあって、それぞれの写真だけを見ると「少し不自然な雲」にしか見えません。
しかし、実際に肉眼で見た印象はまったく違うのです。

それは雲というより、空間そのものに貼り付けられた平面的な構造のようなもの。
奥行きが希薄で、立体というより「表示されている」感覚に近く、大きさは数百メートルに見えた。
少なくとも、局地的な雲塊では説明できないサイズ感でした。

最も異様だったのは、その存在感。
浮いている、というより「そこに固定されている」、動いていないのに自然物らしい揺らぎが乏しい。
このとき、奇妙な考えが頭をよぎったのです。
「これは空にある“物体”ではなく、空間の仕様そのものが見えてしまったのではないか?」

近年、世界の仮想現実説(シミュレーション仮説)というものが語られている。
この世界は高度な計算機上で動作するシステムであり、我々の現実はレンダリングされた結果に過ぎない。
もしそうだとすれば、通常は不可視のはずの境界や処理単位が、何らかの条件下で露出する可能性は理論上ゼロではないでしょう。

夕暮れという低照度、斜光、雲による反射、視点の固定。
それらが重なった結果、本来は見えないはずの「表示の継ぎ目」や「処理の平面」が、視覚的に浮かび上がったと考えると、あの不自然な平坦さと巨大さは説明がつく。

自然現象か、仕様のバグか

周囲に人はいなかった。正確には、いたのかもしれないが、誰一人気づいていないようでした。
それに、夕暮れのスーパー駐車場で、空を見上げて立ち止まる人間はあまりいませんし、仮に視界に入っても「変わった雲」で思考停止するのが大半です。

異常は、注意深く観測した者にしか異常と感じません。
これは怪異でも超常でもなく、人間の認知の限界の問題です。

もちろん、気象現象で説明できる可能性はあります。
高層雲、風の剪断、夕陽による陰影強調。
ですが、それらをすべて加味しても、あの「平面性」と「構造感」は説明しきれません。

その後、しばらくして空を見上げると普通の夕焼けに戻っていましたが、「ただの雲」で片付けるには違和感が強すぎます。

もしこの世界が仮想現実だとするなら、あれは世界が一瞬だけ、内部構造を隠しきれなかった痕跡が見えてしまったとしか言えず、そう考えると、あの光景が無機質だった理由にも説明がつきます。
現実が、ほんの一瞬だけ「背景」になった。
あれは、そんな感覚でした。

その後、気づいた些細な違和感

この体験以降、ごく些細な違和感が残りました。
世界が劇的に変わったわけではなく、物理法則が壊れたわけでも、空に異物が常時見えるようになったわけでもない。

ですが、確実におかしい事が身の回りで起きているのです。
たとえば、私の本名は「斎藤」で、少なくとも、そう認識して生きてきました。
ところが、運転免許証を見ると「斉藤」になっています。
健康保険証も同じで、公的な記録も、私的な記録も、すべて「斉藤」で統一されているのです。

もちろん、最初からそうだった可能性はあり、記憶違い、思い込み。
でも一つだけ、「苗字を書くとき、画数が多くて面倒だと思った記憶」という記憶が残っています。
斎藤と斉藤では、書く手間が違う。
それが、いつから、どこで、どう変わったのかが思い出せません。

仮想現実説からすれば、これは奇妙でも何でもないのかも。
世界が計算機上で動作しているなら、修正されるのは「現実」ではなく「データ」。
表示上の整合性を取るために、ごく一部の情報が書き換えられ、それに付随する記憶だけが曖昧なまま残る。
致命的な矛盾は消されますが、どうでもいい差分までは完全に消去されないでしょう。

空に見えた巨大な構造と、苗字の一文字の違い。因果関係を証明することはできません。
それでも、あの日を境に「現実は絶対に固定されたものではない」と思うようになったのは確かです。

世界が変わったのか、それとも、こちらが別の“保存状態”に移動しただけなのかは解りません。
ですが、空に違和感を見たあの日と、名前に違和感を覚えた今は、自分の中では一本の線でつながっているのです。

※画像はイメージです。

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